ルネサンス研究所 5月定例研究会 テーマ「バイオポリティクスからネクロポリティクスへ――新型コロナ・ウイルスの時代に再読する生権力=生政治論(フーコー、アガンベン、ムベンベ)」


イベント詳細

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5月11日(火)18:30開始
会場:オンライン(参加予約を頂いた方に招待メールを送ります)
資料代:無 料
報告:中村勝己(イタリア政治思想史)
まだまだ新型コロナ・ウイルスの流行が続き、落ち着かない日々が続きますが、ルネ研は5月もオンラインで定例研究会を開催します。
昨年は6月、7月、9月と定例研究会で新型コロナをめぐる議論を取り上げました。
今回は、この間の国民・住民の生命・健康・安全などを対象にした国家や行政の政策を「生権力・生政治」という視点で批判的に分析する議論を取り上げます。
「生権力・生政治」という観点で現代政治を分析することで見えてくるものは何なのか。集団免疫の獲得やワクチン接種の問題点を論じることはもちろん大切ですが、
それ以前の話、そもそも論として、現在進行中の新型コロナ対策の進行に一喜一憂することなく、現在の事態をどう見たら良いのか。今回はそのための議論をしましょう。
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家族が新型コロナ・ウイルスに感染したので、私は「濃厚接触者」ということでPCR検査を受けることになった。
2020年の7月下旬のことだ。保健所からの電話連絡は家族の感染発覚後の5日間は毎日来ていたが、発熱や激しい咳などの発症がない限り保健所は経過観察を続けるだけで強いて介入しない方針のようだった。
私が濃厚接触者であることが判明してからPCR検査を受けるまでに1週間かかった。
その間、私が住んでいる住所の最寄りの保健所あるいはPCR検査を準備している病院からの私への連絡は、
家族の感染が判明した日に1回、その5日後に検査の準備が整ったので日程を調整したいという電話が1回など、10日間に4回の連絡があった。
私が勝手に毎日保健所から連絡が来るものと思い込んでいたせいで、「保健所の追跡調査ってこんなものなのか」と拍子抜けした。
私が電話での聞き取りに、家族も私も特に気になる症状は出ていないなどと正直に申告したからかもしれない。
病気の症状が出ていない感染者とその家族への対応は、後回しにされたようだった。その間、正直に言えば私は不安であった。
保健・医療制度から見捨てられているのではないかという不安だったのかもしれない。
今回の経験から見えてきたことは、私のようなマジョリティの側に分類されるであろう人間も、
感染症とか自然災害に巻き込まれるなど環境の小さな変化で生活のリスクが高くなれば、生存を脅かされる立場にいつ転落してもおかしくないということ、
その限りで私も潜在的な社会的弱者のひとりであるということだった。
今回の報告では、そうした生活上のリスクが高くなった現代社会の特徴を考えるうえでミシェル・フーコーの生権力=生政治論が有効であることを確認し、
しかしまたその議論からすでに40数年が経ち時代状況が変化したことで、その後の論者たちがどうフーコーの議論を受け止めこれを読み替えていったかを追跡する。
取り上げる論者はイタリア人政治哲学者のジョルジョ・アガンベンとカメルーン出身の歴史家アシル・ムベンベである。
この系譜を押さえることで、この半世紀の福祉国家(=帝国主義の「場内平和」)の確立と解体的再編が、生の権力(バイオポリティクス)と死の権力(ネクロポリティクス)の絡み合いをいかに変容させたかを明らかにしたい
(中村勝己)。

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