当初の計画はことごとく頓挫
経営的見通しは全く立たず
関空2期工事は「2007年に平行滑走路の供用開始を目標として、現在の空港島沖に545メートルの用地を造成(埋め立て)し、4000メートル滑走路1本とこれに関連する諸施設を整備」しようというもので、1999年7月から着工された。事業費は1兆5600億円。
昨年秋、政府・自民党内で関空2期工事見直し論が急浮上した。「公共事業批判の高まりを背に、2期工事の着工を認めたばかりの大蔵省が身を翻し、『滑走路1本できゅうきゅうとしているのに、2本にして需要が伸びるのか』(幹部)との疑問を呈し始めた」のである。この時は、太田府知事と関西財界が何回も上京、運輸省と組んで必死の巻き返しをはかり、計画通りの推進で「政治決着」した。が、政府・自民党からさえ疑問が噴出した関空の「不振」は何一つ解決したわけではない。
問題の第一は、何よりも経営的な見通しが全くたたないことである。1994年、関西空港は中曾根「民活」の第1号として、「アジアの国際ハブ(拠点)空港」「関西活性化の起爆剤」をうたい文句に開港した。24時間運営で発着能力は年16万回、「開港5年後には単年度黒字に転化」というのが当初の計画。しかし、現実は―
利払いが営業利益の倍以上
累積赤字は1500億円超
◆発着回数は99年度で11万8千回。しかも、海上埋め立てという巨額の費用を要する工法を採用したため、着陸料が世界で2番目に高いものとなり、そのため航空会社の撤退や減便が続いている。
◆1期工事の1兆円を越える借金を抱えてスタートしたため、支払い利息は昨年度で444億円、営業利益214億円の倍以上で、累積赤字は1500億円を越える。
◆今年3月、韓国・ソウルの仁川空港が開港。仁川空港は開港時で4000メートル級滑走路2本を備え、年間発着回数は17万回。着陸料はジャンボ機1機当たり約30万円で、今年4月に値下げして83万円になった関空の、それでも3分の1近く。日本の地方空港とソウルを結ぶネットワークも年々広く太くなっており、「アジアの国際ハブ空港」としては最有力候補。
◆2002年には成田の2本目の暫定滑走路が完成することになっており、羽田の拡充も含め、需要が増加している首都圏の空港整備に集中すべきだとの意見が、業界や関係者の間で強まっている。更に、現在の伊丹空港との競合に加え、今後、神戸空港や中部国際空港の開港に伴い空港間競争は一層激化していくことが予想され、関空に乗り入れる航空会社は減りこそすれ増える見通しはない。
関空は事実上失敗作
―1期工事地盤沈下対策委員長が公表
問題の第2は、本紙でも再三にわたって取り上げてきた地盤沈下の問題である。そもそも地盤沈下については、学会内でも工事以前から、技術的にも未経験で予測不能であること、かなり長期間にわたって相当の沈下が発生するであろうこと、不等沈下が避けられないこと、等が指摘されてきた。
にもかかわらず、こうした意見は「関西活性化に向けた早期開港」が至上命題とされる中で意識的に無視された。そればかりでなく、関空会社は予想を上回る沈下が明らかになる度にそれまでの見通しを訂正、少な目の予想値を発表してはまた訂正するという泥縄的で醜悪な対応を繰り返してきた。
◆8メートル(着工時)→10メートル(92年開港延期決定時)→開港後10年後から11.5メートルで収束→10年後11.5メートル、50年後12メートル→最終的な沈下は12メートルから12.5メートル程度(今年1月)・・・?
先日、嘘の上塗りを続けてきた関空会社にとって強烈なダメージとなる意見が明らかにされた。関空1期工事の地盤沈下対策委員長であった赤井浩一京大名誉教授が、インターネット上で「『関西空港』建設の事後評価―それは世紀の失敗作なのか」を公刊、「海底地盤の特性評価をないがしろにした」「全沈下量が10メートルを超えるような巨大な沈下量を経験したことは世界的にもいまだかつてなかった」「問題の多くは今日、依然として未解決のまま残されている」「修理・保全・整備費の増大は避けられない」などとして、関空が事実上「失敗作」であったことを認めたのである。
「今更よく言うよ」との感なきにしもあらずだが、看過できないのは、「問題の多くが未解決なまま」開港を強行したために「修理・保全・整備費は増大の一途」で、前述の営面での悪化に拍車をかけてきたし、これからもかけ続けるだろうことである。関空の1期建設費は当初1兆円だった。ところが、地盤沈下が予想を超えたため、実際にかかったのは1兆5000億円。そして今、ターミナルビル周辺などへの地下水の浸透を防ぐための止水工事が270億円をかけて行われている。関空が依然として沈み続けている(しかも不等沈下!)以上、今後「モグラ叩き」のような工事にいったいいくらの費用が必要なのか、誰にも分からないのである。
官民共同「国策会社」の
「親方日の丸」的体質
1期=現在の関空の惨状からすれば、現在進められている2期工事の行く末もまた自ずと明らかだろう。1期の埋め立て地域の平均水深は18メートルだが、2期のそれは22メートルで、海底地盤もより軟弱とされている。赤井氏が指摘した問題が2期工事ではより深刻な形で再現され、しかも、それぞれの沈下に差が出ることによる不整合をどう繋ぐのかという新たな困難まで発生してくるのだ。事業費が1兆5600億円で済むなどというオメデタイ話は、事業当事者たちですら信じていないに違いない。
そして、私たちにとって一番の問題は、1期・2期を通じた膨大な負債が、最終的には公的資金=税金で尻拭いされるということだ。関空会社は株式会社であり、本来なら破綻した場合の責任は経営陣が取るべきはずである。が、前述したように関空会社は、中曾根「民活」の第1号として国と地元12自治体、民間企業が出資して設立され、「役員・部長29人のうち省庁出身・出向者が20人を占める」という言わば「国策会社」。経営陣は当初から「親方日の丸」で、責任感も能力もなし。一方、政府・行政の方も自ら音頭を取って発足させた以上、面子や責任問題もあって簡単に破綻を認めることはできない・・・つまり、典型的な「馴れ合い・無責任」の構造ができ上がっているのだ。
既に、用地を国が買い上げる、公団化=実質国営化、等々、公費投入のための案が水面下で検討されている。誰が見ても全く将来性のない計画に膨大な金が注ぎ込まれ、しかも破綻は税金で穴埋めされる。こんな馬鹿げたことがいつまで許されるのか? 小泉政権は最低限、関空2期工事を直ちに中止すべきであろう。
(つづく)
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