中央アジアの石油・天然ガスパイプライン構想
左の地図を見て頂きたい(クリックすると大きな画像を表示)。アフガニスタンの西=カスピ海には、油田と天然ガス油田があり、その周辺にはそれらを運ぶためのパイプライン建設計画がある。カスピ海地域における石油の確認埋蔵量は160億〜320億バレル(ちなみに北海油田は、170億バレル)、天然ガスは236兆〜333兆立方フィート(米国の確認埋蔵量は300兆立方フィート)といわれている。確認埋蔵量もさることながら、オイルビジネスが興奮するのは、カスピ海地域が世界最後の未探査、未開発の油田地帯であろうということである。
カスピ海域における石油と影響力を確保しようとする大国間の争いは、1920年代の中東になぞらえられる。20年代の中央アジアでの利権争いは英露が主役であったが、今日では、ロシア、中国、米国などの大国、イラン、パキスタン、アフガニスタン、トルコなどの隣接国、それにもっとも強力なプレーヤーである石油会社などが複雑に絡んでいる。
すなわち、民族主義的傾向を強めるロシアは、かつて国境内であった中央アジアに対する影響力を掌握し続けたいと思っており、ロシア領を通過するパイプラインによってカスピ海石油の権益を維持しようとしている。米国はロシア領を通らないパイプライン計画を提示する形で、この地域に入り込もうとしている。イラン、トルコ、パキスタンは自国外に通じる輸送ラインを建設しながら、カスピ海石油用パイプラインのルートを自国の輸送ラインにつなぐことを狙っている。中国は、中央アジアにもいる同じムスリムの民族が住む新彊ウイグル自治区の安定が望みであり、中国の急速な経済成長を支えるエネルギー供給を確保して、さらに中央アジアとの国境地域に政治的影響力を拡げたいと願っている。
これら各国政府の思惑の上にのしかかっているのが、米国・欧州の石油会社間の激しい競争である。
ブッシュとオイルビジネスの深い関係
ブッシュはハーバード大学経営大学院を卒業して3年後の78年に、採掘会社「アルプスト・エネルギー」を設立。アルプスト社は何度かの社名変更や買収を繰り返し、86年には共和党の資金提供者が経営するハーケン・エネルギー社の一部となっている。ブッシュは同社の株を入手すると同時に、年間12万ドル(後に5万ドルに減額)の顧問料を得ている。
ちなみにこの間ブッシュとオサマ家はオイルビジネスのパートナー関係であったこともわかっている。すなわち、オサマ氏の長兄=サレム・ビンラディン氏は、「アルプスト社」に約7万ドルを投資。「ハーケン社」にも米国での代理人を通じて投資している。
ブッシュは、元々オイル・ビジネスマンであり、現在もオイルビジネスが政治資金源であることを指摘しておく。
石油利権攪乱要素「タリバン」を打倒せよ!
90年代、この石油利権をめぐるゲームを攪乱するアフガニスタン内戦に新たな主役が登場した。タリバンである。タリバンはアフガニスタン内戦の行方を左右するのみならず、中央アジアで勃興するイスラム原理主義運動の1つの象徴でもあるからだ。
オサマ・ビンラディンが、対ソ戦略の尖兵として米国から資金援助を受け、軍事訓練されてきたことは広く指摘されているが、タリバンもパキスタン軍部を通して米国からイラン包囲網の一環として武器と資金援助を受けていた。
さらに、アフガニスタンとイランの国境に近い地域の地下には、豊富な天然ガス(世界第3位)が埋蔵されている。トルクメニスタンの石油と併せてこれをパキスタンの首都カラチまでパイプラインを引いて運ぼうというプランができあがり、日本の伊藤忠商事も参加して日・米・サウジの合弁会社「チェント・ガス社」も設立されていた。
これは98年、米によるアフガン空爆を契機に米社が脱退したため、いったん頓挫した。が、この計画が実現すれば、パキスタン政府にはパイプラインの通過料だけで年間4〜5億ドルの収入が期待できるといわれている。
今回の報復戦争でタリバンが崩壊し、親米政権ができあがれば、アメリカの石油企業主導でのプロジェクト復活は十分あり得るのであり、既に再開したとの報道もなされている。
米国政府にとって、アフガニスタン経由のガス・パイプライン計画はイランを通らないという点で魅力的であるだけでなく、ロシアとイランを不利にする一方で、「同盟国」パキスタン・トルクメニスタンを支援することになるからである。
今回のニューヨークテロと石油利権に関連性は見いだせない。石油利権確保のために事件が引き起こされ、これが主要な動機となって空爆が行われたといっているわけではない。しかし、米国がオサマ・ビンラディンを匿っているというだけの理由で、何故タリバンを徹底的に攻撃するのか?その動機に、石油利権・パイプラインの建設計画が全く無関係といえるのだろうか?
なぜ、各国政府はこぞって米の空爆を支持するのか?
こうなると今回の戦争は、単なるテロ撲滅戦争ではなさそうである。
新「グレートゲーム」に参加する各国政府、石油企業にとっても、タリバンを筆頭とするイスラム原理主義勢力の弱体化は、同様な意義がある。国内政治を安定させ、疲弊しきった経済を再建するとっかかりとして地下資源開発に乗り出していけるからである。ブッシュ大統領の仕掛けたイスラム原理主義勢力との戦争にこぞって参加協力したのも、うなずける話なのである。
貧困と不平等がテロと戦争の温床
アラブの人々は、「豊富な地下資源があるのに、自分たちはなぜ貧しいのか?」と問うている。西欧の拝金主義を厳しく批判し、「神のもとでの平等」を説くイスラム原理主義勢力が、人々の共感を得る要因がここにある。
米国は、自国の国家利害に沿ってオサマビンラディンを育て、タリバンに武器と資金を提供した。結果、アフガン内戦が泥沼化し、難民が発生し、貧困がはびこった。今またヒステリックに「テロとの戦争」を叫び、ミサイルを撃ち込み、多くの市民の犠牲者と難民を生み出している。
そういう観点から戦争を見ると、こんな汚い戦争のために命を危険にさらす必要は全くない。日本とアラブ・イスラム世界との関係は、かつてこの地域を植民地支配した欧米の彼らとは違う。オイルショック後の日本の中東政策もあり、アラブ・イスラムの民衆の対日感情は日本人が想像している以上に良好なのである。その日本が欧米と同じように軍隊を派遣し、対決するようなことになれば、彼らの対日感情は悪化する。
石油・天然ガスの資源をめぐり争奪戦を繰り広げているのは民間企業である。国家がこれに国民の生命を危険に晒して戦争行為に走るなど、「愚の骨頂」である。 |