『中国全球化が世界を揺るがす』
(ウェッジ選書・1200円)

2001年 5月15日
通巻 1076号

▼政治・経済のフラストレーションが爆発したとき中国はどうなるのか?

 「全球化」というのは中国語で「グローバリゼーション」のことだ。この本では、中国がグローバル化したとき、中国はどうなるか、日本や世界はどうなるかをあえて予言しようとした試みである。
 中国はいま、政治は社会主義、経済は限りなく資本主義に近づいている。私から見れば、日本以上に資本主義的な感があるが、この本でも当然のことのように同じことが書かれている。しかし、政治は社会主義であるという前提で。
 執筆者の中心は国分氏(40代後半、慶大・ハーバード大・復旦大・北京大)で、中国人の張さん(40歳くらい、華東師範大、日本在住6年)、松井氏(50歳超、東大)がこの予測に加わり、40〜50代の中国研究者が加筆している。
 中国がなぜ に加盟したかったのか、西部大開発がなぜ唐突に出てきたのか、グローバリゼーションと文化(人の考え方)の矛盾はどうなるのか、急速に浸透するアメリカ式生活方式などが、具体的数値とともに解説される。グローバル化していくときの問題として、文化(考え方)の問題、衣食住・人口・エネルギー・水・公害・環境などの現状と予測が詳しく論じられている。
 グローバリゼーションに対して、国境を閉ざしていればその荒波を防ぐことはできる。しかし外国の力(資本)を使うとか、外国にものを売って稼ごうとすれば、国境を開けざるを得ない。その瞬間、グローバリゼーションの荒波は国内に入り込み、内側から国境を崩してしまう可能性もある。少なくとも中国は国境を開け、 に加盟しようとしている。マクドナルドやケンタッキーは街のあちこちではやっているし、コーラも日本以上に人気のある飲み物だ。すでに多くの人が、アメリカの価値観をすんなりと受け入れ始めている。
 しかし、生活・文化・経済の価値観と政治の価値観が180度違ってしまったとき、中国はどうなるのだろうか。張さんは次のように言う。「本来、どの社会でも、欲望の生産と抑止は自動的に調節され、ある程度バランスがとれるようになっている。…つまり経済と政治が同じ文化回路を形成するときには、少なくとも自律的な相互抑制によって、社会的な歪みは修正可能になっている。しかし異なる文化回路が交差したときには、どちらのチェック機能も働かない」。
 それぞれ(政治と経済)のフラストレーションがたまっていって爆発するとき、誰も予測し得ない中国が生まれる可能性もあるが、数十年をかけて資本主義的民主主義に収れんしていってほしいと予測する本である。中国の今とこれからを、現実的・マクロ的に捉えるのにいい本だと思う。

評者・森

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