株価の下落が新年になっても止まりません。株価は景気の先行指標と言われていますが、このことは景気の先行きに投資家の誰もが自信を持てなくなっていることを物語っています。東京市場は、1万3000円台割れ寸前に来ています。これは金融機関が不良債権を処理するための原資である「含み益」が出せる限界で、これを割り込めば金融機関に不良債権が増えます。
ニューヨーク市場では昨年6月に、ハイテク株中心のナスダックが5000ポイントを超えていたのが、現在では2300ポイントを切っています。これは米国おける「ITバブル」の崩壊です。株式の大衆化が進んだアメリカでは株価の上昇に導かれて消費の拡大が進んでおり、それゆえに株価の下落は消費の収縮=不況に直結しています。
世界経済を牽引してきた米国経済の失速です。EUはすでにピークアウトしており、日本経済は土建業など過去の産業の縮小を先送りしてきたため、バブル崩壊から10年たっても不況から立ち直ることが未だにできません。こうして、世界同時不況の色合いが濃くなっています。
これは10年間続いてきたグローバリズムの終焉を示しています。1992年、ソ連崩壊によって資本主義の前に人口2億人を超える未開拓地が突然開けました。思わぬ勝利を手にした先進諸国の投資家たちは札束を握りしめて争って旧ソ連・東欧諸国に殺到します。これがグローバリズムの始まりです。この巨額の資金の主な出し手は米国と日本でした。
過少生産体質、国民の消費を自国で賄うことのできないアメリカ経済は年間4000億ドルを超える貿易赤字を出しています。アメリカは高金利を餌にこれを還流させ、NY市場で運用します。こうして、アメリカの対外債務残高は現在2兆ドルを超え、これが投機資金に化けます。
また日本はバブルの後始末のために公債を発行し、その残高は来年度末に660兆円、国民1人当たり550万円、4人家族で2200万円という巨額に達します。この公債の8割は金融機関が持っており、差し当たって投資先の見つからない遊休資金は投機市場に流されます。
こうして、世界の二大経済大国が作りだした巨額の資金はほとんど金融機関の手を経て投機資金に化け、博打場と化した先物市場に流れています。本来、先物市場は価格変動を緩和するために作られたにもかかわらず、投機資金に占領されたために博打場と化してしまいました。
昨年末の原油価格の暴騰がそうでした。世界の金融市場は行き場を失った巨額の遊休資金が妖怪のように姿を見せては消え、極めて不安定な状態になっています。
その結果、1日の金融取引額が1年間の貿易取引額を超えるという異常事態になっています。この際限のないマネーゲームが限界にきたことを示しているのが、最近の株式相場です。
市場は本来、需要と供給とを調節する機能を持っています。だが現在、世界市場における供給が需要の365倍を超えてます。この不均衡に市場が耐えられなくなり、自動調節機能の発動が近づいています。
日本の来年度末公債発行残高660兆円は、国民総生産の1.3倍です。この数字は第2次大戦中の1942年のレベルに匹敵しています。
この結果、敗戦後の日本で何が起こったのか?私たちが経験したことは、3年間で100倍を超える物価の暴騰でした。日に日に物価が上がるので誰も通貨を信用しなくなり、経済は物々交換に戻ってしまいました。これは市場が自動調節機能を発動した結果でした。
私の父は戦争に取られていたので、3人の子供を抱えた母親は日曜日になると箪笥の中から着物を出し、農家に行って食べ物と交換して飢えを凌ぐ生活でした。日曜毎に箪笥の中から着物がなくなっていくの見て暮らす心細さは、今でも忘れられません。
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