緊張高まるホルムズ海峡 原因は米国の横車 「有志連合」に加わる理由など微塵もなし 山口協(地域・アソシエーション研究所)

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論説委員会 イラン情勢をめぐって

 7月の論説員会では、米国との間で緊張が高まるイラン情勢をめぐって論議を行った。米国はイラン産原油の全面禁輸を表明し、経済制裁の度合いを高める一方、イランはウラン濃縮の高度化を仄めかすなど、対立は激化するばかりだ。  

さらに米国は、ホルムズ海峡の安全確保を名目に、日本を含めた関係諸国に対し、実質的なイラン包囲網である「有志連合」の結成を強要している。  

米国が創り出したイラン危機

緊張するイラン情勢を創り出した責任は、ひとえに米国トランプ政権にある。  

オバマ政権下の米国は2015年7月、露・英・仏・中・独とともにイランとの間で「イラン核合意」を締結した。平たく言えば、ウラン濃縮活動など原子力開発の制限を受け入れる見返りに、米国など関係国がイランに対する経済制裁を解除する、との内容である。  

しかも、これには国連安全保障理事会もお墨付きを与え、IAEA(国際原子力機関)も定期的にイランによる合意の履行を確認している。イランの側に落ち度はない。  

にもかかわらず、トランプは理由にもならないゴタクを並べ、一方的な離脱に踏み切った。まさに「アメリカファースト」、独善主義の極みである。  

とりわけ問題なのは、米国が自国の対イラン制裁だけでなく、米国との間に取引関係のある外国企業に対してもイランとの商取引を禁じる「二次制裁」を復活させたことだ。これによって、イラン最大の輸出産品である原油の取引は大幅に制限されることになった。  

イランがキレるのが 米国の狙い

なぜ米国は、これほど横車を押し通すのか。  

一つは歴史的な遺恨だ。1979年、イランのイスラム革命によって親米政権を失い、テヘランの米大使館を占拠されてから40年、米国にとってイランは「不倶戴天の敵」であり続けた。  

ここにトランプのパフォーマンスが加わる。オバマ政権の成果を叩くことで自らの優位を誇示し、親イスラエルのキリスト教福音派など自らのコアな支持層にアピールする絶好の機会なのだ。  

情勢の変化もある。「シェール革命」によって中東の原油への依存度を減らした米国にとって、直接介入に伴うコストの負担は割に合わないものとなった。中東から東アジアへの「リバランス」、「世界の警察」からの脱却、いずれもオバマ政権を引き継いでいるのは皮肉だが、トランプが一層拍車をかけているのは間違いない。  

とはいえ、米国が退いた後の中東で、イスラエルやサウジアラビアといった同盟国が覇権を確保するには大きな障壁がある。ほかならぬイランだ。そんな「目の上のたんこぶ」を取り除くために理不尽な圧力を加え、キレたイランによる核合意からの離脱を促そうとしているのだ。  

日本がなすべきは 緊張緩和への尽力

現状では、米国もイランも直ちに軍事衝突を想定しているわけではなかろう。米国は「最大限の圧力」を通じたイラン指導部の屈服、さらには民衆の不満激化による政情不安を展望し、イランは米国以外の核合意当事国や国際社会による仲介を求めて危機を演出している。とはいえ、緊張が高まれば意図しない衝突を呼び寄せる可能性も高まる。  

繰り返しになるが、緊張するイラン情勢の責任はひとえに米国にある。そんな米国が呼びかける「有志連合」に加わる理由など微塵もない。むしろ、日本はこれまでイランとの間で築いてきた友好関係に基づき、緊張緩和に尽力すべきだ。

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