【連載19年入管法改正】入管体制最後の大博打 最終回  深見 史

人材不足を明記─欺瞞から本音への大転換─

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 これまで見てきたように、絶えざる労働力不足に苦しみながらも、入管法は一貫して「労働力不足を補うために外国人労働者を入れる」ことを忌避してきた。そのため、実体は労働者であるにもかかわらず、「本当の労働者ではない」立場の外国人が、人手不足分野の労働を担ってきた。その立場が「技能実習」と「留学」であり、いずれも完全な「労働者」ではない(技能実習生は就労機関と期間が定められており、留学生は週28時間以内のアルバイトしか認められない)。

 単純労働力を受入れない入管体制の中、アジア諸国の職を求める外国人が選択するのが、建前としての「技術移転」(技能実習)か「日本語の勉強」(留学)だった。

 彼らが「技能実習」あるいは「留学」の在留資格を取得するために多額の借金を背負っていることは、よく知られていることである。いずれも、その借金を返してなお蓄財するには困難な労働条件であることは、来日して初めてわかるのだ。

 借金を返せないまま在留期限が切れることを恐れる技能実習生は、よりよい職を求めて失踪し、留学生はアルバイト先を掛け持ちして違法就労状態に陥る。こうした実態は、それぞれの環境の問題というより、制度の問題である。

 そもそも、「日本の優れた技術を学ぶ」ために来日する実習生はいない。「日本語を学ぶためだけ」に来る日本語学校留学生は少ないと言っても、おそらく言いすぎではない。今日も、送り出し国のブローカーと日本の受け入れ機関が、若者たちに「日本に行けば稼げる」と誘いかけているのだ。

 今回の法改正が画期的なのは、入管法が初めて「人手不足」を制度設計の理由としたことだ。これまでの制度設計の失敗にはそのまま蓋をし、恥も外聞もなく、外国人労働者が今すぐに必要であることを告白したのだ。

外国人労働者は増えるのか?

 今回の法改正で4月から外国人労働者が一挙に増えると言われているが、本当にそうだろうか? 新設「特定技能」は技能実習からの移行を規定しているが、だとすれば、一昨年から始まった技能実習3号(実習3年終了後にさらに2年の実習を行うというもの)への移行は、おそらく壊滅する。事業主は実習生のそのままの就労を望むし、2年限りの技能実習3号の煩雑な事務手続きをわざわざ継続するメリットはない。
 宿泊、飲食など、人出不足が顕著でありながら技能実習の職種にない分野においては、実習生からの移行はなく、すべて新規入国となるはずだが、その受入れ方法についてはいまだ明確に見えない。おそらく、高い授業料を払っての留学を続ける理由はないと判断した就労目的留学生が、この分野に改めて来るだろうと予測される。
 つまり、「特定技能」は、技能実習と留学からの移行組が大半を占めることから、「外国人労働者の大量入国」ではなく、これまでいる人が在留資格名を変えて引き続き就労(今度は正規の労働者として)することになるのではないか、と筆者は考える。

無残に失敗してきた幾多の試みの後始末をどうつけるか

 以上みてきたように今回の入管法改正は、これまでの入管法制を根底から覆すほどの転換である。それは、日本社会が移民社会を選んだかどうかというレベルの話ではなく、構造的労働力不足という日本の現状を明確に認めざるを得なくなったということ、外国人労働力が必要だということを告白したという点において、画期的なのである。外国人が単純労働者(と表現しているわけではないが、内容的にはそうである)として入国・在留するということが、画期的なのである。

 入管法は、今回初めて欺瞞から本音へ転換した。それについては評価すべきだ。

 無残に失敗した幾多の試みの後始末をどうつけるか。問われるのはそれだろう。アジアの若い労働者を嘘八百の建前で締め付けて苦しめてきた事実に向き合えば、自ずと今後の途は見えてくるはずなのだ。技能実習制度の廃止、実習生の一般労働者資格への転換、留学生の資格外活動の廃止と現状に見合った在留資格への転換、などを考えるべきだ。送り出し国で暗躍するブローカーの排除という最大の課題もある。

 議論すべきことはたくさんある。

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