近くて遠い・・・最近のヨーロッパ事情 |
連帯して「つぎ」への提案を |
ロンドン/篠原良輔 |
2001年 9月5日
通巻 1086号
7月20日、「ジェノバサミットで死者」のニュースが流れた。とうとう国際会議をターゲットにした「反グローバリズム運動」の街頭行動は警官の銃撃まで引き出した。 イギリスからはオックスファムやセーブザチルドレンなどのNGO団体から社会主義アライアンスなどの政治組織まで、数千の反グローバリズム活動家が海を越えてジェノバに結集した。NGOのなかにはイギリス各地からロンドンを経由して自転車や車のラリーでジェノバ入りするグループもいたが、多くはミラノ空港からジェノバに向かっていた。 ジェノバは空港から市内主要駅まですべて閉鎖されており、レンタカーも貸し出し禁止となり、イタリア政府はできるだけジェノバに活動家が集まるのを妨害しようとしていたが、主催者発表20万人(参加者の感想、5万人)の人々がいろんな方法で結集した。 これまでのサミットでは「市民運動と政治家の対話」というカラーが演出されていたが、今回は会場周辺は完全に立入禁止のレッドゾーンとして高い塀が張り巡らされ、重装備の機動隊が防衛にあたっている。これは、これまでの「ジュブリー2000」などのNGO市民組織がイニシアティブをもってすすめた「債務免除要求運動」がメインテーマであった行動から、「左翼政治組織」などが結集して「反グローバリズム・資本主義運動」が前面にでてきた今回のジェノバサミットへの(権力の側からの)変化の現れだ。 今回のサミット行動で注目されたのは、いわゆる「過激派の本格登場」。ジェノバサミットではアナーキストグループ「ブラックブロック」を名乗る黒覆面集団が突出してクローズアップされた。彼らは(参加者によると)、マクドナルドなどの多国籍企業ではなく、手当たり次第にカフェや食料品店なども無秩序に破壊していったという。勿論、彼らだけではなく、当然多くのデモ参加者も同調していったのであろうが、この行動のエスカレートについてはいろんな意見が出されている。 アイルランド出身のロックバンド「U2」メンバーのボノは、この間、NGO「ジュブリー2000」に同伴し、「人間の鎖行動」などに参加し、各国首脳との直接対話を演出しながら「最貧国債務免除」などの成果を勝ち取る運動のスポークスマン的役割を果たしてきたが、今回は安全面を理由に、「ジェノバ社会フォーラム(GSF)」呼びかけのメインデモへの参加を取り止めた。「ジュブリー2000」の後継団体である「ドロップ・ザ・デッド」同様にデモ不参加を決めた。ボノは、今回も(小泉首相を除く)全首脳に会って「債務免除」を訴えるパフォーマンスをおこなったが、記者会見では街頭行動について、「みんなの怒りは理解できる。でも、こぶしでテーブルをたたくのはいいが、人の顔をたたくのは良くない」と発言した。 穏健派のNGOにとっては、今回のサミットは、この間築いてきた「対話」や「議論」が暴動にかき消される苦々しい結果となったと思われる。NGOはこれまで、「債務免除」や「京都議定書批准」など、複雑な国際社会の問題を「現実的に解決可能なところから」うまく切り込んで成果をあげてきた。ところが今回は、近年力をなくしていた学生や左翼グループなどが行動の先頭に立ち、この間のNGOの成功に便乗した感がぬぐえない。 今回の行動のセンターとなったのはGSF(ジェノバ社会フォーラム)であったが、かれらは政府とは「非暴力」で合意していたが、メインデモ翌日の22日の早朝にGSF本部センターが警察隊に突入され90人あまりが暴行を受けた上に連行された。理由は「ブラック・ブロックが出入りしていた」ということであったが、GSFを「武装過激派」に仕立てようとした警察の意図は明白だ。その後、連行された人たちは拘置所で「ムッソリーニ万歳」と叫ばされたりするなどのリンチを受けたという。また、「ブラック・ブロックの覆面をした人間」が警察の車から出てきたという証言もあり、 では警官による暴行とあわせて事実解明に向かっている。 今回のサミットでの唯一の成果は約13億ドルの世界保険基金の設立発表があったことだろうが、これとても、アフリカ諸国が先進国に返済している債務額の1ヵ月分に過ぎない。 たしかにNGOが引っ張ってきたサミット行動が、盛り上がりに反して声が届かなくなってきた無力感につつまれだしたことは参加者が感じるところではあろう。で、つぎはどの方向に向かっていくのか?「挑発分子・トロッキスト」「日和見主義者・反革命」などの言葉で罵り合い、分裂しあった歴史の失敗は繰り返さないように、なんとか、「つぎ」をみんな連帯して探していきたいものだ。 |
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