グローバリズムという名の

多国籍企業侵略

フィリピン・セブ島訪問記 (木下達也)

2002年 5月5日
通巻 1109号

ODA主導の大型プロジェクト

 4月21日、日曜日の夕方、私達は長野は下伊奈のりんご畑に花摘み(援農)に行った帰りの車中にあった。友人達と仕事の合間に脚立の上から垣間見た、雄大な南アルプスの残雪の美しさをゆっくり噛みしめ、味わい、夢想していた時だった。車中でニュースを見た友人の思いもかけない言葉が、一瞬にして私を重い現実へと引き戻した。『ミンダナオ島で、モロ(MNFL)の自爆テロ、15名死亡!』…。私はつい1週間前、同じフィリピンのセブ島にいた。そこで私が見聞き、体験したことをもう1度フィールドバックしてみよう。そしてフィリピン人民の悲惨な現実と彼らの叫び声に耳を澄まそう。
 フェア・トレード、最近よく耳にする言葉だ。第3世界の経済的、政治的、社会的にもさまざまな厳しい条件で暮らす人々、たとえば、国連の報告によると、現在世界人口60億人のうち、約5人に1人にあたる12億の人々が1日1ドル(約120円)の支出もままならない生活を強いられているという。そういう人々とオルタナティブ・トレードし、第3世界の人々の生活を支援し、協力し合っていこう。言うならば国際版の産直運動ということなのだが、私達は機会があってセブ島の「SPFTC」(サザン・パートナー・フェアトレード・コーポレーション)との間で、ドライマンゴーをフェアトレードしようということでセブ島へ飛んだのだった。
 去年の9月11日の同時多発テロ以来、関空―セブ島の直行便は今はなく、マニラ経由でマクタン島に到着したが、私達を迎えてくれたのは、前述した「SPFTC」のリーダーの女性だった。彼女によると、SPFTCはSPANという人民組織を母体として、ODAの現状を調査、リサーチし、各コミュニティーの団結を促しながら、農民達の自立のため、マンゴーの加工などをしているようだ。
 我々はまず、そのマンゴー農家を訪ねることにした。セブシティから車で約2時間ほど山間の道を登って行く。見ると山肌が大きく削り取られ、こんな所でどうして?って思われるような道路工事が進められていた。聞いてみると、セブ地域総合開発計画、セブ2010というODA・JICA主導の大型プロジェクトで、2010年に第2のシンガポールを目指して、アジアの中心になろうという政府の方針なのだ。私達がこれから後、目にすることになるセブ島の自然破壊と社会問題は、このODAマスタープランが基本にある。


帝国主義的バカヤロー!

 多国籍企業、特に日本の企業のためのリゾート開発やゴルフ場建設、企業の名を冠した日帝主義のあさましさには、目を覆いたくなる。小さな農家が寄り集まっているそのコミュニティで、この家の長男だという男性に話を聞いてみる。汗を流してマンゴーを作っても、その利益のほとんどは土地の使用代として地主に吸い上げられ、自分達には少ししか残らず、他の子ども達もみんな学校にも行っていないという。そもそも、フィリピンのたった3%の大土地所有者が、フィリピン全土の70%の資源を所有しているという、この国の大土地所有制度が諸悪の根源なのだ。
 それに、アメリカや日本をはじめとした多国籍企業の侵略が、グローバリズムの旗印の下、この国の貧富の差をますます拡大することに拍車をかけている。もともと、この国の先住民達は土地を所有するという概念すらなかったという。土地など皆の共有財産であり、調和しながら仲良く使っていたのだ。力のある我がままな奴が勝手に線を引き、私有財産だなどとのたまったのだ。どこの国々にもいる、帝国主義的バカヤロー!だ。日本のりんごと同じように、大きなマンゴーの木の1つ1つの実に被せられてあった日本の新聞が印象的だった。


立ち退きを強いられる漁民

セブ島の海がODAで埋め立てられ、漁民は追い出され、海は死んでいく...

