レバノンにも寒い冬がやってきました。遠くに見える山々が、雪をかぶっています。忙しい年末、みなさんいかがお過ごしですか
さて、今アメリカの大統領選挙もおわり、トップに話し合われている中東和平について、レバノンから見える現地の情報、ニュースを送ります。
今も続くインティファーダー
パレスチナでは今も、怒りが爆発した市民たちのインティファーダーが続けられています。別に組織された軍隊であるわけでもない一般市民1人ひとりが立ち上がり、怒りと闘志を込めて石を投げています。インティファーダーに加わるということは、いつ撃たれて死ぬかも知れないことですが、その多くは若者たち、子供たちです。
今回のインティファーダーのきっかけになったシャローンのアクサモスクへの奇襲は、初めてのことではなく、以前にも数回あり、その行動はモスレムの人たちにとってとても屈辱的なことなのです。
モスレムの人たちにとって、年に1回、最低でも一生に1度は訪れないといけないメッカという有名なモスクがサウジにありますが、世界中でその次に重要とされているモスクがエルサレムです。エルサレムがイスラエルから解放された暁には、メッカのように大勢の信者たちが巡礼に訪れるようになるでしょう。彼らにとって、それだけ重要な場所なのです。
逃げ出した完全武装のイスラエル兵
現地放送で、テレビの番組と番組の間には、コマーシャルのように、毎回流れるインティファーダーの興味深いシーンがあります。
1つは、石を手にした少年が、1人のイスラエル兵に捕まりそうになり、2人の距離は2メートル近くまで狭まります。はじめ少年は少し逃げ腰になり、そしてすぐに姿勢を立てなおし、完璧に武装して、手には銃を構えているイスラエル兵に石を掲げてつっこんでいきます。するとイスラエル兵は、少年の迫力にたじろぎ、銃を手にしているにもかかわらず、一目散で逃げ出してしまいます。この映像は、パレスチナ人の怒りと、命を懸けた闘いだ、ということを象徴しているように見えます。
イスラエル兵にしてみれば、「憎らしいパレスチナ人!」という感情があるにしても、軍隊だから、仕事、任務として闘っている、命の危険にかかわるようなことはしたくないと思うのは当然でしょう。だけど、パレスチナ人は、死ぬ気で、自分たちの生活、将来のために闘っているのです。逃げ出したイスラエル兵は、石を手に銃に向かってくる少年から、その死ぬ気で闘う姿に、恐怖を感じたのでしょう。
ユダヤ人の2つの顔
イスラエルに住む全ユダヤ人は、それぞれ仕事を持ちながら、同時にイスラエル兵として緊急時には徴集されるようになっているので、短時間で大きな戦闘の用意ができます。その点は強いのですが、市民は政府が決めたことに追随するだけで、今の日本人にも多いように政治に興味を持っていないようです。「パレスチナをぶちのめせ!」と、声を挙げている人々も、政治的な理由からというよりも、エルサレムをユダヤ人のものにするという宗教的な理由からのように見えます。
例えば、多くのイスラエル人は、パレスチナ人に自分たちから話をふっかけてこようとはしません。何故なら、パレスチナ人の言い分が正しいとユダヤ人は知っているからです。もし、現地に住むパレスチナ人がユダヤ人に何か言うと、「あなたの言うことは全て正しい、でも私たちはここに住みたいのだ」と言う。逆に、「ほんの小さな27平方キロメートルのこのパレスチナなんかにしがみつかないで、アラブは広いんだからどこへでも他のアラブの地へ行けばいいじゃないか」と言う。
もう1つは、今は有名になった、壁にへばりついてブロックの陰で息子を守ろうとする父親の必死な姿です。結果的に息子だけが狙われて殺されましたが、これを撮影したカメラマンは、頻繁に耳にするパレスチナとイスラエルの銃撃戦というものが、丸腰のパレスチナ人に対しての銃での攻撃だということがよく分かったと言っていました。
この息子を亡くした父親は、テルアビブでユダヤ人と仕事をしていました。そのユダヤ人は、ニュースを見て、「息子さんのことは申し訳なかった、残念だ。もし何か助けられることがあったら言ってくれ、必要ならあなたに良い医者を紹介するから」と言ってきたそうです。
パレスチナ人に言わせると、ユダヤ人は2つの顔を持っていて、彼らは、自分たちの過ちを認めはしないがとても人情的に、パレスチナ人の立場に立った物の言い方をしてくる。でも同一人物が、パレスチナ人をもっと叩きのめせ!というデモンストレーションにも参加する。ユダヤ人は、パレスチナとの和平という観念をはじめから持ってはいなくて、ただ暴力によってパレスチナ人を殺し、追い出し、この和平交渉と呼ばれているイスラエルの障害、ユダヤ人にとって邪魔なものを取り除くための会議をマスコミや、暴力によって強制的に続けようとしているのです。
どちらがテロリストなのか?
