【イタリア総選挙】

社会・経済荒廃が生んだポピュリズム右派連立政権 アッティオ・モーロ consortiumNews.com 2018・5・29 翻訳・脇浜義明

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 3月4日イタリアの総選挙で、与党の民主党とファルツァ・イタリアが敗北、ポピュリズム政党五つ星(32%)と右翼政党リーガ(同盟)(17・69%)が勝利、連立政権を発足させた。五つ星というのは発展・水資源・持続可能性ある交通・環境主義・インターネットを指すが、既成政党に懐疑的な人々の支持を得た。両党に共通しているのは、ネオリベラル経済・政治への反発と中流層と下層を支持基盤としている点。EU内で右派民族主義勢力の台頭が見られる中、イタリアの政変もEUの危機的状況の表れであろう。

 以下調査報道メディア「コンソーシアム・ニュース」のEU特派員を務める、アッティオ・モーロの記事を紹介する。彼は、「EUとイタリア政治家が押し付けたネオリベラル政治が、イタリア社会を荒廃させた」と主張する。

工場はつぶされ労働者は消えた

 セスト市はミラノの外れにあり、かつてはイタリアの工業都市であった。人口20万人(ブルーカラー労働者4万5千人と堅実な中産階級の人々)の市で、多くのイタリア企業の本社が存在していた。しかし今では、産業砂漠である 。工場が消え、専門職中産階級が脱出、多くあった店舗は閉鎖されている。市当局は、医療研究センターとして再出発を図っている。

 セストの北方23キロメートルの位置にメタ市がある。かつてはイタリア有名高級家具メーカーがあったところ。高級家具を世界各地に輸出し、数万人の労働者やデザイナーを雇用していた。高品質部品を納入する小規模家族会社や季節労働者などで賑わっていた。

 しかし、フェラーリ、フィアット、イタリア航空の元会長モンテゼーモロがこのイタリア銘柄を潰して、民衆の敵となった。彼はこの二社を買収し、品質やイタリア人の雇用よりも利益を優先させ、トルコへと移転させた。彼はネオリベラリズムの擁護者で、2009年に「未来のイタリア」という自由市場を主張するシンクタンクを設立、イタリアの政経界に大きな影響を与えてきた。

ネオリベが生んだ危機と社会的荒廃

 もう一つの犠牲者は、ローマの東8キロメートルのところにある人口2万5千人のソーラ。最近までソーラは、中規模の製紙工場や数百軒の商店で賑わった町であった。今は工場はなく、商店は閉じられたまま。
 このように、2007年の金融危機の後、ネオリベラル政策が生んだ危機と社会的荒廃がイタリア全土で深化した。

 かつてのセスト市は、労働者階級が強く、選挙では共産党が50%も得票するために、「イタリアのスターリングラード」と呼ばれていた。現在では、セストで最強の政党は移民排斥を叫ぶ右翼民族主義政党リーガ(同盟)である。人口の3分の1が市から離れ、代わって数万人の移民が流入、人口の20%になったことが、リーガが党勢を拡大した理由である。

 かつては資本主義世界で最強と言われたイタリア共産党は、労働者階級とともに姿を消した。また、中産階級が貧弱化し、汚職が蔓延、社会機構が崩壊しつつある。伝統的政党が消え、いわゆる「ポピュリスト」政党がそれに取って代わった。

 3月選挙で勝利したリーガと五つ星両党は、連立政権を作った。リーガは、まだ生産活動が残っている北イタリアの人々の不満、とりわけヨーロッパ一高い税金への不満を代表し、減税政策を掲げている。それに合わせて、自国通貨のユーロとの並行利用、ユーロ流通の制限(ユーロの存在で輸出、とりわけドイツへの輸出が鈍化している)、移民の制限、を要求している。

共産党は労働者とともに姿を消した

 五つ星運動は、ある意味では元共産党の継承だと見なされるが、社会的支持基盤が共産党とは根本的に異なる。
 消滅しつつある労働者階級に代わり、未分化で雑多な低所得階層が支持基盤である。

 五つ星運動は、政党が倫理に立ち戻ることを主張し、最貧層に対し一律月額750ユーロのベーシック・インカム支給を要求している。
 過去10年間イタリア南部を襲っていた社会的災禍 ― 20%の失業率(若者の場合は40%)、マフィアなど暴力団が最大の「雇用者」となる社会的荒廃に対処するためである。
 これが新しいイタリアで起こっていることである。

 古きイタリア ― フィアットやカッシーナや小規模家族経営のイタリア、キリスト教民主党や共産党や活気溢れた労働者階級文化のイタリアは、もう消えてしまったのだ。

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