有事法制3法案を強引に国会提出
小泉政権はこの4月16日、首相官邸で安全保障会議と臨時閣議を開き、ついに有事法制関連3法案を決定。翌17日午前に国会衆議院に提出した。
2月初め、日本の安全保障の基本理念を示すとした安保基本法の制定を断念した小泉政権は、有事法制をこの国会で成立させるという既成事実を進行させるため、「できるところから始める」として、(1)今後の関連法案整備の促進と手続等を盛った「緊急事態法制整備促進包括法案」(仮称・新法)、(2)自衛隊の行動を円滑化する自衛隊法改正、(3)米軍にも自衛隊同様の特例措置を設ける法案(新法)、(4)安全保障会議設置法改正案(新法)、の4法案提出を目指してきたが、3月20日、(3)の自衛隊と共同対処して日本国内で活動する米軍の行動を円滑化するための新法の制定を見送る方針を明らかにし、いわば見切り発車の形で、今回強引に有事関連法を国会に提出した。
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観閲台に向かう中谷防衛庁長官、
左は直海空挺団長 |
法案は4月26日に衆院本会議で趣旨説明が行われ、現在実質審議に入っている。新たに提出された法案は、次の3法案となった。
(1)武力攻撃事態における国の平和と独立並びに国民の安全確保法案
(2)自衛隊法改正案
(3)安保会議設置法改正案
しかし、見切り発車された有事関連法促進包括法案は、名前が「武力攻撃事態における国の平和と独立並びに国民の安全確保法案」と大きく変わり、内容も変わった。政府はこの法案の略称を「平和安全法案」とよび、マスコミ各社は「武力攻撃事態法案」と呼んでいる。どちらも法案の内容を正確に表現しているとは思われない。
地方自治体・民間団体に対しても命令権
(1)の「武力攻撃事態における国の平和と独立並びに国民の安全確保法案」は、何らかの不測の非常事態に、危機管理のためにやむを得ず平時の法秩序(基本的人権等)に制限を加えるという非常事態法制(有事法制)の基本的枠組みからも大きく逸脱している。あえて言えば、武力攻撃事態というのは法案の枕詞に過ぎない。武力攻撃のおそれのある事態は言うに及ばず、武力攻撃が予測される事態へと恣意的に範囲は拡張され、4月18日、中谷元・防衛庁長官は、国会の衆院安全保障委員会で「周辺事態とは異なる概念だが、周辺事態との併存はあり得る」と述べるに至った。
ありていに言えば、自衛隊と米軍がより自由に、円滑に行動するため、地方自治体・民間あげての協力を義務づけるための法案であって、それ以外の何者でもない。しかもその軍事作戦は長期にわたり、そのために物価統制や配給の条項までが盛り込まれている。法案のメインになっているのは、「〜の責務」「〜の務め」として列挙される地方公共団体や、銀行・赤十字・電気・ガス・輸送などの必要とされる民間法人、NTTはじめ通信機関への命令権の確立であった。
(2)「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律(自衛隊法改正案)」は、上の目的を達成するための現行法に対する適用除外の規定や、特例措置を列挙したものであり、必要なら次の段階で条文の中の「自衛隊」を「アメリカ軍」に変えて、2つそろって完成させることが予定されている。そして、(3)の「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」は、上の目的に添った安全保障会議の強化法案だ。
全体を隠し、見切り発車の「国民動員法」
それは「非常事態(有事)法」などという生やさしい言葉をはるか越えた「国民動員法」であって、そういう意味では、本国会でこれらの法案と同様に最重要法案とされている個人情報保護法案、人権擁護法案などメディア規制3法案、つまり報道管制を狙った、同じ目的を持った一体の法案と考えるべきだろう。そして、今の時代に「戦時」という特別の時間が存在するとは限らない。対テロリズムを口実とした軍事世界戦略の発動は、決して戦時と平時を分けていないし、とりもなおさず、この法案が対象にしているのは、私たちの日常生活そのものだと言わざるを得ない。
それだけではない。この154国会では、予防拘禁へと続く、保安処分の復活を盛り込んだ「心神喪失者医療観察法案(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案)」までが提出されており、すでに審議が始まっている。
見切り発車されたこれら法案は、法として欠陥だらけのまま、また、全体像を隠したまま、どさくさに紛れて「戦時法」の既成事実を作るとんでもない代物だ。
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