『アメリカの労働運動の挑戦 ――労働組合とNPOの世直し作戦』

『ユニオンバスター ―米国労務コンサルタントの告白』

柏木宏 著(労働大学・1400円)

マーティン・ジェイ・レビット/テリー・コンロウ 著(緑風出版・2500円)

2000年 7月25日
通巻 1050号

『アメリカの労働運動の挑戦 ――労働組合とNPOの世直し作戦』

柏木宏 著(労働大学・1400円)

●歴史の遺物から歴史の創造者へ

 95年に起こったアメリカ労働運動の大転換は、「歴史の遺物から歴史の創造者へ」と評されている。「歴史の遺物」とは、1950年代には35%のピークに達した組織率は、70年代には28%に低下、さらに現在では15%に過ぎなくなったことに顕著に現れている。民間部門では10%を割り込み、資本との交渉力、社会的・政治的影響力も極度に低下した。
 この結果、79年から95年の間、労働生産性は、24%増加したにも拘わらず労働者の実質賃金は11%も目減り、最低賃金程度の額で働く労働者は840万にも達した。レーガン、ブッシュ両政権の最盛期である80年から95年を見ると、アメリカにおける富の純増分の62%は、所得水準がもっとも高い1%の人々に帰属。社会の80%の人々は経済成長の恩恵の1%を受けたに過ぎない。

●1995年に何が起こったか?

 アメリカ労働総同盟産業別会議(AFL-CIO)は、史上初めて選挙で執行部を選出。戦闘的なスタンスで知られたジョン・スウィーニーが会長に選ばれた。彼は、「労働組合は運動であり、理念である。ビジネスや労働官僚のための組合であってはならない。新たに労働者を組織することにしても、組織維持の必要性という観点からではなく、労働組合の倫理的な必然性から取り組まなければならない」と呼びかけ、パート・アルバイト・派遣労働者の組織化に取り組んだ。
 「ニューボイス(新しい声)」として登場した新執行部は、3%だった組織化予算を30%に引き上げ、組織局を新設、オルグ養成所として機能させるとともに「ユニオン・サマー」と銘打って大学生も対象にしたオルグ養成学校を開設した。「ユニオン・サマー」には毎年1000人以上の大学生が参加し、数百人規模でオルグとして採用されているという。

●グローバル化の中の日本の労働運動

 「アメリカ労働運動の挑戦」は、復活をめざすアメリカ労働運動の「今」を伝えるのみならず、変化を生み出した労働者の生活実体、そして如何に変革の主体が形成されたかも概観する。今、日本で「『連合』が変わるか?」と問えば、幻想と言われ、「『連合』と共に」と言えば、相手にされない。しかし、 AFL―CIO も95年の転換までは、労資協調路線の元で白人男性主義・組合幹部の腐敗がいわれ、まさに「歴史の遺物」「翼賛組織」でしかなかった。
 日本は今、「規制緩和」「グローバルスタンダード」のかけ声のなか猛烈なリストラの嵐が吹き荒れている。正規労働者は減少し、非正規雇用のパートアルバイト・派遣労働者が、多数派となってゆく。チェックオフ制度の廃止が資本の側からいわれ始め、早晩「連合」も変革を余儀なくされるだろう。5年後、10年後どんな時代をイメージするのか その中で、労働運動はどのような役割をどれくらいの規模で果たせるのか 希望的見通しを具体的に示してくれるのが本書である。
 最近の米労働運動を紹介する資料は極めて少ない。著者・柏木宏氏は、77年渡米。「日米労働運動の連携を現実のものにしたいという考えから」大学院で労働研究を学び、労働組合の結成や労働者の権利擁護に関する運動に関わってきた。現地で長年にわたる調査と、活動家との信頼関係に支えられた好著である。米労働運動を知る入門書としてお勧めしたい。

 

『ユニオンバスター ―米国労務コンサルタントの告白』

マーティン・ジェイ・レビット/テリー・コンロウ 著(緑風出版・2500円)

 「ユニオン・バスター」は、日本では「労務ゴロ」と呼ばれる。どちらも「労務コンサルタント」と自称するが、違いは、社会的ステータスだろう。米国では、堂々と広告を出し、一流ユニオンバスターは、1週間で数百万円を稼ぎ出す。高級住宅街の邸宅に住み、飛行機を乗り回して全米を転戦する。
 こうした華やかな姿の裏で、著者=マーティン・ジェイ・レビットはアルコール依存症から抜け出せず、妻と共に詐欺罪で刑務所に入り、家庭も崩壊する。闇の稼業として日本ではほとんど表に出ることのない「ユニオン・バスター」。その手口、生活ぶり、そしてどう自分のなかで合理化してきたかを全米トップのユニオンバスターといわれた著者が暴露した本書は、読み物としても十分おもしろい。
 彼が関わった組合潰しを企業名・関係者の実名をあげながら詳細に語っているので、ここでの紹介は省くが、驚かされるのは、労働組合が組合組織化のために逆に彼を雇用する、という労働組合幹部の感覚である。思想は問わない。技能を買うのである。いかにもアメリカらしい。ビジネスライクで、クール。
 私は、両著をほぼ同時に読んだ。アメリカ労働運動の転換がより立体的に見えてきたが、勝者が全てを獲得するというアメリカ社会の競争のすさまじさ、弱肉強食の非情さに、寒気を覚えた。

(評者・平野光一)

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