書評

『いちじくの木がたおれ、ぼくの村が消えた

――クルド少年の物語 』

ジャミル・シェイクリー 著(野坂悦子 訳)
/梨の木舎・1340円+税)

2001年 7月5日
通巻 1081号

 小紙上で童話を採りあげるのはおそらく初めてではないでしょうか。この本は児童文学であると同時に、戦争文学となっています。
 物語は主人公の少年の登場もそこそこに、クルド人の村が兵隊によって破壊される場面から始まります。そして、おじさんの家への避難、父さんとの別れと再会、難民キャンプへの移住、ペシュメルガ(ゲリラ兵士)であるおじさんとの出会い……と次々に展開していくのですが、読者は主人公の少年と「いったい何があったの?」、「これからどうなるの?」といった不安を共有しつつ物語は進行します。これは、戦争というものは民衆の営む日常生活を、突然に混乱と惨事に巻き込むのだということを表現することに成功しています。
 この間の「つくる会」の歴史教科書問題で、子どもたちに戦争を含めた「忌まわしき過去、戦争犯罪」をどう伝えるのか、あるいは伝えていいものかと論議を呼びました。確かに、悲劇的・衝撃的な結末を迎えるこの本を前にして、「いくら難民の現実とはいえ、こんな『救い』のない童話なんてなあ……」と子どもに与えるのをためらってしまう方もいらっしゃるでしょう。
 著者はこう書いています。「……クルディスタンの山岳地帯で戦っていた私は、戦争をテーマにした一冊の児童書を読んで、泣きました。戦いがこわくて泣いたわけではありません。戦争にまきこまれて死んだ一人の少女のことを思って、涙を流したのです。……(中略)時代を越え国境を越え、戦争というものが悲しみや恐怖、憎しみしかもたらさないことを、私は伝えていきたいのです」。
 戦争ってどういうことなのか なくすにはどうしていったらいいのか?――これは大人の私たちもしっかりと考えていく必要のある課題だと思います。

(小比類巻 新)

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