Nシステム判決・成果と課題

Nシステム訴訟原告・原告代理人 弁護士 櫻井光政

2001年 3月15日
通巻 1071号

 去る2月6日、東京地方裁判所611号法廷でNシステム訴訟判決が下された。結果は原告らの請求をいずれも棄却するという敗訴判決であったが、その判決理由においてはNシステムがプライバシー権を侵害する可能性についても言及しており、今後の運動にとっても重要な意味を持つ判決だと評価してよいだろう。Nシステム端末のテレビカメラ
 私たちが最も恐れたのは、プライバシー権に全く言及しない、文字通りの門前払い判決であった。Nシステムで撮影されようが情報を把握されようが痛くも痒くもないではないか。だから原告には損害が発生したとは言えない。よって請求を棄却する、というような判決である。しかしこの裁判では、裁判所は私たちの主張を正面から受け止めて判決を下した。
 判決は事実の問題として、私たちが提出した証拠からはNシステムが画像を記録・保存しているとは認められないとした。また、ナンバー情報についても一定期間経過後に廃棄され、その管理も厳格になされているという国の主張を容れ、これに反する証拠はないとした。国の不法行為による損害賠償を求める今回の裁判では、Nシステムが画像を記録・保存していることや、データーが長期間保存されること、管理がずさんであることの立証責任は原告である私たちに課せられる。言い換えればそのような立証ができない限り私たちが主張する事実は認定されない。証拠を持っている者に証拠を提出させる手だてがないのが今の訴訟法の大きな欠陥である。
 判決は以上のような事実認定を行った上でNシステムに対する法的考察を加えた。そして憲法及びプライバシーの権利に関して次のように言及した。
「Nシステム端末のテレビカメラによって、搭乗者の容貌等を撮影し、その撮影された画像が記録・保存されているとすれば、これは憲法13条の趣旨に反することになる余地があることは言うまでもない。(中略)自由に移動する権利の侵害の主張について(中略)原告らの主張するような公権力による国民の行動に対する監視があるとすれば、その監視の目的、方法の如何によっては国民の私生活上の自由に対する不当な侵害として、憲法13条の趣旨との関係で問題となりうるところである。(中略)情報コントロール権の侵害の主張について、憲法13条は国民の私生活上の自由が警察権等の公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しており、この個人の私生活上の自由の一つとして何人もその承諾なしに公権力によってみだりに私生活に関する情報を収集・管理されることのない自由を有するものと解される。」
 前述の事実認定から、結局Nシステムによる情報収集は、収集する情報の性質、収集の目的、利用の方法などに照らして、憲法13条の趣旨に反して原告らの権利もしくは私生活上の自由を違法に侵害しているものとは認められないという判断が下されはしたが、Nシステムが持つ危険性がきちんと押さえられたことは評価すべきであろう。私たちに残された課題は事実を一つずつ明らかにしていくことだと考える。         (要旨)

 

(一矢の会発行「Nシステムニュース」第17号・tel03─3780─0993)

 

「ムーブメント」トップへ戻る

人民新聞社

このページは更新終了しております。最新版は新ページに移動済みです。