IT社会の「プライバシー」
という幻想

エシュロン・住基ネット・Nシステムで、あなたの頭は丸裸
君はもうこの監視ネットから逃れることはできない

2002年 7月5日
通巻 1115号

 FBI(米連邦捜査局)、CIA(米中央情報局)、NSA(米国家安全保障局)、IRS(米国税庁)、ATF(アメリカ教育連盟)、BATF(米アルコール・タバコ・火器局)、DOD(米国防総省)、WACO(ウェーコ)、MILITIA(米国民軍)、GUN(銃器)、HANDGUN(拳銃)、MILGOV(軍事政府)、ASSAULT RIFLE(突撃銃)、TERRORISM(テロリズム)、BOMB(爆弾)、DRUG(薬物)、DAVIDIAN(ダビディアン教団)、KAHL、POSSE COMITATUS(民兵隊壮年団)、SPECIAL FORCES(特殊部隊)、SPECIAL OPERATIONS GROUP、SOG、SOF(以上3つ特殊戦部隊)、DELTA FORCE(デルタ部隊)、CONSTITUTION(憲法)、BILL OF RIGHTS(権利章典)、ARKANSIDE、IRAN CONTRAS(イランコントラ)、OLIVER NORTH(オリバー・ノース=イランコントラ関係者)、MOSSAD(モサド=イスラエルの情報機関)、NASA(米航空宇宙局)、MI5(英国諜報部)、ONI(海軍情報部)、CID(ロンドン警視庁刑事部)、AK47(旧ソ連製突撃銃)、M16(米軍突撃銃)、C4(爆薬)、MALCOLM X(マルコムX)、REVOLUTION(革命)、HILLARY、BILL CLINTON(ヒラリー/ビル・クリントン)、GEORGE BUSH(ジョージ・ブッシュ)、WACKENHUT、TERRORIST(テロリスト)、TASK FORCE 160、SPECIAL OPS、12TH GROUP、5TH GROUP、SF(以上5つ特殊部隊関係)。

 もしあなたが、上記の単語が入った電子メールを誰かに送ったら、その電子メールと共にあなたと受信者はまず間違いなく米国家安全保障局(NSA)のコンピューターに登録される。そして、あなたが人民新聞読者であり、米国の行う戦争に反対する運動でもやっていることが判明しようものなら、あなたの過去は洗いざらい調査されるだろう。そして、「テロリストではない」との確証が得られるまであなたへの監視は続くかもしれない。
 あなたはどのように監視されるのか?
 もしあなたが携帯電話を持っているのなら、あなたの居場所は24時間完全に把握できる。携帯電話は常に電波を発しており、監視者は、その電波で2〜3メートルの誤差内であなたの居場所をリアルタイムで把握することができる。
監視活動をする人工衛星 もしあなたが自家用車を持っていたなら、3年前に家族旅行で行った温泉地までのルートは、道路の通過時間も含めて、「Nシステム」に記録が残っている。もちろん同乗者の顔写真もだ。これはSFではない。もし、あなたが監視の対象ならば、現在の日本で行われていることなのだ。
 韓国では軍政時代の1967年に全国民に12桁の住民登録番号がつけられ、その後「便利さ」ゆえにこの番号はあらゆる生活の場面での利用が進み、今や住民番号なしで韓国に暮らすのは不可能だといわれる。図書館で本を借りるのにも、ビデオ店でビデオを借りるのにも、ホテルに泊まるにも、この番号がなければできないのだ。
 IT社会では、図書館・ビデオ店・ホテルや病院などがすべてインターネットでつながれる。「便利」にはなるが、一方で個人番号がわかれば、その人の読む本や好きなビデオの傾向、罹った病気や財産など、その人の過去の情報がいっぺんにわかってしまうということだ。
 日本でも8月5日から、国民全員に番号をつけて一元管理する住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)がスタートする予定だ。人民新聞では、グローバル盗聴システム「エシュロン」や、車のナンバーと運転者の顔貌を盗撮し、一瞬で解析、手配ナンバー・手配者と照合するという「Nシステム」について、しつこくレポートしてきた。住基ネットのスタートに際し、市民監視技術の今をレポートする。「プライバシー」なんぞは、もはや幻想でしかない。

(編集部)


スーパーボウルで実施された監視カメラ+顔面認識技術
 昨年3月、米国フロリダ州タンパで開催された第35回『スーパーボウル』。州警察は、会場入口を通る観客全員の画像を収録し、犯罪者の顔を集めたデータベースと比較したという。顔面認識技術とビデオ監視を連動した監視活動が行われたことになる。このシステムはテロリストなどの犯罪者を捕えるために開発されたといわれるが、結局はほんの一握りのスリやダフ屋を逮捕するだけに終わってしまった。

ウェストヴァージニア州tamの人工衛星地上局
ウェストヴァージニア州
tamの人工衛星地上局。
インテルサット4経由で
欧州・合衆国に接続している


 新宿にも、これと同じシステムがすでに配備されている。昨年3月警視庁は、新宿区歌舞伎町に50台の防犯カメラを取り付け、運用を開始したと発表した。カメラでとった画像は「光ファイバー」で警視庁と新宿署のコンピューターに送られ、基本的には1週間保存されるという。警視庁は、顔面認識技術との連動は言及していないが、技術的には十分可能であり、「要監視」である。
 監視カメラは、1966年から大阪西成署管内・釜ヶ崎でも実施されてきた。ご存じのとおり、釜ヶ崎は日雇い労働者の街。西成署は監視カメラ15台を配備し、リモコンで盗撮を行ってきた。これに対し住民が撤去請求訴訟を提起し、住民が一部勝訴した。裁判所もさすがに、労働組合事務所をターゲットにした監視カメラについては撤去を命じたのである。
 IT社会では、このカメラに顔面認識技術を連動させ、特定の人物をヒットさせることは簡単だ。さらには、こうした監視システムを運用する政府機関が自ら選んだ特定の好ましからざる団体の所在地にカメラを設置し、出入りする人間を全てチェック・照合・分析し、「好ましからざる人物」のリストを作り、情報を集積することなど、朝飯前となる。


