自分の首は自分で守れ
ゼネコン中堅の青木建設が会社更生法適応を申請。いよいよ小泉流「構造改革」がその本姿を見せ始めた。給料はダラ下がり、失業率・自殺者数は勢いよく右肩上がりのとんでもない「改革」だ。これまで首をすくめて同僚へのいじめや退職勧奨を見て見ぬ振りをしていたお方も、いよいよ明日は我が身。この大量失業時代をどう乗り切るか?
中堅ゼネコン=フジタで、しぶとく労働者の魂を守り、全港湾建設支部で労働法関係の専門家として活動を続けてこられた中村猛さんに、話をうかがった。中村さんは、「自分の首は自分で守れ!」を原則としながらも、キビシイ時代に切り込む労働者の戦略が必要と語る。(見出し・編集部)
個別企業別の対応では大失業時代を乗り切れない
――大阪は、全国平均と比べても失業率が高いようですが。
全国が5.3%に対して、近畿は、6.5%位ですね。解雇も多いし、相談はたくさんありますが、私たちの労働組合は、残念ながら個別の対応に終わっていて、失業率が高いという全体状況そのものに対しては何もできていないですね。
個別の対応にははっきり限界があります。例えば、会社が10人のうち3人やめてもらわないと会社が保たないという提案した場合、会社の経理内容を分析してみたって大方は「やむを得ない」ということにしかなりません。せいぜい再雇用先を確保させるくらいしかできないのです。会社が労働者にウソをついて金を隠しているのなら「けしからん!」となるのですが、数字の悪い会社ほど正直に言いますからね。
数字を見せられて首を切らないと会社が保たないと言われれば、人間を減らすか、賃金を下げるか、共倒れするかの選択しかないわけです。共倒れするというのは組合の方針になりません。解雇にまで行かなくても、サービス残業や賃金カットなどが行われます。もっとも大きな問題は労働者の権利がどんどん奪われて、自由にものが言えなくなることです。
このように労働組合が、個別企業の中で対応をしている限り、企業に対しても労働者に対しても影響力を失うということにならざるを得ないのです。本来であれば、政党や、ナショナルセンターが「全体状況をどうするか」、対策や方針を出して指導力を発揮すべきなのでしょうが、残念ながらそれが十分にできていません。対案勢力になっていないのです。
とりわけ私が働く建設業は、構造改革の主要なターゲットにされているわけですから、業界全体の雇用対策、労働者対策、あるいは地域での雇用対策といったものが必要なはずなのですが、これを出すところがないのです。
建設業の場合、全体としては縮小していく業界で、かなりの労働者が吐き出されていくのですが、これがITで救われるかといえば、そんなことはまずないでしょう。全国的なトータルな数字としてはそうなるのかもしれませんが、実際の個々の労働者やここの企業にはそんな対応は無理なのです。昨日までスコップ持ってた人にパソコンの前に座れというのはどだい無理なことです。しっかりしたセーフティーネットの構築が必要なのです。ヨーロッパ並に失業保険が2〜3年くらい出るということなら、その間にしっかりと職業訓練を行い、再就職先を見つける可能性も生まれて、状況はかなり変わってくると思います。政府の雇用対策には、具体的な雇用への道筋が全く見えてきません。
解雇労働者の優先雇用制度
――政府の総合規制改革会議が、解雇をしやすくするために、解雇ルールを法制化するとの「意見書」を提出しましたが。
これまで、整理解雇については、整理解雇4要件というのが定着してきたのですが、これは、法律ではなくてあくまで判例です。もし裁判で闘えば、4要件を守らなかった整理解雇事件については、労働者が勝つ可能性が高いという以上の意味はありません。大原則は、闘わない労働者を守る法律はありませんし、法律は労働者の雇用を守ってくれないということです。おのれの首は己が闘って守れということです。その闘いの一手段として法律を利用するというのが原則です。
次に、経営者団体が言っている「解雇ができないから、雇用する意欲が湧かない」というのは全くのデタラメです。企業としては、労働者は「雇用」しなくても「使用」できればいいわけですから、労働者が必要になれば不完全雇用の派遣労働者を使ったり、パート・アルバイトを雇うことはあっても、特に中高年の雇用が増えるということにはならないでしょう。
いま大事なのは、いかにしてこれ以上解雇者を増大させないようにするかです。
企業は「人が余っているから解雇する」といいながら、膨大なサービス残業をさせています。整理解雇した企業の中で過労死が起こっているわけです。ですから、例えば三六協定に違反して労働者に一定以上の残業をさせていること、あるいは、残業代が支払われていないことを監督署が認定した場合など、一定の基準を決めて、該当企業には整理解雇を認めないということを法制化することも考えられます。企業に、解雇をする前に企業内で労働の再配分を考えさせるわけです。
あるいは、派遣労働者を使っている会社には整理解雇を認めないという法律も考えられます。これは労働者を必要とする企業に、労働者を正規に雇い入れる努力を促すことにもなります。
要するに、企業は労働者を雇わずに、より低賃金・劣悪な労働条件で使える労働者と正社員を入れ替えようとしているわけですから、これに歯止めをかけるのです。
整理解雇には、一定期間を定めて、その期間中は他の派遣労働者の使用、パート、アルバイトの雇用を禁止するというのも、解雇者を増やさない実効性のある対策といえます。韓国では、解雇された労働者の優先雇用制度があります。整理解雇した企業が2年以内に再度労働者を雇用する場合は、解雇した労働者を優先的に雇用することを義務づけています。
正規雇用原則の宣言を
いま雇用環境が大きく変わっていますが、あらためて「企業活動をして金儲けしたければ、労働者をキチンと雇え」ということを法的に確認する必要があると思います。正規雇用の原則を確認した上で、パート・アルバイトの雇用や派遣労働者の使用については、労働組合との団体交渉のテーマとして取り上げていくといった取り組みが必要です。これら不安定雇用労働者の問題は、労働者全体の労働条件を含む雇用の問題であるからです。
NTTが、11万人の合理化を進めると言っています。これは という企業だけの問題ではありません。小泉政権の雇用対策とはこういうものであることを示しています。
多数の 労組が合意した状態で、企業内の少数派組合がいくら反対をとなえても展望は見えません。労働者全体でこの問題をどうするのかという問いかけをすべきです。この影響が の中の労働者に留まらないのですから、企業の内外で呼応して闘いを起こさなければなりません。 内の良心的な労組は、いまこそ思い切って企業の外に出なければなりません。労働者全体で責任をとるべき問題だからです。電機各社の合理化についても同様です。
あらためて言いますが、企業内組合主義では、雇用を守るという闘いに展望を見いだすことはできません。業種別・産業別・地域別を問わず、あらゆる形で企業の外に出て、膝を屈してでなく、闘って雇用を守るという視点で戦略を立てて、政府を動かしていくことが求められています。労働運動は市民運動との協働が求められている。
かつて企業内労働組合は、反公害闘争や薬害闘争において企業防衛に走り、市民・住民と対立しました。住民がとなえた「企業の公共性」を問う立場に立てず「個別企業利益」に取り込まれてしまったわけです。労働組合の組織率が下がり、社会的影響力を失っていった背景には、これが大きな要因としてあります。要は、労働組合というのは、狭い組合員の利益しか考えていないとの評価を定着させてしまったのです。
労働運動の社会的影響力を回復するには、まず、狭い個別企業の利害から抜け出し、社会的正義や公正を求める運動を進める必要があると思います。そのために、組織の面ではどのような形であれ企業の壁を越えた組織作りへの議論が開始されなければなりません。
|