★管理職ユニオン・関西 事例レポート

会社人間からの脱皮事例紹介
人件費削減、「出向先を自分で探せ」
という攻撃との闘い

書記長・仲村 実

2001年 5月15日
通巻 1076号

■業務命令に名を借りた、ふざけた人権侵害

 リストラマニュアル満載の大手S金属工業の子会社で、物流部門で働いていた 事業所の元管理職、53才男性の事例です。
 昨年10月中旬、突然上司から「君が系列外の他社出向要員として指名された。だから承知して欲しい」と宣告された。Nさんは30年近くの勤続年数で、会社の言われるがままにがんばってきた真面目人間の見本みたいな人である。
 彼の相談カルテを見ると、「そのとき、気が動転し、とうとう俺にも順番が回ってきたのかとショックが大きく、『はい』と答えてしまった」と記されている。
 11月1日付けで「総務人事部」に配転辞令が出て、数日後にそれまでの業務の引き継ぎをしたうえで、本社に異動する。
 配転とはいうものの、Nさんへ出された業務指示は、「ひたすら求職活動に専念し、1日も早く出向先を自分自身の努力で見つけるように」というものであった。私から言わせると「出向先を自分で探せ」とは、業務命令に名を借りたふざけた人権侵害行為である。
 真面目なNさんは、毎日このふざけた「業務指示」を実行したのである。具体的に何をするかといえば、今までの月給45万円の10万円は会社が持ち、残りの35万円の収入が得られる会社を自分で探してこいということである。
 Nさんは、ハローワーク、人材銀行などに通い、求職活動のため毎日歩き回るのである。「自らの出向先探し」の業務とは言えない「業務」に毎日専念するわけである。

 

■月曜日に前週の求人活動を人事部上司に報告

 1ヵ月が過ぎたある日の夕刻、友人の紹介でNさんは初めて組合事務所に相談にきた。Nさんは、「自分と同じような立場に置かれた社員は、すでに数人が辞めさせられている」現実を語り、「自分としてはどうしたらいいのか判らない」と暗い表情でボソボソと話した。その当時の、暗い顔の元気のなかったNさんの顔が浮かんでくる。
 Nさんの毎日は、クソ真面目な性格が災いして、月曜日に前週の求職活動の報告を書面にまとめ、人事部の上司に提出することになったわけである。
 Nさんが書いた「求職活動における諸問題および実態の現状中間報告」には、求職活動の困難さが記載されている。
 社会的外部要因の、
(1)年齢的要因として、一般作業および警備業務、トラック乗務員を除く業種は45歳を上限とする年齢制限が非常に多い。
(2)専門職領域制限の要因。
(3)「出向扱い」拒否企業の要因として、求職企業の約85%が「転籍」「純社員」を希望しており、「出向社員」の募集は少ない。社内的要因として、年収300万円以上/年でないと「出向」させる意味がないという制約。
 自己的満足度要因のあと、結びに「求職活動は懸命に実施しているが、なかなかこれという企業が少ないのと、当方が就職したい希望があっても先方の都合なり、求職者が多いこともあって、時間を要しているのが実態であります」と述べている。面接までこぎつけたのはたった3社、未だ就職先は決まらないままである。
 話の中で私はNさんに、「いずれ会社から、貴方は能力がないから出向先を見つけられないのだ。会社にも席がない。辞めるしか仕方ないでしょうと言われます」。続けて「出向先を自分で探せと言われて、よく『はい』と言って受けましたね。私なら、『出向してほしいというなら、出向先をいくつか用意して示せ。それからゆっくり考える』と対応しますよ」と言ったが、うなずくものの「そうします」という元気な答えはなかった。
 Nさんには、業務命令による仕事の取り上げ、いじめ・嫌がらせなどの行為は人権侵害であり、その事例を紹介し組合に加入したら何ができるか、ひと通りの説明をした。その上で、Nさんに「どうしたいのか」と尋ねると、「会社から給与をもらっているのだから、今の求職活動は仕方がない。もう少し続けてみます」ということであった。私の返事は「そうですか」で終わり。
 数日後、人事部の上司に呼ばれ「1月末までに就職が決まらないようであれば、2月から『転進休暇』になる、そして辞めてもらう」と退職勧奨を受けたのである。


■他の組合員との交流が一番大きな収穫


 2回目の訪問時は、加入と同時に団体交渉要求書を提出すると決意していた。Nさんの要求は「単身赴任、社内の配転には応じる、また、関連会社への出向については指示があればそのときに考える」とはっきりした。
 今日までに3回団交を行った。第1回目の団交では、緊張はしたもののNさんは要求だけはしっかりと述べた。2回目では、余裕も少し出てきた。団体交渉では、「社内の配転先か、関連会社への出向の具体案を次回の交渉時に示せ」と迫った。2回目を終えたNさんは元気になり、仕事を与えない上司に対し、職場では本を読み、パソコンで遊び、時には地下の喫茶店に行けと組合から指示を受けていると対応するようになった。組合事務所にもよく顔を出すようになり、初めて訪れる人の相談員にもなった。
 会社が「現在出向先を検討中」を理由に団交を延ばして持たれた3回目の団交では、関連会社への出向案が出てくる。遠方なので、私は「検討して答える」と言おうとしたら、Nさんは「行きます」と、ここでも真面目な対応をしてしまった。その後出向に当たっての確認書をかわし、Nさんは出向先に単身赴任していった。
 そのNさんの解決報告文の中に書かれている一文を締めにする。
 「これから組合に参加される方たちに是非とも申し上げたいことは、組合にできるだけ顔を出し、他の組合員の方たちと話し合いの機会を多く持つことが自分自身にとって一番大きい収穫だということです。みんなの元気な顔を見ていると自然にビタミンをもらうことになり、それが自分の立場や考え方に徐々に影響を与えるのです。気がついたら私のように闘志の塊になっていますよ。きっと!」

(終)

【参考】

「管理職ユニオン・関西」のホームページへ

 

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