【イスラエルに暮らして】イスラエル軍がイスラム教聖地=アクサ寺院を急襲 イスラエル在住 ガリコ美恵子

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 昨年7月14日にアクサ寺院入口で、イスラエル国籍のパレスチナ人若者3人が国境警察官3人を撃った。警察は犯人らをその場で射殺。2日後、門入口に金属探知機を導入した。これに対する抗議として、イスラム教徒は、アクサ門前での集団路上礼拝を、探知機が撤去される7月27日まで続けた。

 イスラエル警察の強硬手段の狙いは、いくつかある。

 (1)首相の人気が右派の中でも落ちかけている。

 このため首相は、入植者がほとんどの宗教右派が喜ぶようにする必要があった。宗教右派は、神殿の丘(アクサ寺院敷地)をユダヤ人に自由にさせ、金曜・土曜もユダヤ人が入れるようにして、ゆくゆくは神殿の丘にユダヤ人礼拝堂を建てたいと考えている。

 (2)パレスチナ人への挑発行為。

 イスラエル軍・警察の暴力に怯えるパレスチナ人を決起させるには、アクサを狙うのが一番手っ取り早い。アクサ寺院にイスラエルが手をつければ、パレスチナ人は決起するし、イスラエル側は治安強化の口実になる。治安の強化は、武器開発にもつながり、儲かるからだ。この背景を踏まえながら、パレスチナ人側の立場についてレポートする。 

花火を上げ祝っていただけのパレスチナ民衆を急襲

 7月27日(金)、昨年アクサ寺院入口に設置されたメタル探知機が撤去された1周年を祝おうと、多くのイスラム教徒が訪れていた。

 ところが同日昼、重武装の治安警察がこれを急襲。礼拝後、花火をあげ、歌っていたパレスチナ民衆に向けて音響弾を投げ、ゴム弾を発射。40人がけがを負わされた。イ警察は「アラー・フー・アクバル」(神は偉大なり)と叫んだ24人を逮捕し、目隠して連行。「若者が花火を投げ、警察官4人がけがをしたため突入した」と発表した。

 しかし目撃した地元民は「花火以前に、重装備で待機していた治安警察の数は、異常だった。計画的襲撃だったと思う」と、口をそろえる。

 その後警察は、アクサ寺院を4時間閉鎖したばかりか、エルサレム市長とイスラエル警察署長が、多数の武装警官を伴って、アクサ寺院内に入場した。金曜は、寺院の運営を担うヨルダン政府宗教省と、治安を担うイスラエル政府間の合意により、非イスラム教徒入場禁止となっているため、エルサレム市長の入場は明らかな合意違反だ。

 これに抗議する民衆は、閉鎖されたアクサ門前で、集団礼拝を行った。

 ヨルダン当局は、イスラエル当局に対し、「イスラム教徒に対する暴力と挑発行為は許せない。特に、金曜日に礼拝者を急襲したことは許しがたい」との緊急声明を発した。

 パレスチナ系国会議員・アフマッド・ティビ氏も、「若者数人が花火を投げた後、民衆は危険な行為をしていない。にもかかわらず音響弾やゴム弾で礼拝者を攻撃し、門を閉めるとは、卑怯である」として異議を申し立てた。

 さらに8月17日、アクサ入口マジリス門付近で、イスラエル国籍のパレスチナ人が、警察に射殺された。イスラエル当局は「若者が警察官をナイフで襲った」と発表したが、現場に居合わせた住民は、「若者を射殺してから、警察がナイフを死体のそばに置いた」と語っている。

 この時も警察は、マジリス門通りの店員や買物客を殴り、蹴り、押し倒し、アクサ入口門を閉めた。閉め出された民衆は、路上礼拝を行ったが、警察は、路上礼拝した数百人を、こん棒で殴る、蹴るなどの暴行を加えた。 アクサ寺院東側のアル・ラフメ門前で路上礼拝を行った民衆に対しては、監視カメラで顔認証して、その多くを身柄拘束し、尋問センターに送還して、寺院入場禁止処分にした。

 8月25日には、アクサ職員4人が噴水の掃除を始めたところ、警察がかけつけて逮捕。2週間の職務停止および尋問センター出頭を条件に、4人を釈放したが、ヨルダン政府が異議申し立てしたため、処分を取り下げている。

 ワディ・ヒルウェ・インフォーメーション・センターによると、8月にアクサ入場禁止処分を受けたイスラム教徒は20人。9月は55人。期間は2週間から半年。処分期間終了後、期間延長された人もいる。一方、8月に警察護衛で入場したユダヤ人は2437人。ユダヤ教の新年、贖罪日、仮庵の祭り、と祭日が多い9月は、過去最高の5487人を記録した。

アクサ寺院の職員に対する暴行

 危機感を抱いた私は、祭日のたびにアクサへでかけた。敷地内で祈りを捧げるユダヤ人が多数いた。イスラム教徒は怒りつつ、黙っていた。ワイン・ボトルをもって入場したユダヤ人もいた。職員はこれを注意することさえ、許されなかった。

 昨年夏にイ警察に暴行を受け投獄された、アクサ職員ハリル・タルフォーニ(32)さんは語る。

 ―ユダヤ人がアクサ寺院に接近し、祈ろうとしたので注意しようとしたら、イ警察が5人でとびかかってきて、石畳に倒され、逮捕された。前歯が1本折れ、右腕骨折、肋骨を3本折られた。全身血だらけで連行された。病院で応急処置を受けた時も、手錠のままだった。

 4日間留置所に監禁され、裁判で3カ月間の職務停止を言い渡されたが、警察側が上訴し、6カ月の職務停止処分となった。アクサ敷地内で、アルコールを飲んだり、男女が接触したり、肌を露出したり、他宗教の祈りをすることは、禁じられている。そのような行為をしないよう、注意を促すことが私の職務なのだが…。

 最近、計17人のアクサ職員が職務停止処分を受けた。うち7人はまだ職務復帰できていない。ほとんどが、『敷地内で礼拝をしてはいけない』とユダヤ人に注意しただけだ。暴力的に逮捕され、職務停止処分の判決を受けている。

 私は警察に殴られたトラウマで、ユダヤ人が違反行為を行っても注意することができなくなったが、数日前にも15日間の職務停止処分を受けた。イスラム教徒はアクサ入場門で、イスラエル国境警察にIDを預けなければならない。毎日礼拝に来る老女がIDを家に忘れてきたので、『この老婆は毎日来ている人だから、入れてやってくれ』と交渉したら、私を含む職員3人が裁判なしで処分を言い渡された―

 イスラエル警察のアクサ寺院内での横暴な行為について、イスラエル人弁護士M氏は 「イ警察の行為は違法だ。ヨルダン政府がイ当局に異議を表明すべきだが、報復が恐ろしくて、強い態度に出れないのだ」と語っている。

 ※10月20日夜、イスラエル政府が、前回お伝えした「ハーン・アル・アフマル・ベドウィン集落の撤去」を「延期する」と発表しました。ひとまずは、連帯運動の勝利です。
 

 

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