狂牛病関連「牛肉在庫緊急保管対策事業」を悪用

食肉卸最大手のハンナン、
在庫カサ上げで補助金かすめ取り!?

背景に行政や農林族議員らとの深い癒着の構造

2001年 11月15日
通巻 1093号

 11月21日、厚生労働省は北海道で解体されたメスのホルスタイン1頭が狂牛病に感染していたと発表した。9月に千葉県で確認されたのに続く2頭目で、今後も更に出牛てくることは必至。牛肉消費は狂牛病第1号発生前の8月に比べると半減しており、関連業界への影響・打撃は更に深刻化していくものと思われる。政府は、消費者に対しては「全頭検査」を中心とする安全キャンペーン、関連業界に対してはさまざまな支援・対策を行うなど、事態の沈静化に躍起だが、狂牛病に関しては政府の対応は全て後手後手を繰り返してきた。その背景として指摘されているのが、担当省庁・農水省と畜産業界の癒着。今回、本紙はそれを象徴するような情報―日本最大の食肉卸会社である「ハンナン(株)」が輸入肉を国産牛と偽って政府に買い上げさせようとしている―を入手。経過と問題点を取材した。

 

「ハンナンさんだったらできるわなぁ」
        ─―業界では公然の秘密

 農水省は、10月18日から全国の全ての食肉牛を対象に狂牛病(BSE)感染の有無を調べる「全頭検査」を実施するのに伴い、それ以前に処理された牛肉について「牛肉在庫緊急保管対策事業」の実施を決定した。「10月17日以前にと畜解体された牛肉もBSE検査を受けていないということを理由に、消費者等から厳しく峻別される懸念があるため、これらの牛肉を市場から隔離」するために、「全国に会員を有する団体(農協連合会、全国食肉事業協同組合連合会、日本ハム・ソーセージ工業協同組合)が10月17日以前にと畜解体処理されて生産された国産牛肉であってその会員等が所有する在庫を買い上げ、それを冷凍保管」するというもの。対象となる牛肉在庫は約1万トンとされており、買い上げ費用は全額国の補助で、約92億円。
 本紙が入手した情報は、ハンナンがこの事業を悪用、輸入肉を国産牛肉に混ぜて在庫をカサ上げし補助金をかすめ取ろうとしている、というもの。この話は、実は食肉業界では「公然の秘密」で、「買い上げ価格は枝肉でキロ1100円くらい、ハンナンは価格が約10分の1の輸入肉、しかもその中でも安いハラ身を使っている」と、具体的な数字までついて流布されている。
 これが業界で「公然の秘密」としてアッと言う間に広がった背景には、他の中小業者のハンナンへの羨望とヤッカミがある。BSEの発生で当分売れる見込みのない在庫を抱えてしまった業者にとっては、今回の「保管対策事業」は願ってもない話、できれば何とか在庫をカサ上げしたいと思うのは、人情からすればある意味では「当然」と言ってもいい。そしてカサ上げするには値段の安い輸入牛肉をというのは、これまた誰もが考えることだろう。見た目で国産と輸入肉の区別がつくわけでもなく、DNA鑑定でもすれば別だが、BSE検査で忙殺されているくそ忙しい最中に、農水省がDNA鑑定なぞするわけがないからだ。


利権を独占、大阪の牛肉相場を
決定する阪南畜産

 ところが、今回の事業はBSE発生に伴う緊急措置だったことに加え、関連の様々な利害や思惑が錯綜したこともあって、最終案が決定されるまでに時間がかかった。農水省は当初、在庫肉は「消費者の理解が得られた後、時期をみて市場流通させる」目論見だったと言われている。ところが、業界の意を受けた自民党農林族の猛烈な圧力と巻き返しにより、最終的に国が事実上買い上げ、焼却などの処分費も面倒を見ることで決着したのである。
 見通しが定かではない中で在庫を増やすのはバクチみたいなもので、はずれると更に過剰在庫を抱えることになり命取りにもなりかねない。体力のない中小業者は、やりたくてもそこまで踏み切れなかったのだ。で、「ハンナンさんだったらできるわなぁ」ということになるのだが、では何故「ハンナンさんだったらできる」のか。
 ハンナンは1947年、食肉卸売業の浅田商店として出発。その後、(株)阪南畜産に改組して広く事業を展開、85年にはグループを統合するハンナン(株)を分離設立し、「今やネットワークは北海道から九州まで関連会社23社、さらに米・豪には現地法人4社と、まさに世界規模での広がり」(同社概要より)を持つ日本最大の食肉卸会社。特に大阪ではハンナンの母体とも言える阪南畜産の影響力は絶大なものがあり、阪南畜産が大阪の牛肉の相場を維持・決定しているのが実態。
 こうした経営体力に加えて、ハンナンのもう1つの「強み」は、行政や政治家との強い繋がり。食肉の処理・解体は部落差別と重なり、屠場の労働は被差別部落の労働者が担ってきた。部落解放運動の進展の中で、屠場労働者の公務員化など、さまざまな成果も獲得されていくのだが、一方でそれは利権構造や行政・政治家との癒着をも産み出していくことになる。

