連載・入管法改悪―「入管体制最後の大博打」(2) 深見 史

労働者で無い労働者「技能実習」「留学」の欺瞞

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 1990年、入管体制は大きく変わった。もしこの時に人口問題や労働環境について真摯な議論をしていれば、この国は今とはずいぶん違った国になったはずだ。

 この年は、日本が「繁栄」から一転、底なしの没落へ向かう始まりの年でもあった。バブル破裂後、人口オーナス期に突入したこの国は、永遠に回復することのない労働力不足にあえぐことになる。

 高齢者や女性が、それぞれ「生涯現役」「輝く女性」などという気味の悪い修飾語とともに「働く」ことを奨励され始めたのは、成熟した社会が持つ人権や平等の理念からではない。高齢者や女性を含む、いわゆる「多様な人材」を引き出すほかに途がなかったためだ。この「多様な人材」には外国人労働力も含まれ、90年の法改正で、就労制限なしの在留資格「定住者」と、国際貢献・技術移転を名目とする「外国人研修制度」が創設された。

 新資格「定住者」は、100年前に日本から南米に旅立った日本人移民の子孫(日系2世、3世)を想定したものであり、「日系人だから日本社会へ同化がしやすいはず」という荒っぽい論理で作られたものだ。ポルトガル語かスペイン語を母語とする南米日系人は家族(配偶者と未成年の子)とともに「デカセギ」のために来日した。

日系人の移民受け入れから始まる

 日系人の家族もまた就労制限をうけない在留資格「定住者」、すなわち「労働力」として受入れられたことによって、この国は事実上の「移民」受入れを開始した。

 労働力が確実に不足する日本の未来に向け、この時代に準備された「外国人労働力」は、以上のように、(1)日系人とその家族と、 (2)労働法の適用されない労働者「研修生」 であるが、それ以外に、暗黙の了解のもとに雇用されていたのは、30万人の(3)不法滞在者である。 

 (1)は「デカセギ」労働者で、いずれ母国に帰る「はず」として設定された地位であるため、彼らがその在留資格の名称通りに定住し、結婚し、子どもが生まれ成長していくこと等は、実は「想定外」のことだった。定住に向けた準備を全く整えないまま、その場しのぎの労働力として受入れられたため、子どもたちの教育も地域での生活も、地元自治体や地域住民の自主的な取り組みに任された。それを「多文化、多様性、共生への取り組み」などと美談としてもてはやすことで、国の移民政策の無責任さを不問に付した。

 一方、(2)と(3)は、労働者としての権利が法によって守られないため、超安価で調整可能な労働力として日本社会の底辺に迎えられた。

 (2)の「研修生」は、「労働ではなく研修である」という欺瞞によって、一切の労働法が適用されなかった。最低賃金法も労基法も労災も適用されない、しかも期間限定の労働者の存在は、雇用する側にも大きな変化を作り出した。農業や製造業の現場で、育てることも継承させることもできない労働者を目の前にしては、彼らを「安い従順な労働力」としてしか見ることができなくなっていく。

 技能実習制度の最も大きな罪は、中小零細事業者が大切に育ててきたはずの生産者の誇りを自ら捨て去る途に誘導したことだ、と私は思っている。労働者は事業者にとって単なる道具ではなく、それまで培ってきた生産技術や人間関係を共有することでともに成長していく存在でもある。人を人としてではなく「安価で従順な労働力」としか見ることができなくなる中で、露骨で残酷な支配抑圧構造ができあがっていったのだ。

 この制度の欺瞞は、2010年に技能実習制度の見直し(在留資格「技能実習」創設、「研修」制度の廃止)が行われるまで20年も続き、入管政策の「建前」主義の根となった。

留学生30万人計画の『成功』

 上記(3)の「不法滞在者」の問題は根深い。当時をピークとする「不法滞在者」は、「不法滞在半減計画」によって確実にその数を減らしていった。時を同じくして、「グローバル化」戦略の一環として、2008年、「留学生30万人計画」が政策化されたことは興味深い。

 当初の目標値である「2020年までに30万人」は、現時点ですでに達成された。しかし、それまで「留学」ではなかった日本語学校の学生、高校以下の生徒・児童が「留学」に算入されたことは、無視できない。怪しげな日本語学校がアジアからの留学生を積極的に誘いこみ、人材派遣会社と結託して労働現場に送り込んでいることは、周知の事実である。留学生の資格外活動(アルバイト)の解禁・緩和は、在留資格「留学」を得るために多額の借金をして来日し、借金返済のために資格外活動を行う「留学生身分の労働者」を大量に生み出しただけだった、と言っていい。

 留学生の置かれている立場は、技能実習生と似ている。両者とも「日本に行けば稼げる」というブローカーの言うまま、来日費用と称する多額の借金のためにがんじがらめとなり、ひたすら送金に励む労働力となる。留学生の急増の背景に、本国ブローカーと、日本の悪質な人材派遣会社や日本語学校の暗躍があるのは、公然の秘密だ。

相次ぐ入管法改正在留資格新設

 2012年の大改正で外国人登録制度が廃止され「新たな在留管理制度」が始まったが、その後も、2015年「高度専門職」創設、2017年「介護」創設、「日系4世」の受入れ、とたてつづけに改正が行われた。全て人手不足に対応するためであり、全てが失敗した。(次号へ続く)

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