「世界の警察」アメリカの一隅から |
アメリカの常識=世界の非常識 |
2001年 6月15日
通巻 1079号
1年前、金大中大統領の平壌訪問、金正日委員長との共同声明発表という画期的なことがあった。続いて欧州諸国やオーストラリアなど多くの国が北朝鮮との国交を樹立した。合衆国もオルブライト国務長官が平壌を訪問した。クリントンの訪問も話題にのぼった。しかし、1月に発足したブッシュ政権は、北朝鮮を「ならず者国家」と呼び、「交渉せず!」という姿勢をとった。それは金大中政権をはじめ多くの人々を失望させるものだった。そのブッシュ政権が6月6日、「北朝鮮との接触再開」を発表した。強硬姿勢に安心しきっていた日本政府などはさぞかしびっくりしたことであろう。 ここで少し変化の原因を考察してみたい。 ほぼ1月前の5月初めに、合衆国は国連人権委員会でのポストを失った。ブッシュ政権周辺からは、国連は民主的でない、人権の意味がわかっていない、などといった非難がなされた。他方マスコミなどは、同政権が97年の京都合意を一方的に反故にしたこと、環境保護よりも油田やガス開発といった政権と直結している企業の利益を優先していること、ミサイル防衛システムの推進策においてロシアはもちろん西欧諸国からの反発を招いていること、などをその理由として解説していた。 言うまでもなく、理由はその程度にとどまらない。湾岸戦争症候群などの原因の一つは劣化ウラン弾だという批判が、NATOや第三世界に広がっている。イラクなどに対しては制裁を推進しながら、イスラエルに対しては制裁はおろか非難決議にすら拒否権行使というダブルスタンダードをさらけ出している。98年ローマでの国際刑事裁判所設置規定に、外国駐留中の軍人が対象となることを惧れて、反対している。核兵器の廃絶にも反対。地雷の廃絶にも反対。 それどころか、地雷廃絶運動に関わっていたダイアナ妃やマザー・テレサの電話盗聴をも合衆国はやっていた。様々な外国企業に対してもしかり。ということは、いろんな領域における有名、無名の人物や企業も同様ということである。自国の利益、それも政権と直結する大企業の利益を第一とするあり方に、世界各地からの批判の声が大きくなっても不思議ではない。 |
批判は外国からだけではない。5月末にジェフォード上院議員が「共和党はあまりにも右へと片寄ってしまった」と批判して離党を宣言した。民主党へ移る……という推測もあったが、同議員は「無党派として活動」と宣言した。わずか1票の差だけど、これで上院は民主党が多数派になった。ブッシュ政権は独善的行動に枠をはめられた。 他方、昨年大統領候補選びで最後まで競った《マッケーン上院議員も離党し、次の大統領選挙では第3の党で挑戦する》というまことしやかなストーリーも流れている。 イラクなどの「ならず者国家」に対して「賢明な制裁」なる少し形を変えた制裁の継続をブッシュ政権は提案していたが、国際社会ではほとんど支持を得られなかったことも最近明らかにされている。 要は、この唯一の超大国は今や国際的には指導力喪失状態に陥っているし、内にあっても足元がしっかりしていないという状況なのである。 一見、「ひょう変」とも思えるような北朝鮮との接触再開発表はそうした状況の中でのものである。合衆国のマスコミの中にも《突然ではあるけれども、別に驚くことはなく、むしろ当然》という声すらある。 「寝耳に水」と驚いているのは自民党政権ぐらいのものかもしれない。30年程前のニクソン・ショックと同じ赤恥をかきたいのだろうか(?!)どこかの国の人々は。 |
(小)
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