保守、極右、ファシスト―彼らといかに闘うか。アシュレー・スミス  Truthout, 2019,8,25 翻訳:脇浜義明

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右翼政権が誕生して酷い事態が起きている。トランプの人種差別発言がエル・パソ虐殺を招き、ブラジルのジャイール・ボルソナールは犯罪者を「ゴキブリのように殺す」風潮を生んだ―サンパウロで警察は貧しい黒人住民414人を殺害した。

左翼は右翼の独特な性格を正しく理解し、それと闘う戦略を開発しなければならない。デービッド・レントンの『新しい権威主義―右翼の結合』に沿ってそれを論じる。  レントンは右翼を3分類する。1)ブルジョア民主主義枠内の階級的社会的関係を維持する保守、2)ブルジョア民主主義枠内で権威主義傾向を強めて過去の身分・階層差別制度の復活を狙う極右、3)敵を殲滅し、ブルジョア民主主義を破壊して独裁主義に置きかけるために反革命を狙うファシスト。彼は3分類を固定的に考えず、移行したり結合したりすると考える。  

レントンはトランプやブレキジットをファシスト運動と見ない。反革命による政府転覆を目指すのではなく、選挙に勝って国家を権威主義方向へ向かわせようとするからだ。彼は右翼的なものをすべて「ファシスト」で括る大雑把なやり方を避け、さらに右翼の性格を正しく理解しないとそれと闘う戦略に誤りが生じると考える。

また、右翼を「ポピュリズム」表現することにも反対する。「ポピュリスト」という言葉は、「ウォール街オキュパイ運動、チャベス主義、スペインのポデモス、オーストリアの右傾化するセバスティアン・クルツの国民党、イタリアの反移民政党北部同盟、ファシスト・ルーツから出発したフランスの国民連合など、様々な政党や運動に対して用いられてきた。指示内容も多様で曖昧な言葉である。  

レントンはトランプ、ブレキジット、マリーヌ・ルペンに焦点を当てて、現在の右翼を保守と極右の結合と規定する。ファシストも存在するが、将来はともかく今のところはあまり強力ではないと見ている。新右翼はムッソリーニやヒトラーの古典的ファシズムを再建しようとしていない。彼らは現在に基準を合わせている―9・11を西洋とムスリムの文明闘争の幕開けと見て、移民排斥、人種・ジェンダーに基づく階層分化を復活させると同時に、グローバリゼーションで失った白人労働者雇用を回復させたいのである。

ブレキジット

彼はブレキジットを新右翼の典型と見る。EU離脱票を、反EU,と反移民を軸とするサッチャー派超保守と極右の英国独立党の結合の産物と見る。評論家の分析と異なり、右翼の基盤は英国南部のプチブル層の伝統的保守党票田であった。僅かだが窮乏地域の失業者、定年退職者、国からの給付受給者の票も右翼へ行ったのはかなり重要ではあるが、大都市の労働者、特に有色人労働者はEU残留に票を投じた。

EUを評価したからではなく、ブレキジットの人種差別、外国人嫌悪、イスラーム嫌悪を見て、階級的連帯からブレキジットに反対したのだ。残留が敗北したのは、反労働者的保守派キャメロン首相が残留の旗を振ったからである。左翼は残留と離脱の間を揺れ動き、はっきりした方針を出さなかった。結果的には新右翼が保守党の指導権を握り、白人英国人に雇用と給付を約束する一方、移民など外国人排斥を進めているのである。

トランプ

  トランプはブレキジットを自分の勝利の前触れと見た。もともとトランプはありふれた保守的資本家だったが、ティーパーティ事件を契機に右翼と組めばチャンスがあると考え、オバマに対するレイシスト運動を使って大統領選に挑んだ。特に極右スティーヴン・バノンと組み、バノンの『ブライト・ニュース』のジャーナリストや読者が彼の選挙運動を担った。彼は共和党・民主党のネオリベラル体制を変革する候補者というイメージ演出に成功した。

移民、ムスリム、女性、その他の被差別グループを生贄にする「アメリカ(白人)第一」を掲げ、帝国アメリカの回復、自由貿協定破棄、製造業復活による白人労働者の雇用創出を主張した。しかし、レントンによれば、トランプの支持基盤は労働者階級ではなく、昔からの共和党支持層とプチブル層である。一部の州では一部の労働者階級の票を得たが、それはトランプ支持からではなく、クリントンのネオリベラリズムとグローバリゼーションへの反発からであった。

もっと重要なことは、多くの労働者、とりわけ有色人労働者は、投票に関する差別的規制や民主党への幻滅から棄権したことが、トランプ勝利につながったことだ。 大統領になったトランプは減税や規制緩和で露骨に資本家に奉仕し、一方ムスリムや移民を攻撃、保護主義的関税の引き上げを通じて製造業雇用を促進、その過程でトランプ共和党の基盤を固めた。

