【視点論点】スーダン人民の反乱治安部隊の弾圧で拡大 編集部 脇浜義明

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 スーダンでは今、パンの値上げを発端に始まった抗議運動が、オマル・アル=バシール大統領打倒の反乱に発展している。

 同大統領は、1989年にイスラム主義勢力の支援で、敢行した軍事クーデターで権力を握った人物だ。治安部隊の実弾発射に悲鳴を上げて逃げまどう民衆の姿が世界に発信されたが、まるでイスラエル軍のガザ侵攻を思わせる光景だ。以下、BBC報道に基づいてスーダンの反乱を紹介する。

 スーダン人ジャーナリストのサリーは、半年間米国で過ごして帰国したが、スーダンの人々がげっそり痩せてしまったのを見て驚いたと語った。半年前は1ドル=40スーダン・ポンドだったが、今や76スーダン・ポンドだ。インフレ率は1年前で25%だったが、今や68%。政府は、この経済崩壊を緊縮財政と通貨デノミで乗り切ろうとした。そためパンは大幅に値上がりし、の影響で、毎日長い列を作って買わなければならなくなった。これが抗議のきっかけだ。

 治安部隊の暴力的対応で、死傷者や逮捕者が続出し、抗議は反乱状態に発展した。治安部隊は、政府批判を展開する医師会をも攻撃、1人を殺害し、12人を逮捕した。抗議デモは、大統領の退陣とアラブの春のスローガンを叫んでいる。

 民衆を支援する野党政治家が逮捕され、取材するジャーナリストも身柄拘束されている。アムネスティ・インターナショナルは死者は37名(1月10日現在)と発表。

 1月下旬に姿を見せた大統領は、治安部隊幹部に「どういう処罰が必要か? 殺害、処刑。治安維持のための抑止効果」などと言ったので、治安部隊はそれをゴーサインと受け取り、都心部へ繰り出して抗議者3人の頭部を撃ち、医師の膝を撃った。

 政府は、「南スーダンと隣接するダルフール西部の非アラブ人が裏で扇動している」として、学生たちを逮捕。彼らがイスラエルの諜報機関で訓練され、政府破壊の指令を受けて工作を行ったと発表したのだ。学生たちは「濡れ衣だ」と政府を非難している。反乱民衆も身代わりにされた学生に同情し、「人種差別反対。我々はみんなダルフール人だ」というスローガンを加えた。

南スーダン分離で原油収入が激減無能な経済政策で貧困拡大

 大統領は、公務員の昇給を約束して事態の鎮静化を図ったが、効果は薄い。1月16日、大統領は支持者への演説で「このままだとシリアの二の舞になり、みな難民になるぞ」と脅した。しかし、問題の根源はこの騒動ではなく、南スーダン分離(2011年)で原油生産の4分の3を失い、その後の無能な経済政策のために経済が悪化・崩壊したことだ。

 確かに、ダルフール紛争の集団虐殺関与や人権問題で国際社会から孤立し、米国の経済制裁はあったが、米の経済制裁は17年に解除された。それでも経済は何一つ改善が見られなかった。大統領は、戦乱で痛めつけられたシリア大統領を訪問したり、イエメン内戦に介入するサウジアラビアを支援するために軍隊を送るなどして外国の協力を得ようとしたが、効果はなかった。

 その間、民衆の貧困は悪化するばかりだ。一般民衆は、衝突に巻き込まれるのを恐れて家に閉じこもる人もいるが、勇気を奮って外に出て行動に参加する人も増えている。例えば、建物の屋根で銃を構えている治安部隊を発見し、「狙撃兵がいるぞ」とデモ隊に警告し、「お前たちの姿は見えているぞ!」と狙撃兵に向かって怒鳴る人々もいるのだ。民衆反乱はフランスの黄色いベストだけではない。

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