巨大盗聴・監視システム=エシュロン
 1994年、欧州企業のエアバス社がサウジアラビアに旅客機を売り込むため賄賂を送ろうとしていることが判明。代わって米・ボーイング社が受注に成功した。贈賄事件は、「エシュロン」による電話盗聴によって発見され、ボーイング社は受注競争に勝利した。
 日本の企業とて、盗聴の対象となっている。1993年9月クリントン大統領はCIAに対して、大気汚染排出ガスがゼロの自動車を設計していたホンダををスパイし、その情報をフォード・ゼネラル・モータースとクライスラーに送るよう要請している。

カムチャツカ沖に合衆国潜水艦が設置した盗聴容器

カムチャツカ沖に合衆国
潜水艦が設置した盗聴容器

 1993年、クリントン大統領は、アメリカ企業の競争力を増すために、商務省内に諜報連絡部を設置した。米政府は、「国家の安全保障」という語を定義し直して、有力アメリカ企業の海外での競争相手をスパイすることも、その活動の中に取り込んだ。スパイ情報を一部の「選ばれた」企業に対して与えるためである。
 産業スパイにエシュロンを利用するという現在の傾向で注意すべきは、NSAとエシュロンの技術を開発・提供している企業との親密な関係である。産業スパイ情報を受け取っているロッキード、ボーイング、ロラル、レイセオンなどの企業のほとんどは、エシュロンを構成する数多くの諜報システムの製造と運営に積極的に関与している。こうした巨大企業は、同時に民主・共和両党へ多額の政治献金を行っている企業でもある。
 エシュロンは、盗聴の概念を変えたと言われている。昔から各国の情報機関は他国の通信情報を傍受したり、暗号の解読に精を出してきた。しかし、それは目的や対象を絞った盗聴行為であり、いわば「一本釣り」のやり方だ。ところが、エシュロンは不特定多数の通信を網(ネット)ですくいあげる。これは、各国の安全保障上の情報収集として暗黙のうちに認められてきた盗聴活動の概念を超えている。

アメリカ・国家安全保障局
米・国家安全保障局

 エシュロンの真価は、まさにここにある。あらゆる通信を傍受し、傍受された通信内容の暗号を解読し、フィルターをかけ、検討したいくつかのカテゴリーに分類して集積し、運営者の手元に届けるのである。つまり、諜報機関にとって重要性の高いメッセージのみを取り出す能力にある。その処理能力は、1時間数百万件。1日24時間、週7日間休むことなく稼働し続けて、標的とされる一連のキーワード、電話およびファックス番号、あるいは特定の音声パターンを探し続ける。
 さらに驚くべきは、世界最大のコンピュータソフト会社マイクロソフト社は、NSAが侵入できるように、ウィンドウズに裏口を作っていると主張する科学者もいる。セキュリティー・ソフトウェア企業・クリプトニム社の主任科学者であるアンドリュー・フェルナンデス氏は、大半のウィンドウズOSのセキュリティー中核部分への秘密のアクセスキー『NSAKEY』を発見したという。
 元NSA職員の1人はこう言っている。
 「じゃあこう言いましょう。誰でもインターネットの検索エンジンにキーワードを入力することができますし、数秒以内に何万件という検索結果を得ることができますよね」
 彼はしばし沈黙してから、こう続けた。
 「技術の最先端にいる人たちは、あなたがやっているようなことよりもはるかに進んだ、我々の想像を超えるたことを実行できる能力を持っている、と思って下さい」


車Nシステムから人間Nシステムへ
 Nシステムは、ここ数年で大きな「進歩」を遂げた。設置個所は、全国400ヵ所(1999年)から700ヵ所あまり(2002年)に増殖。その容姿も小型化し、より秘匿性が高まり、「知らぬ間に監視」されている可能性が高まっている。しかし、最大の進化は、画像パターン認識能力の向上により、車両ナンバープレートだけでなく、運転者の顔貌・車体形状の3位1体で、認識・照合が可能となったことだろう。ソニーやオムロンなどが開発している顔認識技術だと、狙った人物の顔写真データを監視カメラのバックアップシステムに入力しておくと、その人物が通りかかっただけで分かってしまう。
 「車両Nシステム」は、顔認識技術の向上により、「人間Nシステム」へと成長しつつあるということだ。人間Nシステムは、道路上だけにとどまらない。愛知県警は、2002年度から県内のコンビニエンス・ストアにデジタル監視カメラを設置し、所轄の警察署とネットで直結させるという。いずれ、全国数十万のコンビニ店舗のことごとくに監視カメラが置かれ、地域住民を監視下に収めることになりかねない。
 これら監視技術を統合する核となるのが、住基ネットとなるかもしれない。当面でこそ住民の居住確認以外の目的には用いないとされているが、いずれ健康保険証や交通免許証、また鉄道定期券や銀行のキャッシュカードなど、官民を問わずあらゆる個人サービスの領域で広がるICカード化と連動せずにはおかない。膨大な記憶容量こそがICカードの最大の特徴であり、全てを繋ぎ、統合してこそその意味があるからである。
 住基ネットについては、次号白石氏(プライバシーアクション代表)インタビューに繋げたい。乞うご期待。

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人民新聞社

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