ヤミ融資に揺れる高知県政 |
副知事ら17名の逮捕者を出し
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背景に部落解放同盟内利権集団と行政との癒着 |
2001年 6月25日
通巻 1080号
「私自身、自分の身の処し方ということに思い悩み、まずは県民の皆さまが今回の問題をどう受け止めておられるのか、……ご意見を聞いていきたいと思っております。併せて、今月(5月)末には、百条委員会のご報告も頂くことになっておりますので、そうしたことを踏まえて、自分自身の身の処し方というのは判断をしてまいりたい」 「県政フォーラム2001」高知会場での橋本大二郎高知県知事の発言である。 落下傘候補として知事選で圧倒的ともいえる支持を受け3期目10年、県政の「改革」を進めてきたかに見えた橋本知事の進退が問われるヤミ融資事件に、高知が大きく揺れている。 |
1994年、安原繁容疑者(詐欺罪で起訴、公判中)が、県内の縫製工場6社で「協業組合モードアバンセ」を設立し、南国市十市緑ヶ丘に総工費22億円で最新鋭の工場建設を計画。県から「地域改善対策高度化資金(中小企業高度化資金融資制度のうち同和対策特別枠)」14億4千万円の貸し付けを受けて事業を立ち上げたのが始まり。 ところが、主力銀行がこの協同組合の経営を危険視し、融資を断ったため、1996年6月操業開始前に運転資金に行き詰まってしまう。あわてた県は、議会や県民に全く秘密のまま(これが「ヤミ融資」と言われる所以)この協業組合だけを対象にした特別な融資制度をつくり、当時の山本副知事決裁で、県の予算を勝手に流用して10億円の融資を行った。 ヤミ融資制度は、翌年4月「産業パワーアップ融資」と名前を変えて継続されたが、97年12月、再び協業組合が倒産の危機に直面したため、さらに2億円の追加融資が行われた。ところが、その後も経営は軌道に乗らず、今年5月31日事実上倒産した。この結果約26億円の大半が焦げ付き、回収不能となっている。 この事件に関し、県議会は昨年3月、百条委員会での調査を開始。今年5月30日「副知事任せの二重構造」と、重い知事の責任を指摘する報告書を提出した。また、県警特別捜査本部は、5月10日、最初の10億円あまりについて背任容疑で山本卓・元副知事ら県職員とモード者側の計11人を逮捕、捜査を続けている。 |
ヤミ融資は、他にも行われていた。1996年、高知県が土佐闘犬センター(高知市浦戸)を救済するため県単独で9億5000万円の直貸しを計画。四国銀行に融資を依頼する念書を差し入れ、県が予算措置するまでの「つなぎ資金」として融資させた。当時の県の鍋島孝雄企画部長と川村龍象商工労働部長(背任容疑で起訴)が私印を押した念書を出し、山本卓副知事も直接支援を要請。高金利借入金で経営が悪化した闘犬センターの不良債務などに対応するため、1997年度当初予算で9億5000万円を予算化し、1999年度まで継続したが、闘犬センターの担保が整わないことから財政当局や知事の反対で融資は未遂に終わった。しかし融資が焦げ付いた場合、つなぎ融資に応じた四国銀行から、今後県への損害賠償請求も予想される。県議会は、背任未遂だとして担当者を告発した。 また、1997年5月には、県が佐賀町の水産加工会社救済のため、地元銀行の融資を受けさせようと計画。融資に県信用保証協会の保障をつけようとしたが保証人が見つからなかったため、県幹部らが水産加工会社と関わりのあった京都府内の会社役員の元に出向き、同協会に対する保証人になることを要請。会社役員は、県から「迷惑はかけない」と明記した念書を受け取り、保証人になった。ところが、会社役員が保証人になった融資のうち9500万円分が焦げ付き、信用保証協会が融資した銀行に代位弁済をすれば、同協会が会社役員に支払いを求めることになる。 橋本知事は、「県が債務を負ったものではない」としているが、水産加工会社が倒産した場合、「念書」を盾に地元銀行が県に責任を求めてくることもあり得る異常な事態となっている。 こうした念書・覚書の類は、かなり広くかわされていたようで、県側は、実態調査をした上で、現在とりまとめの作業を行っているという。 |
モードアバンセ社への融資は、詐欺事件だったのではないかのとの見方がある。県警は、詐欺罪としてモード社役員を取り調べ、県側を被害者とする詐欺、または詐欺未遂罪での立件を目指すと見られる。 ちなみに、この融資の胡散臭さを象徴するような次の事実も確認されている。すなわち、最初の高度化資金4億9千万円の融資は、工場用地取得・造成に使われたが、この工場用地1万7351平方メートルのうち1万5127平方メートル、実に87.18%が豪遊会系暴力団組長から購入されているのである。 県商工政策課の担当者も2回目の融資実行前に、高度化資金が本来の使途に使われておらず、モード社がだまし取る意思があったことに気づいていた。 協業組合に入った5社は、組合結成以前から負債を抱えており、負債を帳消しにするために県からの融資引き出しを狙ったのではないかと思えるのだ。実際、モード社を結成した5社は、抱えていた借金(合計約6億5000万円)を新会社に持ち込み、これにより当初の事業計画が破綻。その上で追加融資の際には、負債のほとんどをモード社に残したまま各工場の分離を進めたり、モード社の理事2人を連帯保証人から外すなどしている。モード社も県側も、経営破綻で回収困難であることを十分知った上で、県単独融資を実行し、破綻後の責任から逃れるための工作まで行っていたのである。 |
