【連載(2)食べて、身になる】「食」で、のびやかになる 木澤 夏実(げいじゅつ と、ごはん スペースAKEBI)

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差別を生み出す料理作法を 崩すことで人間解放の道が

 「食」というものは元来、生産・調理・食事といった全ての過程において、とにかくやたらとルールの多いものであった。理にかなった先人の知恵が継承された結果、その分野の常識と化したものももちろんあるが、その一方で、あるルールを知っており守ることのできる人々が、そうではない人々と距離を取るための「言い訳」として作られたものも多くある。  

美しく正しい食材の切り方や事細かなテーブルマナーを知っている人がそれを披露すれば、知らない人を「下等である」と蔑み優位に立つことができるし、前者たちが団結して集団となれば、後者たちとの間に壁を作って分断し、社会的な差別構造を作り出すことも容易だ。我々にとって最も身近な差別の道具、と言っても過言ではなかろう。  

しかし昨今、長年使用されてきた農薬や除草剤に対する大規模な反対運動、怖くて包丁を握ることができない人のための「手でちぎる料理」専門書の流行、ヴィーガニズム(完全菜食主義)を選択する人々が気軽に入店できるレストランの増加など、「食」にまつわる新たな動きが多方面で見られるようになった。  

心のどこかで懐疑的ながらもなんとなく従来のルールを守ってきた人々が、少しずつ声を上げて行動し始め、その姿をみた大衆が「あ、こんなにも自由でいいんだ」と心動かされていく。  

他国に比べるとかなりゆっくりな歩みではあるが、「食」を通じたのびやかさが、日本にも確かに生まれつつあるように思う。差別のための道具は、使い方によっては人間を解放してくれる道具にもなるのだ。

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