米ブッシュ大統領は、イラクに対する軍事攻撃を既定の方針として動き出しているようである。あとは攻撃開始の時期をめぐって、11月5日の中間選挙をにらみながら、それを有利に進めるために前倒しするのが得策か、後に伸ばすのが得策か、状況を見ながら判断するものと見られる。 (編集部)
闇雲に戦争にひた走るブッシュ
他国の反応は、イギリスを除いて世界各国が新たな国連決議なしにイラク攻撃に踏み切ることに反対を表明しており、そうした動向を受けて、米英国内での世論調査でも、イラクへの軍事攻撃支持は半数近くにまで下がってきている。
しかし、一国主義を押し進めるブッシュ政権は、最終的には軍事攻撃を実際に開始すれば、他国の反対など押し切れると思っているだろうし、国内世論も、実際に戦争になれば支持が高まると踏んでいるであろう。当面、イラク攻撃の環境を整えるため、内外への働きかけを強めていくであろう。
9月4日には、米国内世論および議会対策を開始した。共和・民主両党の連邦議会指導者あてに書簡を送り、「アメリカと文明社会は、今後数ヵ月内に重大な決定に直面する」と述べ、イラクに対する軍事攻撃について、数ヵ月以内に決断を下す方針を表明。また、ホワイトハウスで行った連邦議会指導者との協議では、イラクに対する攻撃に踏み切る場合は、事前に議会の承認を求めることを明言した。11月5日の中間選挙を前にして、連邦議会は10月半ばに休会になるので、それまでに議会での承認を求める可能性が高い。3日には、英ブレア首相と米ラムズフェルド国防長官がイラクの大量破壊兵器開発の証拠を近いうちに公表すると発表した。アフガン空爆前にウサマ・ビン・ラディンが9・11事件に関係しているとする「証拠」を示したのと同じ類の、国際世論操作のためのアリバイに過ぎないであろう。
ブッシュ政権内や共和党内でもイラク攻撃について意見が分かれていることが、報道されている。チェイニー副大統領は、イラクが査察を受け入れるかどうかに関係なく先制攻撃すべきだと主張し、長らく沈黙していたパウエル国務長官は、英BBCとの会見で、国連の査察再開を最優先させると述べた。慎重論側の根拠は、第一に、アメリカ経済の先行きが不透明な中でイラク攻撃が経済にどう影響するか不安があるということ、第二に、米議会予算局が2002年度会計年度の財政赤字が1570億ドルに膨らむとの見通しを明らかにしている状況の中で、各国の積極的協力を得られなければ戦費調達をどうするか、という問題、第三に、アラブ諸国、とりわけサウジアラビアやカタールが反対している中で、地上戦を想定する場合、どこを出撃拠点にするか、といった問題である。しかし、ブッシュがそれをどこまで考慮する能力を持っているか疑問である。
ブッシュ政権の真のねらい
「イラクは、国連による大量破壊兵器査察再開に応じないならず者で、独裁者のフセインは核兵器や生物兵器などの大量破壊兵器を開発し、テロ組織と組んでアメリカや世界の脅威となる、だから先制的に攻撃しないといけない」という論理である。
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9.11犠牲者追悼式典での
ブッシュ。犠牲者の家族は、
「故人を戦争に利用する
な!」と訴える |
しかし、カナダのクレティエン首相は記者会見で、フセイン政権に査察受け入れを求めると共に、「(フセイン大統領は)決して偉大な民主主義者ではないが、他国でも同じような例はある」「大量破壊兵器を製造することと、テロリストであることは必ずしも一致しない」と、非常に的を得た批判を行っている。
例えイラクが国連の査察を受け入れなかったとしても、それが即、軍事攻撃していいという話にはならないし、ある国の指導者が好ましくないからといって、他国が軍事力で直接攻撃していいという話にはならない。
