【参院選激戦区東北現地取材】震災のドサクサ紛れに 財界利益を優先する安倍・自民党 藤清吾さんインタビュー

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利益追求を第一義とする民間企業に漁場を開放

参院選が告示された7月4日から1週間、東北地方を取材した。前回参院選では、秋田を除く5県で野党統一候補が勝利。安倍=自民党の農林水産政策への厳しい批判が政治を動かした。今回も、全ての一人区で野党共闘が成立。全国でも際立って野党善戦が予想されているからだ。  

宮城では、「復興」の目玉として行われている「水産特区構想」が漁場を企業に開放する手段として利用されていることが漁業者から語られた。農民運動の伝統が息づく山形・置賜では、農地集約大規模化を進める安倍農政が、日本の食を支える家族農業を潰しつつある現実が語られた。  

新潟・福島にも足を運び、参院選のみならず、地域の課題に取り組む様々な市民運動を取材した。第1回目は、宮城・十三浜漁協元組合長・佐藤清吾さんと、山形・置賜興農舎代表・小林亮さんのインタビュー。安倍自民党の農林水産政策は、小生産者を廃業へと追い込み、地域自治・協同を劣化させている。 (編集部・山田)

 「経済力を持つ者も無一文になった者も、漁業を続けたい意思のあるものは、一人たりとも置き去りにしない」―こうした指針を示して漁業再興をリードしてきた佐藤さんは、安倍政権と村井県政を厳しく批判する。東京五輪誘致で復興資材は高騰し、村井知事が進める「水産特区」は、漁場を企業に開放するものだ。  

佐藤さんは、中学卒業後、家業を継ぎ十三浜で漁業を続けてきた。東日本大震災で家族・船・住居を失い、失意のどん底にいたが、地域の漁民・組合員の「地域存亡の危機だからこそ」との厚い信頼と人望で組合長に復帰。漁業復興とともに地域の再建に尽くしてきた。  

宮城県の主要産業でもある「漁業の復興は、漁民自身の手によるものでなければならない」との強い確信がある佐藤さんは、知事が進める「水産特区構想」こそ、「ショックドクトリン(惨事便乗型資本主義)」の典型だと批判した。  

家族・実家・仕事道具を失った 被災漁民の不安と不満

地震発生時は、もの凄い音とともに家が、大地が震えた。とっさに外に飛び出したけれども、海のそばの我が家もろとも海に沈み込むんじゃないかとの恐怖が頭をよぎった。大津波も直感したので、1世紀前の明治三陸地震津波を教訓に再建した実家へ家族を避難させ、自分はその場を離れた。  

けれど、地震の30分後に来た津波の規模は、116年前の大津波をはるかに超えて海浜集落・漁業施設・資材・船舶・冷凍冷蔵施設・家屋まで全てを流し去ってしまった。  

津波が引いて直ぐに、実家の家族の安否を確認しに行くと、実家は土台しか残っていなかった。翌日から家族の捜索が最重要な日課となったのだが、遺体はおろか遺品一つも見つけることができなかった。  

漁場の整備は、養殖漁場のがれき撤去から始まった。しかし沿岸沿い(陸地)のがれき撤去作業には、政府から復興支援として漁民に賃金=1万2千円/日支払われたが、海上の漁場整備事業は対象外。がれき撤去船は復興予算から支出されたが、作業は漁民の自助努力とされて支援はなかった。  

このため、十三浜漁協が独自財源を捻出して、養殖漁場のがれき撤去から養殖いかだの敷設を行わざるをえなかった。  

津波から船を守るため沖出しして難を逃れた40隻の漁船全てを漁協が借り上げ、全養殖漁民が乗り込んで、いかだ敷設、種付けまでを共同作業とした。この結果、震災翌年の養殖いかだの敷設は、70%まで復旧した。  

漁民を鞭打つ民間企業参入 知事が進める「水産特区構想」

この共同作業方式は、アワビの開口(解禁日)でも適用した。震災によって船数は3割程度に激減したが、この船に出漁意思のある者が乗り込み、全船の水揚げを全員のプール分けにした。  

