オウム立法

破防法改悪が目論みのオウム叩き
 =「住民感情」の組織化

1999年 10月5日
通巻 1023 号

  9月20日、新団体規制法案とオウム被害者救済法案の骨子(別掲参照)が、政府側から与党担当者に伝えられたという。新団体規制法案は、今後出現するかもしれないカルト集団やテロ集団にも適用できるようにするとしているが、オウム対策を前面に押し出したものだ。
 また、「破防法改正」ではなく新規立法としているが、実質的な破防法改悪であり、リストラ官庁である公安調査庁(公安庁)が延命のためこの間模索してきた改悪の一定の到達点といえるだろう。それは骨子【新しい団体規制】(1)でオウムが対象として認められ易い規制の要件を定め、(2)で公安庁に権限を与え活動を明確にし、新法案では団体の解散は盛り込まれていないものの(3)で実質解散状態に追い込めるようにしたことでも明らかだ。しかも(4)では地方自治体への影響力を行使しようとしている。

●オウム様々の公安庁生き残り

 この新法は、オウムへの破防法団体適用が阻止され、その存在意義が否定された公安庁が、オウム対策に活路を見出そうとするものである。オウムの移転先や施設のある地域では、激しいオウム叩きの「住民運動」が繰り広げられ、マスコミもこれを煽っているが、これらの動きの背後には公安庁の調査官や協力者の工作・煽動がある。
 公安庁にとっては、オウムの復活をキャンペーンし、オウム施設周辺住民の恐怖感を煽り、オウム叩き世論を喚起して、オウムと「対決」する公安庁として認めてもらうしか生き残りの術は無いのである。そのためにオウム憎し、オウム恐るべしの大衆感情に訴え、かつ確実にマスメディアの支持を受け、難なく国会通過を果たそうとの狙いが今回の新法案=破防法改悪だ。
 また、被害者救済をうたった特別措置法は、本来民事的な領域である破産業務を弾圧の手段とするもので、組対法による経済活動への弾圧や、整理回収機構がすすめる刑事弾圧をテコにした公的債権取り立てと通底する新しい弾圧の傾向である。

●オウム叩き運動は下からのファシズム

この新法=破防法改悪によって、日に日に強まっているオウム叩き住民運動とマスメディアの煽動は、さらに力を得て強化されていくことだろう。そして公安庁や公安警察がますます暗躍しやすい環境整備が進められる。そして何よりも問題なのは、「オウムだから仕方がない、オウムだから許される」「被害者の人権、周辺住民の人権」の名の下に繰り広げられるオウム信者への人権無視と民主的原則の否定が、弱者や嫌われ者の人権無視、国や公に反対するもの、不満を持つもの総体への人権無視に繋がり、民主的原則の否定がいつのまにか常態化することである。
 連日といってよいほどテレビにはオウム阻止でピケをはったり、行動する住民たちが映し出されている。大挙して鉢巻をしめ、ゼッケンを付けプラカードを持つ人々の姿は、彼らの熱気や盛り上がりを伝えている。今、これほど高揚した運動は他にはそれほどない。
 テレビレポーターからインタヴューを受ける彼らは「こんなことやりたくてやってるんじゃない」などと言うが、彼らは一致した目的のために共に行動するという充実感や興奮を感じていることだろう。参加者の自主性があり、運動参加の充実感が新たな「連帯」を生むとき、権力の支配構造を下から支える強い力となってしまう。

●反権力に闘いを集中しよう

 9月30日「ブリキの太鼓」などで知られるドイツの作家、ギュンター・グラスがノーベル文学賞を受賞した。かなり以前のことになるが同名の映画が日本でも公開されている。
 映画には飲んだくれのどうしようもないオヤジが、ナチスの制服に身を固め溌剌とした姿に変身する様が描かれていた。ナチスは強制するだけではなく、第1次大戦の敗戦とその後の経済的苦境に打ちひしがれ、怠惰な生活を送っていたドイツ国民に展望と目標を与え、人々はそのもとで積極的でいきいきとした生き方を取り戻し、積極的にナチスに参加し、侵略と犯罪に荷担したというファシズムの構造が表現されていた。
 今、オウム叩きの住民運動を見るとき、この映画が見せてくれた1人1人がナチスを支える日常というものが思い起こされる。
 オウム、住民、被害者、誰の人権が優先するものでもなく、民主主義は特定の人々だけのために有るものでもない。私たちがやらなければならないのは、破防法改悪と治安弾圧に反対し、反権力の闘いを貫くことである。(橋文)

オウム対策2法案・骨子

(朝日新聞9月21日朝刊より)

 20日、法務省が与党の担当者に示した団体規制法案の骨子と、被害者救済を目指す議員立法についての考え方は次の通り。

【新しい団体規制】
(1)規制の対象とする団体を「過去に無差別大量殺人を行い、首謀者が現在も影響力を持つなど、現在も無差別大量殺人にかかる危険性のある団体」とする。
(2)公安審査委員会は、対象団体の活動状況を明らかにする必要があると認めるときは、公安調査庁長官の請求により、団体を一定期間、長官の観察に付する処分をすることができ、公安調査庁長官は、観察処分を受けた団体に対して報告を求め、立ち入り検査をすることができる。
(3)公安審査委員会は、対象団体について規制の必要があると認めるときは、公安調査庁長官の請求により、一定期間、(1)団体施設の新規取得(2)団体への加入勧誘(3)寄付を受けること──を禁止するなどの処分ができる。
(4)公安調査庁長官は、団体から求めた報告や、立ち入り検査の結果について、関係する地方公共団体に提供することができる。

【被害者救済】
 議員立法の特別措置法とする。
 破産法人(宗教法人当時のオウム真理教)の破産管財人が、破産法人から流出した財産を破産財団に取り返すことを容易にする(地下鉄サリン事件、松本サリン事件などの被害者救済に役立てる)ため、破産管財人の主張・立証の困難性を緩和するための推定規定を設ける。
 例えば、任意団体(現在のオウム真理教)が新たな団体規制法による観察処分を受けた場合に、破産管財人が任意団体の保有している財産の返還を請求するときに、その財産は破産宣告時に破産法人に属していたものと推定するなどの規定を設ける。

 

 

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