極右やファシストはトランプ勝利に乗って民兵遊撃隊を結成、反革命戦略を実行した。シャーロッツビル虐殺事件でやりすぎて世論から叩かれ、トランプは不承不承バノン一派から距離を置いた。しかし、トランプの保守と極右との結合は米国政治を根本から変えた。

レントンは「かつて周辺部現象だった過激行動が大統領認可を得たかのようになった」と書き、「この保守と極右の結合はトランプが退いた後も続くかもしれない」と予測している。

ルペン

フランスの国民戦線はトランプと逆方向―つまりファシストから極右と保守の結合体制へと進んでいる。元々国民戦線はジャン=マリー・ルペンの指導下で選挙政党と反革命ファシスト路線の間のバランスを維持していたが、娘のマリーヌ・ルペンは行き詰まりを感じ取り、同党からファシスト・反ユダヤ主義を解毒して選挙政党へ方向転換した。

父を名誉会長に祭り上げて実権を奪い、党名も国民連合に改名した。内容的には反グローバリゼーション、反EU,、反移民、イスラーム嫌悪、フランス社会を「秩序ある」権威主義的大統領統治国とし、民族主義的保守路線を歩んだ。その結果、従来のプチブル層に加えて、かつては左派に投票していた労働者階級の一部を支持基盤に加えることができた。

体制派もルペンに近寄り、社会党や左翼候補のジャン=リュック・メランションも、例えば学校でムスリムがヒジャブを着用するのを禁止する法律に賛成するなど、イスラーム嫌悪に適応した。ルペンは大統領選に挑戦したが、マクロンに敗れた。

大統領選に敗れたが、フランス政治の右傾化に大きく貢献した。  レントンは、解毒工作や党名変更にもかかわらず、国民戦線のファシスト的要素が残っていると、指摘している。

左翼はいかに新右翼と闘うべきか

このように新右翼が体制に挑戦して選挙力を獲得する中、左翼はそれに打ち勝つ戦略を開発しなければならない。従来のように右翼に民主主義を破壊するファシストというレッテルを貼るだけでは勝てない、とレントンは警告する。

新右翼は反革命で政府を転覆して独裁主義を樹立するファシストの道でなく、権威主義的反動政策を堂々と掲げて選挙で闘う道を歩んでいる。また彼は、ファシストを防ぐために保革連合という体制派と組む道の選択をしないように警告をしている。

左翼は社会的階級闘争や大衆闘争や選挙などを通じて、原則的に基づいた大衆的政策で闘うべきである。その中で新右翼のレイシスト正体を明らかにし、差別体質に挑戦し、保守と極右の連携に楔を打ち込み、ポートランドであった白人至上主義極右グループ「プライド・ボーイズ」に対する大衆抗議のように、極右やファシストから民衆を守るべきべきだ。

労働者の要求を掲げるだけでなく、差別・抑圧・非人間化と闘う政策を掲げる左翼選挙政党を作るべきだ。レントンは、「選挙民の生活向上の具体策を掲げずに、右翼を非難するだけの政治姿勢は必ず失敗する。右翼に勝つためには、差別や人権蹂躙批判だけでなく、賃金、住宅、社会保障の改善策を提起しなければならない」と書いている。

 レントンは古典的ファシズムに言及しているものの、以前の著作で行ったように、その歴史や具体的特徴を詳しく書いていない。しかし、古典的ファシズムの歴史と具体像は現在の右翼と異なる点を理解するうえで重要である。

トロツキーは、ファシズムを、資本主義の帝国主義的経済的危機が深まり、労働者階級による革命の脅威が高まった世界大戦間に、一つの大衆的勢力として出現したとしている。その基盤はプチブル層である。資本家はカネと資源、労働者階級は労働組合に頼ることができるが、プチブル層は頼るべきものがなく、ファシストに依存した。

ファシストはプチブル層に加え、失業者や未組織労働者を仲間にし、労働者政党や団体を破壊し、被差別グループを生贄として攻撃し、独裁主義を樹立した。資本家階級は急場しのぎとしてファシストに依存して自らの階級支配力を維持した。  この古典的ファシズムの分析は、再び深刻な経済危機になり、資本主義の全般的危機が深刻になるとき、保守と極右の権威主義的結合がファシズムへ向かう可能性を明らかにしている。

つまり、ファシズムは基本的に資本主義の中に織り込まれたもので、危機時代に出現する可能性がある反革命脅威であることを示している。

それを防ぐには、新しい社会の建設、社会主義社会の建設しかない。  レントンの新右翼分析は先進国中心で、ブラジルやインドやその他の国々の極右を扱っていないのは残念である。もう一つ残念なのは、新右翼台頭の契機となった大不況(2000~2010)を詳しく扱っていないこと。本の最後の方で若干それに触れているが、大不況はティーパーティやトランプ台頭や世界的新右翼の台頭を説明するうえで、9・11と同じくらい重要であろう。

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