市場の自然発生的現象に追随した小泉の「改革」 |
私たちの側には断固として抵抗する
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渡辺政治経済研究所・渡辺雄三 |
2001年 5月25日
通巻 1077号
現在、地価、株価の下落、いわゆる「資産デフレ」によって、バブル以降この10年間に、この国の地価と株価の目減り総額は1300兆円、国民総生産(GNP)の3年分という巨額に達しています。これが起こった理由は、国境を超えた資本蓄積の展開(グローバリズム)による避けられない結果でした。
それは地価や株価の高騰が資本の利潤率を引き下げるからです。これは企業会計の仕事をした人なら分かりますが、企業の経営効率を示す利益率の分母が資産総額であり、分子が業務純益です。業務純益が同じだとすると、分母が膨らめば利益率は下がります。
資本は利益率の低いところから高いところへ向かって移転します。バブル
期の日本のように株価や地価が世界的に見て異常に高くなると資本の利益率が下がるので、もっと地価や株価が低くて利益率の高いところへと向かって日本から資本が流出します。これを誰も止めることはできません。
こうして、国境を超えた資本の自由な移動は利益率の低い非効率な国や企業を容赦なく攻撃し、市場からの退場を求めることになります。これが「資産デフレ」の起こった原因です。そして、非効率な日本経済の象徴が、現在政治の焦点となっている「不良債権」であり「郵便貯金の民営化」です。
資金の貸手である金融機関経営者にすれば、不良債権の発生によって個々の返済不能になった企業に対して「死亡宣告」すべきところを、地価がそのうちに上がるから、そのうち政府が救いの手を差し延べてくれるからと期待し、自民党も彼らに期待を持たせてその処理を引き延ばしてきたために、バブルが弾けて10年以上たっても、不良債権は増えるばかりです。
自民党は景気回復という迂回路を通ることによって不良債権を処理するとして、国債発行によってこの5年間に100兆円を超える公共投資をします。この結果、来年度末で公債発行残高が666兆円に達しますが、それに対して国債価格の暴落を恐れて債券市場で金利が急騰します。こうして、政府の国債増発による景気回復政策に対して市場はレッド・カードを突きつけます。
したがって、現在のデフレ現象から私たちが読み取るべきことは、国家資金という上げ底を使った見かけ倒しの日本経済のいかがわしさが、すでに投資家たちから見透かされいるということです。したがって、国家資金が底を突いた今、日本は見かけ倒しの上げ底をした非効率な経済をもっと効率的な経済に変えるために、これまでの国家と経済との癒着を断ち切らざるをえません。
この市場が求めているものを敏感に受け止め、大胆に国家と経済との癒着を断ち切ろうとして「変革」を訴えているのが小泉首相です。それゆえに国民の高支持率を彼は獲得しました。
しかし、この国家と経済との癒着に対して何の罪もない、この失敗に対して責任を取るいわれもない、またこれまでそれによって何の恩恵も受けたことのない人たちが、政治の都合によって一方的にその責任を負わされようとしています。首相に対する国民の支持率がどんなに高かろうとも、市場と国家との癒着から恩恵を受けてきた人は別として、無縁な立場にあった私たちにとって大切なことは、これに対して断固として抵抗する正当な理由が私たちの側にあるということです。
したがって、小泉首相の「改革」は市場の自然発生的な要求に追随しているに過ぎません。これに対して私たちの求める「改革」はこれを乗り越え、市場を利用するがそれに振り回されない人間本位の政治を求めて戦い続けるだけです。
いま、野党は自民党の支持率の高さに驚愕し、解散・総選挙を恐れています。これは小泉が変えようとした自民党内部に潜む国家依存体質と同じものを彼らも共有していることを、問わず語りに示しています。
彼の政権によって自民党が再生されるかというと、私はそれに対して逆のことを考えています。国家との癒着を断ち切れない人たちは少数になりますが、一方で彼らこそ真の自民党員であり、他方で市場の要求に忠実であろうとする日和見主義自民党員との分裂は避けられません。
そうなると、これは政界全体を巻き込んだ再編成の渦が巻き起こり、いわゆる「ガラガラポン」となります。その引き金を引いたのが小泉純一郎です。
(終)
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