「希代のペテン師」小泉首相
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渡辺雄三/渡辺政治経済研究所 |
2001年 6月25日
通巻 1080号
小泉政権が掲げる最重要課題は「骨太」が枕詞の「経済の構造改革」です。この中でトップ項目に上げているのが「不良債権の2〜3年以内の処理」です。 その理由は、不良債権を金融機関が処理しなければ、日銀がいくら金融緩和をしても金融機関が新規融資を増やすことができないので、日本経済の再生がスタートしないからです。しかし、小泉内閣のこの公約に対して様々な疑問が出されているものの、マスコミは世論から「小泉叩き」と非難されることを恐れて、正面から疑問を呈しようとしません。 私の結論を先に言うと、小泉内閣の「不良債権を2〜3年以内に処理する」との公約は単なる「数字合わせ」に過ぎません。その理由は、世論に不評の「金融機関への公的資金の再注入」を避けたためです。 この結果、80%を超える高支持率を誇る「改革の騎手」小泉純一郎首相は、「希代のペテン師」として日本の歴史にその名を残します。この詐欺師の公約が何を日本にもたらすかは、いまさらくどくど説明するまでもありません。 この公約が達成されなければ、日本の銀行は外国の金融機関の信用を失い、新規融資をストップされます。その結果は長期金利の急騰、666兆円という巨額の債務を抱えた国家の破産、ハイパーインフレの発生です。 まず、金融庁が公表している金融機関の不良債権の中身ですが、真っ黒の「破綻先・実質破綻先」と認定し、100%の貸倒引当金を積んでいる債権は13兆4460億円です。次に、灰色の「今経営破綻に陥る恐れの高い取引先」と認定して70%の貸倒引当金を積んでいる「破綻懸念先債権」は20兆5100億円です。この2つの債権33兆9560億円を指して、金融庁は「不良債権」と呼んでいます。 だが、この他に「3ヵ月以上滞納あるいは貸出し条件を緩和して、注意が必要な債権」、すなわち「要注意先債権」が116兆9660億円もあり、これに対して各金融機関は15%の貸倒引当金を積んでいるに過ぎません。この「要注意先債権」は「不良債権予備軍」です。 その理由は地価、株価の下落が止まらないので、この債権がいつ「破綻懸念先債権」になるか分からない非常に不安定な状態にあるからです。倒産した「そごう」は「要注意先債権」に分類されていましたし、経営不安があるマイカルもそうです。中堅ゼネコンの問題企業フジタもここに分類されています。 |
大手16行の業務純益は2年前まで年間10兆円ありましたが、現在7兆円規模です。これで2年以内に処理できる不良債権は14兆円です。それゆえに、小泉内閣の「2〜3年以内に不良債権を処理する」との公約は資金的に余裕があるように見えます。 だが、不良債権の金額そのものが流動的であり、地価と株価が下がり資産デフレ進行中の現在、その金額は止めどなく増えています。小泉内閣出現後の1ヵ月間で東京証券市場の株価時価総額は382兆円から367兆円に、15兆円も目減りしています。それで不良債権処理を引き延ばせば引き延ばすほどこれに必要な費用が増えていきます。 それならば、なぜこんな中途半端な不良債権処理策になるのでしょうか。その理由は、これ以上踏み込んで小泉内閣が不良債権処理を進めると、金融機関への公的資金の再注入に踏み切らなければならないからです。 だが、それをやれば世論の批判を招きます。これを恐れて小泉内閣はそんな中途半端な、世論を欺く公約をしたのだ、と私は見ています。それゆえに、私は小泉内閣を「希代のペテン師」と呼ばざるをえません。 マスコミに登場するエコノミストたちは「景気対策をしてから不良債権処理に手を付けるべきだ」と主張していますが、私はこれに反対です。なぜなら、景気対策は不良債権処理費用を膨らませるだけだからです。 先ず、不良債権処理の前に、税金によってしっかりしたセーフティーネットを張るべきです。失業者をダシにした公共事業という誤魔化しを止め、建設業に固有の日雇労働者向けの失業保険制度を創設し、道路特定財源を都市開発に回すのでなく、それで過疎化が進んでいる山間地に住む人達の所得補償制度を創設し、山間地の過疎化に歯止めをかけるべきです。 |
(終)
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