↑ ODAの埋立で漁民は
追い出され、海は死んでいく

 山を降りて、SPFTCのドライマンゴー加工場を視察した我々は、同じセブシティの漁村のコミュニティを訪れた。到着したのがすでに夕方だったので、実際の海を見ずに漁民達と話をした。彼らによると、「ODAの湾岸道路建設工事のため、漁場が荒れ、魚がほとんど取れなくなってしまったが、自分達は先祖代々魚を取ることで生活しているので、他のことは何もできない。すでにすぐ隣の漁村は取り壊され、強制立ち退きを強いられているが、自分達はあくまでこの土地に残り闘う」と言う。
 私達が視察の目的を話すと歓迎され、漁村の広場で行われた団結集会に急きょゲストスピーチし、連帯の意思を表明した。海辺のゲストハウスの庭で一夜を明かした私達は、朝、散歩をしょうとして海岸を歩いてみる。
 この海がかつて彼らの自慢だった海なのか。その朝初めて見る海の荒れ模様に驚いた。まったく不要の湾岸道路建設(セブシティイとタムサシティを結ぶ)、工事中の大きな橋の横には、東亜コーポレーションと書かれた重機。この現実と、このプロジェクトの資金があなた方日本人の税金で支払われていると言われたとき、この現実を前に私達は言葉をなくした。


公害垂れ流しの企業侵略

 気の重い朝食のあと、次に訪れたコミュニティはもっと悲惨だった。
 ボートハウスの上に作られたそのコミュニティへは、フィリピン独特の例のバンブーをすのこ状態で渡した橋を渡って行くのだが、見ると下は既にヘドロになっていた。最近まで漁ができたきれいな海がODAの埋立のため堰止められ、潮の満ち引きがなくなり、自然の浄化作用が失われ、機能しないのだと言う。
 リーダーに話を聞いてみると、漁はまったくたたなくなり、収入が全然ない。自分は身内を頼ってどこか他の土地へ行こうかと考えている。子ども達はストリートチルドレンになるか、女の娘が体を売って生活している家もあるという。バンブーの橋を奥へ奥へと歩いて行くと、漁村の一番突端へ出る。
 リーダーが指さす中州のよな所まで、かつては潮が引いた時は歩いて行け、魚もたくさんあがったという。遅かれ早かれ、ここも埋め立てられ、彼らも行き場所をなくしてしまうだろう。埋め立てられたあとには、日本の製薬会社が何社も名乗りを上げているという。ここでもまた、公害垂れ流しのグローバルな企業侵略が行われるのだろう。
 次に訪れたコミュニティでは、漁がなくなったため、生魚を市場から買ってきて、村で干物加工し、かろうじて生活していた。
 ラビリントスのような露地を奥へ奥へ、さらにディープな場所へと入って行く。見るとすぐ横には、国立のマリーンスクールがあり、この大金持達のためだけの学校の拡大のため、ここでも住民達は自分達の住む土地を役人の持ってくる紙ペラ1枚で立ち退かされ、あとには代替え土地も何も保証がない。
 奇しくも、3ヵ月前にその紙1枚で取り壊された家の残骸を見た。この国では基本的人権などまったくなきに等しい、住んでいる人々の人権、生活権など一切認められていないのだ。
 豊かな大自然を切り売って不要な道路や橋を作る箱物建設。日本および他の多国籍企業のためだけのリゾート開発プロジェクト。これらの乱開発によってもたらされる利益は、ちゃんと日本に還元されるシステムになっている。農民には土地借用のローンが残り、いまだに子供達は学校に行けない。これらは、グローバリズムの名のもとに行われる侵略に他ならない。


第3世界の人民に熱き連帯を!

 グローバリズムという新しいネーミングを手にした奴らは、ますます第3世界の人々の貧富の差を拡大させているのが現状だ。
 選挙さえ正当に行われ得ないこの国では、政府と軍部が一緒になり、多国籍企業の片棒を担ぎ、人民の叫びを抹殺しているのだ。
 私達の帰る夜の連帯集会のあと、セブシティを一望できる丘の上で、私達は日本語と英語で「ワークソング(インターナショナル)」をみんなで一緒に歌った。私はこの夜の思い出と素敵な笑顔のセブの子ども達の顔を忘れない。
 そして私達には、彼らがどのような状態に置かれているのか、日本のいろいろな人達にいろんな場面で、プロパガンダしてゆく責任があるだろう。一緒に行ったメンバーそれぞれが、自分の場所で歌い続けよう。
 私の右腕には、リーダーが自らはめてくれたミサンガが、連帯の証として結ばれている。グローバリズムを打倒する一角獣、幸せを運ぶユニコーンの意思の誓いだ。
 ソリダリティ イズ ア パワー! そして、第三世界の人民に熱き連帯を!!

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