【イスラエルに暮らして】イサウィヤ村と エチオピア系イスラエル人への弾圧 イスラエル在住 ガリコ 美恵子

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「世紀のかけひき」和平案の、経済面に関する会議が6月26日、バハレーンで行われた。占領が破壊したパレスチナの経済を、周辺諸国が援助し回復させるという一方的な会議内容で、各地で抗議行動が起こった。イ当局は会議の3週間前から東エルサレム北部、人口2万人のイサウィヤ村を事前弾圧。共生や自由、平等を求め、イスラエル人左派に連帯を呼びかける活動家がいるこの村では、ここ1カ月間におよそ200人が身柄拘束され、250人が怪我を負った。

村の日常生活を破壊し 青年を殺害

 警察は村入り口に検問所を設け、オートバイ、自家用車などに車検まがいの検査を行い、理由もなく罰金(4万円)を要求。バスの乗客を暴行するなど、嫌がらせを繰り返した。夜は音響弾、催涙弾を発砲し、睡眠を妨げた。打ち上げ花火などで対抗する若者にはスポンジ弾(スポンジで包まれた実弾)などを撃ち、連行。村の平和活動家アブ・ホモスは、警察がバスの乗客に乱暴するのを目撃し、非難したために警官に殴られた。弾圧が続く6月27日、イスラエル人左派活動家が村に訪れ、村人とともに連帯抗議した。  

デモが終わり、イスラエル人がいなくなると、治安警察が村に侵攻。自宅前で青年モハマッド・オベイダは、打ち上げ花火で警察を追い返そうとし拳銃で撃たれた。モハマッドは救急車で病院に運ばれたが、すぐ息をひきとった。警察は病院に突入し、付添人を暴行、身柄拘束し、遺体を奪い去った。この夜、当局は村を一層激しく攻撃し、村の若者は花火と投石で対抗。警察は若者19人と、オベイダ家の男親族6人を逮捕した。

 6月30日、警察はモハマッドの遺体引き渡しに以下の条件を出した。(1)村の先祖の墓に埋葬しない、(2)埋葬に50人のみ参加、(3)2万5千シェーケルを支払う、(4)旗を掲げてはならない。モハマッドの両親は「息子は殺されるようなことはしていない。せめて先祖代々の墓に埋葬したい」と、当局の要求を拒否した。  

同日、当局が予期し得ないことが起こる。エチオピア系イスラエル人の少年ソロモン・テカが、イスラエル北部ハイファで非番の警官に射殺され、エチオピア系の人びとが警察にデモで抗議した。エチオピア系が警察に殺されたのは今年3人目。人口2%の少数派であるエチオピア系への差別・弾圧は、以前から問題視されていて、抗議は国内各地で広がった。しかも、超正統派の兵役拒否した若者が連行されたことへの抗議デモと、エチオピア系のデモが同時にエルサレムの主要道路を封鎖した。  

追い込まれた当局は、翌日、オベイダ家の弁護士と裁判で契約を交わし、(1)イサウィヤ村の墓地にモハマッドを埋葬する、(2)参列者数の無制限の代わりに、契約金5万シェーケル(166万円)を要求。「遺体の方が金より重要。みんながカンパした」と村人が話す。金は当局に支払われ、2時間後に遺体が返却された。埋葬式には2000人ほどが参加。パレスチナ国旗、ハマス、ジハード・イスラミ、DFLP(パレスチナ解放民主戦線)の旗が翻った。  

弾圧されている少数派同士の連帯

式の終盤、軍が参列者に発砲。音響弾で目を撃たれた青年は失明の恐れがある。警察は村の出入り口に収監バスを用意し、100人前後の参列者を身柄拘束した。  

モハマッドが撃たれた時に、そばにいた村人が弾の抜け殻を拾い、保管していた。9㎜と記載されている。これは法律違反の実弾使用証拠だ。撃たれた場所から警官が発砲した場所は10mもない。デモ鎮圧に実弾やゴム弾の使用はイスラエル軍法で禁じられており、スポンジ弾でも30m以内の距離で撃つのは違反である。弁護士は国を訴える方針だ。  

埋葬式の1週間後、ユダヤ超正統派の団体ネトレイ・カルタが、イサウィヤのオベイダ家を追悼訪問した。数日後イスラエル人左派団体も訪問し、追悼。共生の意思をマイノリティが示すと、当局がそれを潰す。  

翌日、警察はシルワン村のワディ・ヒルウェ町の母子家庭の家に侵入し、母と子ども4人を路上に追放して入植者を入居させた。同日午後、首相の指示で警察はイサウィヤに侵攻し、モハマッド・オベイダの碑を破壊。オベイダ家の玄関のモハマッドの写真を引き下ろし、路地に掛けられていたパレスチナ国旗とDFLPの旗も除去。その際、道に座っていた糖尿病の老人と若者を殴った。老人が救急車で運ばれた病院で、警察は音響弾とゴム弾を発射した。  

モハマッドの埋葬式から3日間にわたり、国内各地でエチオピア系による、数万人規模の警察への抗議が行われた。主要幹線道路はデモ隊にブロックされ、テルアビブの中心では車やタイヤが燃やされた。  

軍がデモ隊に音響弾を放つ動画に加え、ソロモンの父の発言が報道された。「息子が法に違反していたなら、逮捕してくれればよかった。警官が命に危険を感じたなら、足を撃てば良かった。殺すことはなかった。私は国に対し、正義を求める」。デモ隊の1人が「差別・弾圧の被害者はエチオピア系だけではない。パレスチナを解放しろ」と叫ぶ動画も公開された。  

警察にとってイサウィヤ村での民衆蜂起は予想内で、それが目的で村を弾圧したとも解釈できる。しかし、エチオピア系イスラエル人による大規模デモは予想外だった。「国の非道を認識した」エチオピア系の人は少なくなく、今後の連帯が期待できる。

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