【オシテルヤン日記】制度の「すき間」を埋める支援 大阪・長居「コミュニティスペース オシテルヤ」職員中桐 康介

Pocket

自分の人生を手に  入れつつある春美さん 野宿からアパートへ

 残暑厳しい8月の午後、畑で除草作業をしていると、携帯電話に着信がありました。高齢の男性Aさんで、「ぼく、春美さんの知人なんだけど、なんとかしてあげてよ。お宅、福祉の人でしょ。ちゃんとしないとダメだよ」。
 

春美さんとは、夜回りで出会った40代の女性(1691号)。昼間はイオンなどの大型スーパーで過ごし、夕方、公園に帰って野宿しています。何日も食べられないこともあると言います。
 

その後、直前まで入所していた施設の方と連絡がつき、施設で預かっていた預金通帳などをご本人の承諾のもとでオシテルヤで預かることになりました(通帳には生活保護費が数10万円も残ってました)。強引にならないように、生活保護利用を提案してきましたが、「夏は暑いから大丈夫。寒くなったら考える」と、とっかかりがありません。
 

施設の方によると、春美さんは入所当初はかなり精神疾患の症状が重く、コミュニケーションも困難なほど。キツめの抗精神薬を服用していました。しかし今の春美さんは、こだわりや被害妄想は感じられるものの、にこにこよく笑うし疎通もスムーズ。開放的な野宿生活が、春美さんにとってストレスが少ないのかもしれません。
 

Aさんに会いに行くと、ワンルームの一室に春美さんもいっしょでした。「私、アパートに住もうと思うんです」と春美さん。公園を散歩していたAさんがたまたま春美さんと出会って、「ダメだよ! 女の子がこんなところで野宿してちゃ!」って声をかけて、嘘のない、まっすぐな言葉に、春美さんも気持ちを動かされたらしい。ぼくら「支援者」だの「福祉の人」の説得は、率直なおっちゃんの言葉にはかないません!
 

Aさんが湯がいた素麺をいただき、知り合いのマンション管理会社に連絡を取り、一室を確保。礼金や前家賃は通帳のお金でまかない、数日後に入居できました。
 

住民登録などの行政手続きは手伝いましたが、国民健康保険は「保険料が高いから」と加入せず。医者にかからないから、医師の意見書が必要な障害福祉サービスは利用できません。そうなると、ヘルパー制度を利用して定期的に訪問することもできません。制度なんてそんなもの。パズルのピースがひとつ外れると、何の役にも立ちません。
 

オシテルヤでは週に1度、ボランティアで訪問することにしました。病気が再発する可能性もあり、継続的な見守りが必要だと考えました。
 

アパートに入居して3カ月、春美さんは今もにこにこ過ごしています。「カーテンはいらないの。息苦しいから」、「涼しくなってきたから、目玉焼きを作ったの」。少し幻聴が気になる程度で、穏やかに過ごされています。
 

先週、突然、「私、統合失調症だったの。施設に預けてある障害者手帳を返してもらいたい」と言い出しました。少しずつ、自分の人生を手に入れつつあるのかもしれません。
手持ちの現金が少なくなったら生活保護を申請し、精神科の受診や、障害福祉サービスの利用も再提案しようと思います。
 

なんとかうまくやってるなぁと思っていたころ、春美さんから聞いたのは「Aさんがね、行方不明なの」。カギが開いたままの部屋に入ると、タンスの上に書き置きがありました。「私は春美さんのことを好きになってしまった。ばかな私です。お世話になりました」と、蒸発を示唆する内容。テレビドラマのような因果な話。これだから「男」ってバカ。書き置きのことは春美さんにはないしょにしています。

Pocket

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。