ブッシュの真の目的は何か。第一に、純粋に政治的な動機である。ソ連崩壊以後、唯一の超大国アメリカは、反米的な国家の存在を認めない。少しでも隙があれば潰そうと機会をうかがっているのである。ユーゴ空爆もそうである。ブッシュは、イラク・イラン・北朝鮮を「悪の枢軸」と名指し、「2002年は戦争の年である」と宣言した。「反テロ」を口実に、反米国家は順番に潰していくと宣言したのであり、そのとおりに動いている。
第二に、よく知られているように、ブッシュ政権の基盤は軍需産業と石油産業である。米国の軍事費は、2002年2月に提出された2003年度予算教書では、前年度比12%増の約3793億ドルに一気に膨れ上がった(2002年度も前年度比15%増)。ブッシュは、8月初めには対テロ追加予算として289億ドルに署名した。アフガン戦争から「反テロ戦」を拡大していく中で、米軍事産業は膨大な利益を得ている。
また、1998年から1999年の統計では、米国は全エネルギーの25.6%、石油の58.4%を輸入に頼っており(『世界』9月号・青山貞一論文による)、石油、エネルギーの安定的な確保は、米国にとって死活的な問題である。中東5ヵ国の石油埋蔵量は世界の63%、旧ソ連諸国と中東諸国を合わせた天然ガス埋蔵量は世界の70%を占める中で、中央アジアから中東地域に至る地域が戦略的に重要な地域であることは明らかである。当然、ブッシュ政権が石油業界の利権に絡んでいるのは言うまでもない。
いかにブッシュが大義名分を振りかざそうとも、そのことは見え透いている。ただ、誰も唯一の超大国を、正面きって批判しようとしないだけである。
どうにでも転ぶ国家レベルの攻撃反対論
英国では、キリスト教会関係者がイラク攻撃に反対を表明したり、8月28日のガーディアン紙世論調査でイラク攻撃反対が50%、支持が33%の結果が出たりしているが、ブレア首相は7日のブッシュ大統領との会談で、断固支持の態度表明をした。
明確にイラク攻撃に反対を表明しているのは、独のシュレーダー首相である。国連で再決議が行われてもイラク攻撃には参加しないと表明し、イラク攻撃があった場合、クウェートに駐留しているドイツ軍も引き上げると言っている。9月総選挙の争点にして、劣勢の巻き返しを図るという思惑もあるようである。
カナダのクレティエン首相も前述したように適切な批判を行っているが、基本的には国連主導による解決を求めるスタンスである。仏シラク大統領も国連中心の解決を求めているが、イラク攻撃反対のトーンが弱い分、ぶれる可能性がある。ロシア、中国は明確に反対しているが、国益最優先で、取引材料を与えられるといつでも態度を変えるのが今のロシア、中国の外交である。
5日のアラブ外相会議では、イラク攻撃は「アラブ社会への脅威とみなす」として反対決議を採択し、アラブ連盟のムーサ事務局長は、イラク攻撃は「中東の地獄の扉を開ける」として、強い調子で非難した。
相変わらず明確な態度表明をせず風見鶏なのが、日本である。小泉政権の本音は、米国を支持し自衛隊を派遣したいのだろうが、今のところ国際世論の反発があまりにも大きいので、もう少し賛成できる環境作りをしてほしいというところである。
国連のアナン事務総長は今のところ国連中心の解決を呼びかけているが、イラクに対する期限付き査察受け入れ要求を決議するなどして、イラク攻撃への環境を整える役割を引き受ける可能性がある。
今、一見してイラク攻撃反対の国際世論が大きいように見えるが、米国が強行に出た場合、国家レベルで明確に反対できる国がどれほどあるか疑問である。むしろ、国連にイラク攻撃の環境作りの役割を担わせる可能性は大である。「核開発の証拠」や「テロ組織との関与の証拠」、「査察受け入れを求める国連決議」といった形を整えるだけで、主権のある一国に対する軍事攻撃を容認するようなことがあっては断じてならない。人民レベルではアメリカの横暴はますます明確になってきており、イラク攻撃反対の国際的な連帯運動が求められている。
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