【バリアのない街】介護の立場から 子育て支援の可能性を探る 遙矢当@Hayato_barrier

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少ない児童福祉予算額が 少子化の一因

 「もう一度、人工授精を頑張ってみる」―携帯に届いた言葉は、かつて介護現場で一緒に汗を流した女性職員からのものだった。彼女は結婚後、ケアマネージャーとして高い評価を得ており、子ども好きでもある彼女は、妊娠を楽しみにしていた。しかし、40代を迎え時間が限られてきていたため、人工授精の可能性に賭け、多額の治療費を払っていた。しかし、彼女を実に憎らしい病魔が襲っていた。悪性腫瘍が発生していたのだ。  

彼女は、男性の私に、まるで女友達に話すかのように近況を報告してくれた。無論、介護業務の話を聞くのは苦ではないが、人工授精については心苦しかった。結果が出ないなかでも、明るく振舞おうとしていたのが分かったし、どうにもできないもどかしさもあり、苦しくなっていった。  

この国で少子化がさらに進む一因として私が必ずあげるのが、国として子どもに費やす予算額が圧倒的に少ないことだ。社会保障費は100兆円を超えるが、そのうち、子ども、児童福祉にかかる費用は、全体の4%でしかない。70%を超える費用が、高齢者の介護に費やされている。  

今年2月に起こった千葉県野田市での小学4年生の女児虐待死も、児童相談所の不手際によるもので、児童福祉のインフラが絶対的に不足しているから発生した事件だろう。100兆円という社会保障に使える大金がありながら、子ども1人を守りきれない社会システムには、違和感がある。  

子どもを持ちたくとも健康面に問題がある女性に対しては、さらに冷酷だ。税金を取り、負担を強いて、苦難を与えているのだから。  

財源確保の犠牲者たち

少子化対策とは一体何だろう? 小児医療や児童福祉で必要とされる予算の確保も重要だが、社会全体で子どもを守り育てる意識を、すべての人が持つべきだ。  

今年は4月の統一地方選挙に始まり選挙が続くが、いつもながら、なぜか選挙が始まると、子どもの話が下火になり、話題にならなくなる。保育園の待機児童の話だけが少子化対策ではないのに。  10月には消費税増税だ。増加した税収の使途を、安倍政権は答えようとしない。介護に費やすと言われているが、今回も確約がない。  

児童福祉最大の問題は、当事者である子どもが権利主張しにくく、選挙権がないから政治的意思表示もできないことだ。政治家から見れば、選挙での当落に関係のないことは、関わりたくない、だから少子化対策など二の次で良い、というのが本音だろう。  

社会保障全体の予算は限られている。子どもへの社会福祉費用を確保するため、介護費用の削減を打診すべきかと問われたら、即答できない。限られた予算で精一杯頑張っている介護事業者に罪はない。そこに身を削り、児童福祉の犠牲になれとは言えない。  

彼女も私も、介護業務を通じて自分の健康を害する場面を経験した。賃金は低く、あたりまえの生活すら確保できない。関係者の生活費用を削ってまで、児童福祉の支援を考えなければならない現状。財源確保は、軍事費や無駄な公共事業の休止、廃止で行うべきだ。  

高齢者の介護従事者は、社会を見渡すと、それと引き換えに、児童福祉や障がい者の生活など大切なものを失いながら勤務している。  

今の社会が、子どもを迎える、育てるのに相応しい社会なのか? 私はNOと答えたい。良い子育ては介護に影響を与えるだろうし、介護の立場からも子育て支援に協力しうる。どのような協力が良いのだろう? 今度、かつての同僚だった彼女に聞いてみたい。

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