生活に困窮した漁民は、アワビの採捕を渇望したが、津波の被害に加えて開口によって資源圧力を加えることは、永続的アワビ漁を断念するに等しい行為だ。資源状況を見るために一度限りの開口をしたが、激減したアワビ資源を震災前まで戻すため、数年間開口制限を続けてきた。これも地元の漁業資源を守るためだ。  

「創造的復興」を口にする村井知事が、震災直後の5月10日、漁業権を企業に付与する「水産特区構想」を提言した。  

漁業権は、前浜の自然資源を共同利用する独占的権利だ。明治政府が、江戸時代からの慣習として認められてきた漁業権を制限する政策に変えたことがあったが、全国の漁民が抗議し、大きな紛争に発展し、1年で撤回された。  

こんな歴史に疎い村井知事が、ドサクサに紛れて財界の意向に沿って強行しようとしたのが「水産特区構想」だ。この構想は、途方に暮れる漁民に鞭打つが如き仕打ちだった。  

漁業を衰退させた大手企業の 遠洋漁業、資源収奪

企業進出の目的は「利益」だ。漁民は零細だが、家族全員が生産に携わり、収入を得る。だが、企業にとって働き手はコスト。企業が欲しいのは一家の柱だけだから、家族の収入は減少する。企業が震災で疲弊した漁民をサポートするという理屈は、偽善だ。  

日本の漁業衰退をもたらしたのは、零細沿岸漁民や養殖漁業ではなく、大手漁業会社が遠洋漁業で海洋資源を根こそぎ獲って資源圧力をかけ続けたことだ。大型まき網船・大型底曳き船こそ規制すべき漁法だ。  

村井知事は、企業による漁場乗っ取りのお先棒に徹した。特区構想は、火事場泥棒的な画策であり、「ショックドクトリン」の一つである。漁民は、大災害で痛めつけられ、行政から生きる権利まで取られる危機感に脅えている。  

税金の無駄遣い事業の一つが、巨大堤防だ。かつて「万里の長城」とまで言われた岩手県宮古市田老地区の堤防は、30年の歳月と1200億円の巨費が投じられたが、今回の津波で破壊されつくされた。同地区の死者数は、堤防のない同市鋤ヶ崎地区の4倍だったという。巨大堤防建設は究極の愚策だ。  

東日本大震災後も、気仙沼市本吉町小泉に総工費360億円の巨大堤防が造られている。その堤防で守っている農地の資産価値は、40億円だという。   

コンクリート堤防の耐用年数はせいぜい100年。メンテナンス費用は地元自治体なので、将来大きな負担になる。農地が海水の侵入で耕作できなくなるのは、長くて3年。千年に1度の津波なら、畑が海水に洗われたほうが良い。  

巨大防波堤は政官財癒着の象徴 地域住民に基礎置く復興と協働を

特に愚かなのが、松島の無人島だ。耕作地がないのに、高さ8mの築堤を20億円かけて造るという。

「巨大堤防で海の様子がわからず、災害の時の対応策も立てづらい」という住民の声は多い。観光名所でもある松島の景観を台無しにして、小さな無人島からの土砂流出を防ぐという愚策だ。  

こうした知事の復興策の後ろには、大手ゼネコンが控えている。「政治献金」という名の賄賂が、国の財政を悪くしても巨大事業を作り出し、止められない政財官癒着の仕組みである。  

巨大堤防のメンテナンスで地方財政はひっ迫し、民生予算を削ることにもなるだろう。大震災を利用してゼネコンの利益を優先する資本主義の悪しき政治が跋扈したのが、復興事業の真の姿だ。  

日本各地で起きている自然災害は、驕り続ける人間への自然からの警告のような気がしてならない。  

災害を金儲けのチャンスととらえて、政財界が癒着する「ショックドクトリン」がグローバルに横行する時代だからこそ、地域住民に基礎をおいた復興政策と協働を育てる取り組みが重要だ。

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