そして、この映像にあったように、イスラエルは若者、子供を狙い撃ちしてきます。しかもきっちり頭や、心臓をねらって撃ってきます。
そんな状況が毎日パレスチナで続くなか、イスラエルやアメリカは、本当に小さな作戦でも大きく騒ぎたて、パレスチナ側をテロリストと呼びます。
パレスチナ居住区を外部と遮断してぐるっと囲い込み、ロケット、銃弾の雨をバンバンそそぎ込むイスラエル。夜中に突然ブルドーザーでオリーブやレモンの畑を潰していくイスラエル。ガザの中を土壕を作って勝手に2つに分断して人々が行き来できないようにして監視するイスラエル。何もしていないパレスチナ人一般市民が乗る車の運転席に突然100発以上の弾を撃ちこむイスラエル。これをテロと言うのだと現地のニュースを見て実感します。
意味もなく怖がっているイスラエル
私たちの耳まではなかなか届かないパレスチナ現地の様子をパレスチナの友人に聞いてみました。「このパレスチナとイスラエルの闘いは、どんなにイスラエルに有利な闘いであってもパレスチナ側は自分たちのために、いくらでも闘い続けられる。逆にイスラエル側は続けられないだろう。どんなに武器を持っていてもいつでも意味もなく怖がっているから」。
このインティファーダーが始まる前、12万人のパレスチナ人がイスラエルで働いていましたが、今はほぼストップしています。もちろんイスラエルでパレスチナ人は、低賃金労働者として働いていますし、12万人の人間が突然イスラエルのマーケットから姿を消したということは、大きな損害となっていて、1ヵ月に約5000万円の利益をロスしていると言われています。イスラエルは、この状態を六ヵ月しか続けられません。6ヵ月後には経済状況が悪くなっていくだろうと考えられています。
通常パレスチナ人とイスラエル人の間に付き合い、交流はありません。結婚はできないし、会社の共同経営もできない。買い物も互いにしない。学校ももちろん違う。でも、今回のインティファーダーのようなことがなければ、パレスチナ人がイスラエルで働いたとしても問題はありません。
ただ、そのイスラエル人は、いつでもイスラエル兵になる可能性があります。一緒に働いているパレスチナ人をいつでも何かあったら殺す用意ができています。でも、もし戦闘が終わり、パレスチナ人が仕事に戻ってきたら、イスラエル人は「大変でしたね」、「申し訳ない」と言うでしょう。彼らは、2つの顔を持っています。
ハリーリ政権と反シリアの世論
一方レバノンでは、ハリーリ政権が再復帰し、初期段階の今は、輸入品関税の引き下げや、教育施設建設に力を入れるなど、人々の期待を裏切らないように、政府内で様々な改善が行われていますが、最初だけです。これがハリーリのやり方だという声も聞きます。
そして、選挙中に公約として反シリアを掲げていた社会党のジョン・ブラットは、選挙後も反シリアの姿勢を崩さず、とうとうシリアから入国禁止、というお達しが出ました。そして全国各地でも右翼や、学生によって反シリアのデモが広がっています。特に、レバノン独立記念日の前日は、「シリア軍がレバノンに留まったまま、シリアの影響下にあるままで、何が独立だ!シリア軍は出て行け!」というデモが各地の大学で行われました。
このままでは昔のような、自国内の宗教戦争になりかねない。と、危機を感じている人々も大勢います。
鍋を囲みながら新年を迎える岡本さん
岡本さんはというと、先日パレスチナキャンプで、
PFLPの創立記念日に招待され、また大勢の友人たちと顔を合わせることができました。それぞれのスピーチや、パレスチナの歴史を舞台にしたものなど、ラマダン中ということも手伝い、盛大に行われました。当たり前のことだけど、特にキャンプの中で、彼らの岡本さんに対する接し方には感動させられます。誰もが、「おおー」と、とても神聖な人に接している態度で、キスの挨拶を交わし、彼を抱きしめます。これが、岡本さんとパレスチナの歴史なのだとあらためて教えられます。そして、みんなと共に祝いの席に着ける喜びをかみしめることができ、とても良い時間を過ごせました。
今年の年越しは、サポートも仕事についてもアイデアいっぱいのレバノンの若者たちと、岡本さんと、鍋を囲みながら来年の抱負を語るでしょう。良いお年を!
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