<長居公園(大阪市東住吉区)で野宿者排除>

IOC(国際オリンピック協会)視察(2/26)前に、

大阪市がテント強制撤去を画策

「人と環境にやさしい大阪五輪」
なんてチャンチャラおかしいわい!

2001年 2月25日
通巻 1068号

「屋根と食事」を対価に

人間の尊厳を売り渡すことはない

 大阪市建設局は14日、長居公園シェルター前の長居公園テント村にて会見し、園内の50張りの残留テントについては執拗な説得を含め、「行政代執行や排除は行わない」としたほか、話し合いについても、「新規テントやシェルターの件などで相互理解のための話合いをしていきたい」とした。
 これを確認後、長居公園ホームレスの会と長居公園仲間の会はシェルター前に1月7日に建設した大テントをはじめとする7戸のテントを自主撤去することで建設局側と合意。15日朝自主撤去作業に着手。行政代執行によるテント生活者の強制排除という最悪の事態は取り敢えず回避された。が、行政代執行手続きを進め、警告書まで発した大阪市の姿勢は厳しく批判される。 

野宿者テント撤去のための

「シェルター」建設


 そもそも、野宿者テント撤去の動きが始まったのは、昨年10月。2008年五輪招致を目指す大阪市は、「長居公園適正化」をかかげ、一時避難所(シェルター)建設計画を発表した。この計画は、「地元住民の要請」と言いながら、当事者である長居公園内テント生活者はおろか、地元住民への説明もなく、勝手に大阪市が作文したもので、当然両者から批判の声が挙がった。
 テント生活者らの批判は以下の3点。
(1) 「仮設一時避難所(シェルター)」は、はじめから「公園適正化」を目的としたものであり、長居公園の野宿当事者を無視した形で計画が進められた。
(2) 「入所か、排除か」の二択を野宿当事者に押し付けてきたように、対策そのものをそれに乗らない仲間の犠牲の上に立てようとしている。
(3) 野宿当事者の就労自立を掲げた自立支援センターに何ら展望が無いまま、「つなぎ」の機能すら果たせないことに加えて、それを見越した「後は野となれ山となれ」の収容主義であること。
 テント生活者たちは、周辺の公園の仲間と共に大阪市に対して現地説明会を要求し、10月5日、「行政代執行の手法は採らない」ことを確約させたが、大阪市は実質団体交渉であった現地説明会を一方的に打ち切り、虚実織り交ぜての個別「説得」を強行。当初、480戸あったテントの9割が入所を拒否していたが、「粘り強い説得」が功を奏してか、1月末現在で135名が入所と同時にテント放棄の承諾書を書かされて住み慣れた我が家を失った。
 一方、約180名は生活保護を申請。120名が居宅保護を勝ち取ったが、150名以上が連日の執拗な「説得」に耐えきれずに公園の外へと散らされた。
 これは、路上に放り出され、行政や社会に見放されながらも、アルミ缶拾いや日雇いのアルバイトなどで日銭を稼いで生活を築き上げ、仲間同士で支え合い、助け合って必死に生き抜いてきた場=コミュニティーの破壊でもあった。
 そしてその後も、長居公園に踏みとどまっている約50名のテント生活者に対して強圧的な「説得」が続けられていたのである。

緊急避難団結テント


 長居公園ホームレスの会および長居公園仲間の会は、今年に入り、現地の仲間や各地の仲間とともに1月2日に団結もちつきや東西交流、全関西交流集会を行い、1月6日には「仮設一時避難所」正門の真向かいに緊急避難団結テントを設営した。
 その目的は、(1)「説得」の名を借りた仲間の分断とコミュニティーの解体により、孤立を強いられ、不安な毎日を送っている残ったテントの仲間たちを励ますとともに、この厳寒期に、文字通り彼・彼女たちの命を守り抜く、(2)「仮設一時避難所」に入所したものの、展望のない収容生活の不安や不満を持つ仲間の寄り場であり、そして戻るところのない退所希望者の駆け込み寺=収容所からの緊急避難所としても利用する、また(3)長居公園を地勢的に軸とした多くの仲間の自主的な結びつきを基に、南大阪に広範囲に広がる仲間同士のコミュニティーとそのネットワークをさらに強く、固く、結びつけていく拠点として発展させていく、というもの。
 「仮設一時避難所」の前に堂々と建て、「新たなるホームレス対策」に対する異議申立ての意思を表明したのである。
 現在、長居公園のテント生活者とともに「大阪キタ越冬実」の仲間や支援者が常駐し、「勝ち取る会」が連日の炊き出しを全面的に支え、「医療連」が毎週水曜の机だし相談と東住吉福祉事務所申請行動を行っている。

