【連載(1)韓国の新たな運動】立ち上がる韓国の女性たち 朴藝智(ぱく いぇじ 交差性フェミニスト)

女性嫌悪への対抗と創造フェミニズムの嵐が吹く

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翻訳・影本 剛

 近年の韓国の運動は、日本ではキャンドルデモが広く知られている。だが強固な家父長制と女性嫌悪を変えるために、若い世代にわきおこった新たなフェミニズム運動はあまり伝えられていない。そこで、韓国の延世大学博士課程在学中の影本剛さんに、2010年代の韓国フェミニズム運動の流れを整理した朴藝智さんの文章を翻訳していただいた。連続掲載する。   (編集部)

なぜ今フェミニズムなのか?

 現在、韓国の青年層女性たちにとって、最も熱い問題はフェミニズムだ。「フェミニズム」という言葉が付けば何でも人気がある。なぜか? 2015年~16年にかけての一連の出来事を経て、韓国の若い女性たちが、自らを「フェミニスト」と自己確認していったからだ。ここ2年ほど、韓国社会では前例なきフェミニズムの嵐が巻き起こった。女性学者たちは、若い世代から起こり始めたこのフェミニズムブームを「フェミニズム再起動現象」とも称した。

 女性嫌悪は家父長制に深く内在しているものであり、古くから韓国社会に内在してきた。しかし、伝統的な嫌悪が「無視」であったならば、2000年代以降の嫌悪はより積極的な反動として現れている。なぜなら女性たちが力を持つ存在になり、もはや家父長的な特権によって簡単に無視できなくなったからだ。社会の重要な位置を占める富と名誉を獲得する女性、政治に参与する女性たちが多くなるとともに、女性に対する嫌悪が拡がっていった。

 これは、男性たちが職場を独占し生計扶養者として家庭を率い、女性の上に君臨できなくなったことから生まれた。かつて簡単に所有できた女性たちの地位が高まったことへの反感によって、女性たちをねじまげる必要があったのだ。このような嫌悪は、女性を「常識なく非道徳的な」存在として呼ぶ単語を通して社会的に広がっていった。

 06年に「味噌女」という単語が登場した。これは伝統発酵食品と女性を合わせた言葉であり、スターバックスでコーヒーを飲んで、パスタを食べ、ブランドの鞄を持つ女性を卑下する意味だ。それ以降、新商品女、男は外見女、自動車事故女など、多様な嫌悪単語を通して「常識なく非道徳的な女性」という形象が強化された。

 とうとう14年には「キムチ女」が韓国の掲示板サイトのイルベを通して登場した。もはや特定の非道徳的行為をする女性を呼ぶものではなく、韓国女性全体を指して卑下する単語だ。いまや女性たちは何もせずとも、ただ「韓国女性」であるというだけで嫌悪の対象になってしまったのだ。

 中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスは、高熱、咳、呼吸混乱などを起こす致死率の高いウイルスだ。韓国内でも2015年5月20日に初めて発病者が出た。当局の不十分な対処によって、最初の発病者をきちんと隔離できず、多数の伝染者と死亡者が発生し、社会的問題になった。「DCインサイド」という韓国の代表的なネットコミュニティーサイトで、MERSに関する掲示板がつくられた。

 この時、韓国人で最初のMERSウイルスの保持者が女性であり、彼女らが香港で隔離措置を拒否したという一部マスコミの誤報が伝えられた。MERS掲示板では、「そら見たことか、キムチ女たちが国を亡ぼす」という非難が殺到した。「贅沢な海外旅行に行って来て常識もなくウイルスをばらまく韓国女」という嫌悪のフレームが作動したのだ。しかしその後、それは誤報であったと明らかとなり、最初の韓国人感染者は中年男性であることが分かった。

 対女性非難によるストレスが極度に達していた女性ユーザーたちが、これに対してMERS掲示板に集まり、その時まで自分たちが被ってきた嫌悪に反射する書き込みをすることで、論難が始まった。女性たちは「ミラーリング」という戦略を用いた。自分たちが被って来た嫌悪を反射する言語を創り出し、加害者たちに聞かせることである。

 (下図参照、次号に続く)

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