【取材こぼれ話】
「吉野屋の肉は安全」の大嘘

 食肉関連業界に限ったわけではないだろうが、それぞれの業界には業界内部でだけ流れてなかなか外には伝わらない話が多い。今回のハンナンの問題の取材の中でも、いくつもそんな事例があった。番外編としてそのうちの一つを紹介しておきたい。
 名神高速道路の岐阜県に養老インターというのがあるが、この養老町に養老屠場がある。養老屠場は、以前からミンチ用の牛の屠場として知られてきた。弱った牛など普通の食肉用にはできない牛がミンチ肉に回されるのである。
 扱いはかなり荒っぽく、「電気ショックでピクッとでも動けば、『生きている』として屠殺に回されてきた」という話まである。狂牛病の発生によりさすがに閉鎖され、今後も再開のメドは全く立っていない。行政の圧力によって闇から闇へと葬り去られることになるのだろう。
 これはこれでかなりヒドイ話なのだが、もう一つオマケがある。養老屠場の最大の客が、あの「牛丼の吉野屋」だったというのである。吉野屋が買いつけにきた日には、肉の値段が一気に上がったのだとか。
 吉野屋は今、「吉野屋の肉はアメリカ産だから安全」と一瞬「何のこっちゃ?」と耳を疑うようなキャンペーンを展開している。狂牛病の発生以降切り替えたのだとしても、極めてウサン臭い話。何が混ざっているのかは、これも闇の中なのだから。
 安いものにはウラがある…280円という値段に惑わされないよう、くれぐれもご用心。



太田・大阪府知事との
   癒着が府議会でも問題に

 現に、ハンナンと行政・政治家との癒着についてはこれまでも何回か問題になってきた。1987年には、輸入肉の割当をめぐる畜産振興事業団幹部への贈収賄事件でハンナンのオーナー一族の1人が逮捕され、農水省や畜産族の国会議員との癒着が明るみに。そして最近では、大阪府議会で日本共産党が追及した松原食肉市場公社(屠場)の民営化をめぐる疑惑。
 大阪府は経営破綻した松原食肉市場公社の再編処理策として、公社への債権(14億円)放棄を含め、68億円の府費を投入して公社を完全民営化することを決定。その中には、新会社が羽曳野市場の荷受け会社から牛1万頭の営業権を取得する費用4億円も含まれている。日本共産党は、昨年7月に太田府知事や府の幹部、自民党府議が阪南畜産の社長宅で酒食の接待を受けた問題と合わせ、「府の処理策は『異常な優遇』であり、また羽曳野市場からの営業権取得のための4億円の合理的根拠はなく『つかみ金』。接待を受けたことがこの処理策と無縁でなかったことは明白」と追及したのである。なお、昨年7月の接待の際には自民党の実力者の1人である鈴木宗男代議士も同席、太田府知事に「1000億円ほど関係者に補償せんといかん」と詰め寄ったという話も伝えられている。
 少々説明が長くなったが、ハンナンはこうした政治家との関係を利用、最終的には牛肉在庫を国が補助金で買い上げることになるという確実な情報を取得できたというのが、先の「ハンナンさんだったらできる」という中小業者の嘆きの意味なのだ。


消費者無視、情報を隠す農水省の犯罪
 最後にもう一方の「当事者」である農水省の対応の問題にも触れておきたい。
 農水省がBSEについて情報をひた隠し、後追いの対策に終始してきたことはマスコミでも広く指摘されてきた。肉骨粉については、1988年に英国政府が肉骨粉をBSEの感染源として認め、牛飼料への使用を禁止したにもかかわらず、日本政府は輸入・使用禁止の措置をとらず、英国からの輸入を禁止したのが96年、EUからの輸入は今年1月まで容認していたこと。更に、今年6月、EU委員会が行ったBSE発生危険度の調査で日本が4段階中2番目に危険なレベルと評価されたにもかかわらず、農水省は「科学的に確証がなく不当」として揉み消しを図った、等々。(ちなみに、この農水省の対応にEUは呆れはて、英国の科学誌が「報告書を『科学的な証拠がない』というのは、これまで何の対応もとらないことの口実として使われてきた。本当の理由は、政府と産業界や医療機関が癒着していると考えた方がよさそうである」と指摘したことも報道されている)
 しかし、「科学的に確証がなく不当」どころか、実は農水省は日本でのBSE発生は確実と、昨年末頃から全国の畜産現場の調査を密かに実施していたのである。これも業界ではずっとささやかれてきた話なのだが、調査しているという事実だけで「風評被害」が予想される業界からは明らかにされるわけもなく、農水省もそうした危惧の上に乗っかって隠してきたものと思われる。そこにあるのは農水省の体面と業界への配慮のみ、消費者は完全に不在。しかも、情報を隠してきたことや対応の遅れが、消費者の不信を拡大し、かえって業界への打撃を大きくしたことことからすれば、農水省の罪は極めて重大であると言わざるを得ない。
 BSE発生に伴う対策費は総額1500億円を越える。それは言うまでもなく税金によってまかなわれる。農政の失策により巨額の税金が使われ、しかもその一部は利権構造の中に不正に吸い取られていく。これでは消費者にとって、文字通り「踏んだり蹴ったり」というものではないだろうか・・・ ?

 

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人民新聞社

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