強制撤去の恫喝


 1月23日、大阪市は、強制排除のための行政代執行手続を開始した。2月末に予定されている IOC委員視察を前に、「目障りな」野宿者テントを強制撤去するというのである。
 「ホームレスの会」および「仲間の会」は、これを日本の野宿者運動総体に対する深刻な挑戦と受けとめ、大阪市に強く抗議した。
批判は以下の3点。
(1) 本強制排除は、大阪市が昨年10月5日にした「強制撤去はしない」との約束に自ら反するものである。
(2) 日本初の野宿者向けシェルターが長居公園480張りのテント一掃と引き換えに実現されるならば、それはこれから始まる全国の野宿者対策の最悪の先例となる。
(3) そもそも本シェルターは野宿者が要求して実現したものではなく、大阪府への2008年オリンピック招致(長居公園にはオリンピック用競技場がある)に向けた貧困者隠蔽のための隔離収容施設であり、本強制排除も今年2月に予定されている IOC委員視察を目前に控えての極めて政治的な策謀であり、シェルター建設にあたって野宿者の主体的参画は一貫して無視され続けてきた。
 私たちが「屋根と食事」を対価に人間の尊厳を売り渡すことはない。(「長居公園行政代執行に対する抗議声明」より)

IOCに嘆願書


  2月5日、全国各地の野宿者・寄せ場運動団体(28団体)は、先の「長居公園における野宿者排除に関する抗議ならびに行政代執行中止要請」を大阪市に提出し、話し合いによる解決を強く求めた。
 すでに全国、全世界から大阪市に対して抗議の声が届けられている。国連の居住セクションからも大阪市長・磯村や日本国首相・森らに対して勧告が出されようとしており、先日のニューヨーク・タイムズ紙では長居問題を取り上げ、「経済の悪化により、ホームレスが増え続ける現状で、大阪・長居のような収容政策は破綻するだろう」と大阪市の対策を批判してる。
 包囲されているのは むしろ大阪市の方なのである。
 さらに2月8日には、国連・IOCに嘆願書を提出した。
大阪市の一連の動きが、国連で定められた野宿者強制排除を警告する国連人権規約やハビタットアジェンダなどに抵触することを国連に訴えると同時に、これらが今月26日に予定されている 委員の視察に向けた、貧困者の社会的排除であるとの認識から、国際オリンピック委員会宛並びに国際連合が、日本国政府、大阪市野宿者対策推進本部、JOC 、大阪市五輪誘致委員会へ抗議措置を執るよう求めたのである。
 大阪市は放漫な開発行政によって、財政破綻した。関西空港は、借金まみれの中でさらに二期工事を強行し、傷を大きくしている。莫大な借金と広大な荒れ地のみを残した「コスモポリス計画」は、周辺自治体を巻き込んだ汚職の温床となった。これほどの失敗を重ねながら、大阪市はさらに、五輪招致を強行する。
 不景気による失業者の急増で、日本全国の野宿者が3万人を越える厳しい状況の下、長居公園だけではなく、行政当局による野宿者の強制排除が全国各地に拡がっている。
 大阪市は、今回の合意で「テント撤去=収容施設建設」という「対策」を変更したわけではない。
 「仲間の会」・「ホームレスの会」は、今回の「合意」を第2ラウンドの開始と位置づけ「『対策』に関する様々な問題点や矛盾を明らかにし、『対策』を真に仲間の利益にかなうものへとつくり変えていく闘いを準備していく」としている。
 今回の長居公園野宿者テント撤去は、行政当局の政治姿勢さらに、日本社会の人権感覚が国際的に問われている。 

(この項終わり)


資 料

同施設入所者の状況レポート
入所者から見たシェルター
長居公園仲間の会・長居公園ホームレスの会


  
 以下は、長居公園内南東部に建てられ、2000年末から運営されている野宿者収容施設内の最近の状況を入所者から聞き取ったもの。シェルターで入居者は番号で呼ばれ、まるで刑務所のよう。

*所内の人間がシェルター前の炊き出しに参加するかどうかをシェルター管理側のNPOなどの人間が逐一監視。所内で待遇改善を訴えるだけでも要監視対象人物になる。
*自炊煮炊き用のガスコンロに風除けなどがない状態。最近やっと対策。
*モノ干し場が狭く、雨の日にはせっかく乾かした洗濯ものが濡れてしまう。
*唯一の提供食である夕食はご飯と漬物のみ。 基本的に夜8時までに食べなければならない。
*現在、テレビやコンロ、洗濯機などの共用部分について、独占したりする者がいる。
*各棟ごとに、仲間を取り仕切ろうとするボスが生まれている。
*毎日のように所内で飲酒によるトラブルが発生しており、その状況に不満を募らせる入所の個々人が精神的に疲れている。
*現在、退所者は16名くらい。何らかの待遇への不満のある人は全体の半分くらいいる。
*「福祉扱い」で3人が施設を後に。うち、シェルター側の斡旋では0名。
*1日10人が所内警備などの仕事をする。現在、170名ほど在籍しており、うち約70名が仕事にありついている。
*しかしながら、仕事は週1回程度で、1回につき日給2,800円。ないよりましという言い分もあるだろうが、馬鹿にしている。
*このほか、シェルター外出時と入所時に門番の前で、登録証を提示し、なおかつ番号を告げなければならない。門番職員は番号でシェルター入所者を呼び、出入を確認している。


(2001年2月7日)

(終)

 > 関連記事 「テントハウス」撤去のための収容施設建設 ――オリンピック対策か?(1059号)

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