県議会百条委員会調査報告は、事件の背景を次のように述べている。 「県が特定の団体・企業や個人に対し主体性のない判断をし、特別の便益を図ろうと対応するなど、行政の古い体質が深く関係していた」。ここで言う「特定の団体・企業や個人」とは、部落解放同盟に連なる利権集団であるが、「これら(不正融資)は、同和対策が団体対策や団体の幹部対策に陥り、県が同和対策の基本をゆがめ、極めて異常な判断をした結果である」(同報告書)。橋本知事自身も、「特に、同和対策特別措置法ができて、同和対策が特別な対策と位置づけられ、お金とこの運動とが絡み合うようになった時点から運動の質はかなり変わってきたのではないかと思います」と述べている。 いずれにせよ、行政が融資の審査基準も無視するほど「同和対策」を特別視してきた行政の体質、そしてそこにつけ入って私的利益を得ようとする利権集団の暗躍がこの事件の背景にある。一部幹部対策と化していた同和対策ではなく、就学・就労など本当の意味での人権対策に切り替えていく必要が指摘されている。 |
6月25日、橋本知事は、自らを2003年12月までの任期中10分の2の減給等を決めた処分案を県議会に提案した。引責辞任はしないとの意思表示である。 橋本知事の進退については、引責辞任、留任、一端辞職し出直し選挙で信を問う、等の選択肢があった。橋本知事も「知事の座にしがみつく気持ちは毛頭ない」として、進退については、思い悩んでいた様子が窺える。しかし、橋本知事の責任については整理しておく必要があるだろう。 (1)真相究明に非協力的態度 まず批判されるべきは、真相解明に向けた非協力的な態度である。県当局は当初、百条委の資料請求に対して肝心の部分を黒塗りにした上、橋本知事も百条委を秘密会にするよう提起するなど自ら調査しようとはせず、被告発者が出るまで非協力的な姿勢に終始した。しかし百条委は公開審議の姿勢を崩さず、世論の強い関心を背景に調査を継続。その結果が捜査当局の強制捜査につながった。このことは百条委調査報告書の中でも次のように厳しく批判されている。 「県は当初『百条委の真相究明より企業利益を優先する』という考えのもと、委員会の調査に非協力的な対応に終始し、県民や議会の納得が得られなかった」。「知事がトップとしてリーダーシップを発揮し、当委員会の調査に協力していれば、もっと早く真相の解明や県政の改革を行うことができた」。 (2)内政は副知事任せ 橋本知事は、内部管理を副知事以下に委ね、副知事らも知事に報告をしないで決済するなど「権力の二重構造」が生じていた。逮捕された山本副知事は、庁内きっての切れ者といわれたが、一方で古い組織体質を体現しており、橋本知事も彼の組織運営に乗りかかっていた。特に県同和対策本部は副知事が本部長で、最終的な意思決定はすべて副知事が行っていた。このことが副知事と一部利権集団との癒着を生み出す原因となり、今事件の主役とみられる安原容疑者の影響力は、「知事と同じくらいである」と証言されるような状態を生み出してきた。 長野県の田中知事、宮城県の浅野知事など「改革派・市民派」イメージの知事登場は、古い体質の官僚・既成勢力との闘い抜きにその実は結ばない。青島都知事は強大な官僚組織にその手足を縛られ、結果的に都民の期待を裏切ってしまったが、一方で橋本知事のように二重権力状態で組織運営しているというも現実なのである。 (3)トップとしての責任 世間では、10年間トップにいて、不祥事を前任者のせいにすれば、卑怯者と呼ばれる。古い体質が生み出した事件であり、確かに橋本知事はこの事件に直接関与していない。しかし、「私は知りませんでした」で済む話でないことは明らかだ。 |
今事件の主役となった利権グループは、県庁、教育委員会はもちろん、県議会や警察、新聞社などにも協力者がいるという。議会の知事辞職を迫っている議員たちの中には、知事にこのまま真相究明されたら困る人が含まれているのだ。 先にも述べたように、橋本知事の責任は辞職に値するものかも知れない。しかし知事辞任で事件の幕引きをはかろうとする巨悪の存在を見逃してはならない。 |
(編集部)
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