覆される夢想
あるメディアによると、ブッシュ政権内にイライラが嵩じている、という。イライラは政権内のいたるところに渦巻き、そしてマスコミや市民の間へも伝染しているのだが、ここでは政権内の若干の例に触れておきたい。
今月7日に開始されたアフガニスタンへの空爆は、当初の目標をほとんど破壊したというのに、なんら目ぼしい成果がない。ペンタゴンでは、すでに破壊したはずの目標への再爆撃を行っている。なんとその結果が、国際赤十字への2度目の爆撃、市民居住区への度重なる爆撃、「北部同盟」支配地区への爆撃などであり、より一層の国際的な批判、非難を招くことになっている。ペンタゴンは初め《それはタリバンによる意図的な宣伝である、証拠はない》と居直ったりしていたが、すぐに事実を認めざるをえなくなり、《誤爆》とか《技術的なミス》などと言い繕っている。
少々脇にそれるが、《証拠がない》ということでは、そもそも9・11同時攻撃とオサマ・ビンラディン氏の関与という証拠なんかない。ましてやタリバン政権の関与なんてない。それなのに《犯人》と決めつけ、2.5トン爆弾をも含めた空爆を正当化するという非論理性。すごい自己矛盾をさらけ出しているわけだ。
元に戻って、大本営にとって頼みの綱の一つでもあった、元ムジャヘディーンの1人アブデル・ハックが反タリバン工作のため潜入したが、村民に見つかり、タリバンはすぐに処刑してしまった(即処刑というのは問題だが、それは措こう)。ペンタゴンは、主だった目標に連日爆撃を加えれば、タリバンは音をあげ、瓦解し、内部からオマル師への反旗が翻る、と読んでいた。そういう反乱分子をも含めて、元国王を首班とする新政府を…というのがペンタゴンなどの夢想であった。アブデル・ハックはそういうシナリオの下で潜入工作を計ったのである。ところが、反タリバンになっているはずの住民は、反帝であり、帝国主義の手先をひっくくってしまった、というのである。
周知のように、大本営は10・20の陸軍特殊部隊の破壊活動を「大成功」と唱いあげていた。だが、実際にはほとんど成果はなきに等しかった。そして、ハックの潜入工作の失敗、それは住民のタリバン政権支持の証であるのだから、イライラが嵩じたとしても不思議ではない。
加えて、アフガニスタンの多数派民族であり、パキスタンにもまたがって存在しているパシュトン人などが反帝の闘いへと志願して続々と国境を越えている。北部同盟内でも同胞への殺戮の空爆に非難の声があがっている。指導者の中には空爆によるタリバンの弱化に期待をかけている者もいるが、反旗はタリバン内ではなくて、北部同盟内に起こりかねない。いろんな形でタリバン支配地区への物的補給がなされている。ボスニアやコソボとは全然様相が異なっている。などなどといったことが現地入りしたジャーナリストから伝えられてきている。大本営が最も嫌っていた報道管制を破る輩が出てきたのである。
そして、大本営にとっては恐るべきことが2つも目前に迫りつつある。11月中旬から始まる、モスレムにとっては神聖にしてより勇敢になるラマダン月と冬将軍の到来である。イライラが嵩じるのは理の当然であろう。
補佐し得ぬFBI
FBIもまた主要なイライラの主である。
9・11事件を口実に数百人もの容疑者を捕らえたが、なんら立証材料を得ていない状況だという。つまり、《対テロの正義の使者》《自由と民主主義の守護者》といったブッシュの仮面をなんら補佐しえないというわけである。
加えて、炭疽菌騒動の泥沼化。これも、《オサマ・ビンラディン一味の仕業!》としたいのがブッシュ政権の本音であり、FBIもその方向で努力している。だが、なかなかそっちの方向へと行ってくれない。同時攻撃の指導的人物モハメッド・アタ氏とイラクのエージェントがドイツで接触していた…というストーリーをもって、イラクがその菌の源としたいのだが、どうも菌は合衆国内からというのが識者達の一致した意見である。《9・11と炭疽菌を結びつけることはできない》《むしろこれはオクラホマ爆弾やアトランタ・オリンピック爆弾のように国内犯の仕業とみるべきだ》《先入観でやっているとウェンホーリー氏の件の二の舞となってしまう》などといった声がFBI内外の主流となっている。政権はそういう声にますますイラつくというわけだ。
最後に、本紙中東特派員が伝えるので蛇足だが、シャローン政権は《我々が独自の対テロの道を行く》とばかりにテロ行為を繰り返している。ブッシュ政権は、自らが同様のことをやっていることも忘れて(?)、シャローンがアラブ・モスレム諸国からの支持を妨害している…とイライラしている。やんわりと自制を求めようと、苦情をたれようと、自分で自分の首をしめるに等しい行為であり、なにか漫画にも等しいことである。
(小)
|