デモ参加者─ロゲリオ
ロゲリオは、サミット会場周辺のフェンスを突破して抗議の意思を表明したいと思った。彼にとっては、民営化と移民問題が最重要課題だ。
「G8諸国は、一貫して利害が対立しており、2枚舌を使い、冷笑し合っている。彼らは、銃を売り、戦争を起こし、民衆を拘留し拷問を加えて、悲惨を拡大している。」
ロゲリオは31歳、バルセロナ(スペイン)出身で、クイーンメリー大学(英国)で言語学を専攻した後、バークレー大(米国)に進み、10年前からロンドン在住である。彼は今、1日数時間働く傍ら、長編小説を執筆中である。
彼は、ジェノバ到着直後から身の危険を感じたと語る。「警察は我々をまるでゴミでも見るような目で見ていた。私はロンドンで大規模街頭デモに何度も参加したが、警察官の態度は全く違う」と言う。彼は、バルセロナからの30名程のグループに合流した。
「我々はG8首脳を取り囲む鉄柵の所まで行ったが、そこは前面に30名、背後には数百名の警官が配置されていた。前面の警官が催涙ガス弾を発射し、すぐ姿を消した。少女が1人鉄柵によじ登り、フックで身体をつなぎ止めたので、私たちは必死で彼女を引き降ろそうとしたが、できなかった。他の所にも行ったが、今も震えが止まらない。どこでも煙と催涙ガスが充満していたからだ」
「ある広場へ行ったが、突然アナーキストグループの『ブラック・ブロック』が到着した。彼らは、旗を掲げてデモ行進を始めたが、その様子はまるでネオ・ファシストのようだった。目につく物は何でも破壊していた。警察は、アナーキストグループがいる間は来ず、平和的デモグループに襲いかかった。アナーキストたちは、無法の限りを尽くし、警察は全く制止しなかった。
アナーキストグループと直接話したわけではないが、多くはドイツ人やバスク人で他地方出身者もいたようだ。私は心ない暴力は否定するが、特権層に対抗するには必要なこともあると思う」
「この社会で暴力を行使しているのは誰?」と尋ねてみた。
「債務のために多数の子どもが次々と死んでいる。兵器貿易と薬剤貿易は全く正義に背いている」
ロゲリオは、カリオ・ギリアーニが撃たれた広場にいた。デモ隊は「人殺し!人殺し!」と叫び続けていた。でも混乱すると思い、その場を離れた。辺り一面には血を流している人が溢れ返っていた。
「なぜ抗議活動をするかって それは現在の民主主義制度の下では、何も発言できないからです。だから直接行動は正当だと思うが、暴力的な人々が影響力を拡大するのには反対だ。もう暴力にはうんざりした」
ロゲリオは、土曜の債務帳消しを要求するデモ隊の先頭にいた。彼は、G8サミットが中断されたという報告を耳にした「劇的瞬間」を語った。その時いた20万人の人々は、歓喜の涙を流していた。その後、数時間前に警察がデモ隊に襲いかかり負傷者が出たという学校に行った。
「これは国家とファシズムによる蛮行であり、失望した。実際には、我々は何も獲得できなかったのだ。ジェノバにはもう来ないでしょう」
(ジョン・ビダル)
警察官─マルコ
マルコは、警官隊には合流しなかったが、ガス・マスクを装着し、警棒でデモ隊を殴りつけるため街頭に出かけた。週末に何をするか迷いはなかった。ジェノバは彼の地元であり、地元が攻撃されていたのだから。彼は、彼の仕事をしたまでで、悔いは全くないという。
「あれは俺の人生最悪の経験だ。ひどさに呆れ返る。数百名の暴徒が石と火炎瓶で君に襲いかかる。そんなこと想像できるかね。」
我々は、日陰で休みながら、200名の警察官と共に警察署の外に立っていた。中の1人が、微笑みながらゆっくり同僚の股ぐらに空手キックをお見舞いしていた。マルコは、先週末に行われた市街戦での暴動制圧の再教育講習には、参加できなかったという。
4列縦隊になった100名の警察官は、いとも簡単に蹴散らされた。激しい無力感を感じたという。
指揮官は叫びながら指揮を執っていたが、防毒マスクで何も聞こえなかった。数時間後、それも役に立たなくなり、脱ぎ捨てたという。
「困ったのは、打ちのめす相手が分からなかったことだ。後は、全く混乱状態だった。デモ隊は、煙で何も見えない中を走っていた。そんな中で事件は起こったのさ」
日焼けして童顔のマルコは、人差し指を上下させながら、警棒を振り下ろす様を説明した。
「新聞は過剰警備だと書き立てているが、そんなことはない。あれは必要だったんだ」
今回の警察の行動は、絶頂期の暴君ピノチェットと比較されていると言われて、マルコは肩をすくめていった。
「信じられない。そんな馬鹿なことを考えるのはイカれた奴だね」
カルロ・ギリアーニの射殺について尋ねると、彼は用心深く答えた。
「あれは、正当防衛だ。ジープの中にいた警官は、火炎瓶が投げ込まれ、殺されるのではないかと恐れたのさ。彼らは、出血し、悲鳴を発していた。しかし、頭を狙う必要があったかは分からない」
G8の突撃部隊に配属されたマルコの同僚たちが次のように愚痴をこぼしていたのを聞いたという。
「ブッシュが安全にパスタを食うために、なぜ俺たちが頭に投石されねばならないのか?俺たちだってグローバリズムがいいとは思ってもいない。なのになぜ攻撃されねばならないのか?」
確かにそれは多数の意見ではないかもしれない。
賛否と疑惑の目は平和デモ参加者にも向けられ、アナーキストグループ「ブラック・ブロック」への軽蔑と怒りは広がっている。
「彼らは愚かな暴徒である。貧困と闘うと口にしながら、必死で生計を立てている人々の商店を破壊した。壊された商店の多くは保険に入っておらず、彼らは却って貧困に追いやられる。」
ローマとトリノからバスで移送された警察官と違い、ジェノバの警察官の中には、破壊活動を行ったものもいるようだ。
マルコは、大学に入学して科学を学びたかったが、両親は学費が払えず、そのためマルコは3年前、月に600リラ稼げる警官となった。
「俺を攻撃した奴らはきっと俺より稼ぎが多い大学出さ。」
「彼らに憤慨する他の理由はそれなの?」
「わからない。」
イタリア首相ブルスコーニは、暴動を最小限に抑えられなかったと、警察と情報担当者を厳しく叱責した。しかし、マルコは、警察の役割を誇りに思っている。
「我々は祖国の都市と市民を防御した。国民は私を誇りに思っている。」
(ロリー・キャロル) |