集団的自衛権論議と各政党の動き 

渡辺雄二(渡辺政治経済研究所)

2000年 12月5日
通巻 1062号

 現在の憲法9条をめぐる議論は冷戦時代とは異なり、いまや非常に錯綜しています。この議論はそれで素人には大変分かりにくくなっているので、この議論を私なりに整理してみました。
 私は周辺事態法成立によって憲法9条というかんぬきは既に外されていると判断しています。それは周辺事態法が自衛隊の海外出動に関して国会の事後承認を容認しているからです。これは事実上、日本が自衛隊の指揮権を米統合参謀本部に預けたことになり、共産党が周辺事態法を「自動参戦装置」と批判する所以です。
 法的には周辺事態に限ってですが、自衛隊の海外派兵を止める法的な根拠はありません。ただ、それを現在止めているのは政治的な状況だけです。それだけに国内世論の形成が大事だということになります。
 与党は周辺事態に台湾海峡を含めるかどうかについて判断を留保しているので、米国、特に共和党は苛立っています。ブッシュ大統領が誕生したら日本にこれを求めてくるのは確実です。
 石原東京都知事のさまざまなキャンペーンもこれをにらんでのことです。彼は、こうして米共和党政権出現を予想して、自分が「日本の次の首相に最適だ」と彼らに盛んに売り込んでいます。
 米国防総省で対日政策を取り仕切ってきたアーミテッジ、キャンベルなどが参加した対日防衛政策に関する提言が最近発表されました。アーミテッジは共和党系で、キャンベルは民主党系の専門家ですが、そのようにこの提言には民主・共和両党の専門家が名を連ねています。そこでは、(1)沖縄海兵隊基地を日本から移転する、(2)尖閣列島を米軍の防衛範囲に含める、(3)日本は集団的自衛権を認めるべきだ、と提言されています。
 この提言の意図は、自衛隊を台湾有事の際に出動させるための環境作りです。こうして、彼らは日本を対中国最前線として米国という戦車にしっかり縛りつけようとしています。
 米民主・共和両党の専門家が名を連ねたリポートに日本の与党が反対したり無視するのは難しいでしょう。わが国の民主党もこの提言をにらんで、集団的自衛権について自衛隊が湾岸戦争の時のような多国籍軍へ参加することには反対だが、国連軍への参加なら認めると公言しています。こうして、その提言の日本政界に及ぼしている影響は、一般の人の関心の薄さにに比べて意外に強いのです。
 「日本は集団的自衛権を認めるべきだ」との意味は、台湾海峡問題以外の地域における日本の自衛隊の参加を広げて、その分米国の肩代わりをさせるとの意図から出たものです。米国内では米軍の海外派兵に対する世論の抵抗が強くなっているので、その代わりとして日本の責任分担を増やそうというのです。
 差し当たり米国が日本の自衛隊派兵を想定している地域は台湾海峡以外に、石油資源でもめている南沙諸島や宗教・民族対立で国家分裂の危険を内包しているインドネシアだと思いますが、軍事力を使わないで解決する方法があるのですから、軍隊を使えば解決がややこしくなるだけです。
 米国にそそのかされてこんなところに日本が軍隊を送れば現地の人々の憎しみをかい、日本製品不買運動が起きるだけ。これで損するのは日本で、その分得をするのは米国です。

 

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