近くて遠い・・・最近のヨーロッパ事情 |
「口蹄疫」の衝撃足下の実態から先行する
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ロンドン/篠原良輔 |
2001年 3月25日
通巻 1072号
◆総選挙も2度にわたって延期イギリスのマスコミは連日、「口蹄疫」についての報道をトップで流している。 口蹄疫とは「ヒヅメをもつ動物に広がるウイルス性の伝染病」で、これに伝染するとその動物の口と蹄に水泡ができ衰弱していくという病気である。これが2月下旬にイギリスで20年ぶりに発見され、すごい勢いで全土に広がっており、3月末までに焼却処分された牛・豚・羊は30万頭に近づいている。 今回のイギリスでの口蹄疫の発生の原因は、いまのところ「中国から密輸入された中華レストラン用の安い豚肉」が感染源だと言われている。「汚染されていた密輸肉の余り物を残飯として豚に食べさせ、その後、ウイルスで伝染した豚から症状が出にくい羊に感染し全国に広がった」らしい。ロンドンには中華レストランがひしめき合う中華街があり、毎年、数千を超える中国からの人々がヨーロッパ大陸を経由して密入国してくる。それらの人々と同様のルートで汚染された豚肉も世界を駆けめぐっているというおもしろい現実が口蹄疫騒動から見えてくる。 イギリス政府をはじめ、世界各国はこの口蹄疫汚染をなんとか食い止めようと必死である。この口蹄疫のウイルスは非常に感染力が強く、動物同士はもちろん、ヒトや車や飼料などあらゆるものを媒介して広がっていく。イギリス政府は「ヒトの移動による汚染の広がり」を避けるために、4月に予定していた総選挙を5月、さらには6月に延期した。また、チェルトナム競馬やサッカー・ラクビーの試合も次々と中止となり、ピーターラビットでしられる湖水地方などの観光地ツアーもほどんど取りやめとなっている。 ヨーロッパ各国政府も、イギリスからの汚染を水際で食い止めようと、イギリスからの食肉類の輸入禁止措置を打ち出し、国民に対しては「イギリスへの渡航の自制」を呼びかけ、またイギリスからのヒトの渡航を削減するため、サッカーの試合などの各種イベントを中止させた。 ◆病原ウィルスまで自由に移動先日、私は全日空直行便でロンドンから成田空港に到着したが、機体から出たところで、なんと「消毒液にひたした絨毯」の上を歩かされた。全く、付け焼き刃的対応であり、笑ってしまったが、それほど、各国は口蹄疫ウイルスを恐れている。大韓航空にいたっては、チェックインの際にチョコレートやビスケットなどのミルク製品を原料をした食品の所持の有無を聞き、所持していればその場で破棄処分するということまでやっている(チェックイン後、また、デューティーフリーショップで同じ物を売っているにもかかわらず)。ほとんど根拠のない非科学的処置である。 このような各国政府の必死の汚染拡大阻止の措置にもかかわらず、汚染は拡大している。フランスでは、イギリスから輸入した羊をとおして牛が感染したのが確認された。オランダ・ベルギーでも同様のケースが確認されている。ヨーロッパ一体化をめざしている欧州大陸では、モノの移動の自由化促進のために国境での防疫検査を廃止していっているが、モノ・ヒト・カネと同様に、皮肉にも「病原ウイルス」も自由に移動していく状況が生まれている。 昨年、日本でも口蹄疫が発見されたが、その汚染源も輸入が急増している「飼料用の中国産の麦わら」の可能性が高いとされている。韓国でも台湾でも口蹄疫は続発している。 ◆すべからく国境を越え世界化これらの状況をみると、ここまで流通をグローバル化しておいて、「口蹄疫ウイルス」だけを一地方に閉じこめようというのは無理な話である。これはなにも口蹄疫ウイルスに限った話ではない。アメリカ・イスラエルの支配と闘うイスラム戦線や遺伝子組み替え種子と闘う市民運動・マクドナルドのホルモン剤漬けの安い牛肉と闘う農民運動・リゾート開発と闘うアジアの人々など地球上で闘われている人々の運動はすべからく国境を越え世界化している。かつて「資本主義の世界的発達は同時に世界革命の条件を育てている」というテーゼを聞いたことがある。いま、口蹄疫騒動をみていると、まさにその言葉が現実化していることを感じる。 日本政府は先日、「狂牛病」の国内流入防止策として、イギリスのみならず「欧州に半年以上滞在したヒトの献血を禁止する」方針を固めた。しかし、何て事はない、狂牛病の原因となった「病気の羊を粉砕した飼料」は、すでに日本にも輸入されており、厚生省は日本での狂牛病の発生の事実を極秘につかんでいるとの話である。 アメリカを盟主とするグローバル化にたいして、我々は率先してインターナショナル化とアナーキー化を目的意識的に進める必要があると思うが、どうだろう。
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人民新聞社
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