【朝米会談現地取材】日本メディアの無知と偏見

朝鮮を敵視する安倍首相に「日朝交渉」はできない 浅野健一 同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻博士後期課程教授(地位確認訴訟中)

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海外には存在しない「キシャクラブ」の壁

 D・トランプ米大統領と金正恩朝鮮国防委員長は6月12日、シンガポール南部セントーサ島で史上初の朝米首脳会談を行った。

 私はシンガポール通信情報省が発行する記者証を得て、10~13日「世紀の会談」を現地取材した。記者証には「People's News」(人民新聞)記者と書いてある。首脳会談は「DPRK―USA SUMMIT」と表記されている。「米朝」は誤訳で、「朝米」とすべきだ。私は本紙特派員として「ソ連崩壊などと同様に教科書に載る出来事」(友人の在日朝鮮人)を取材した。

 トランプ大統領が6・12会談を発表した直後に、シンガポール取材を決め、航空券を確保した。大統領が5月24日に会談中止を発表した時にはがっくりしたが、朝鮮側の努力と文在寅韓国大統領と習近平中国国家主席らの支援もあって、6月2日、予定通り開催が決まった。

 実は、米国側から会談中止の発表があった5月24日、シンガポール通信情報省は内外メディアに「メディア要項」を送り、取材申請の受付を開始していた。29日深夜が締め切りだった。シンガポール政府は終始、会談を「DPRK―USA Summit(朝米首脳会談)」と呼んだ。

 同省は「この受付業務は会談が正式に決定したことを意味しない」「申請手続きについての報道は厳禁」と通知していた。同省は、米国の中止発表後も受付手続きを続けた。私は28日に申請書類を送った。
 知人のジャーリストは「記者クラブに入っていないのに、現地に行っても十分な取材ができないのではないか」と心配していた。しかし、日本にしかない「記者クラブ」(英語でkisha club)など海外では何の役にも立たない。日本ではフリー記者には排他的なキシャクラブの壁が立ちはだかるが、海外では、パスポートを示し、どこのメディア(媒体)に記事を書くかを示せば取材証をもらえる。

 同省への取材申請は、すべてon lineで行うことになっていた。指定されたサイトで、個人情報を打ち込み、電子データ化した顔写真、パスポートのコピー、記事を寄稿する報道機関の責任者からの取材依頼書を添付しなければならない。取材依頼書には、公式の文書だと示すレターヘッドが義務付けられた。最初、朝鮮総連の機関紙、朝鮮新報の崔寛益編集局長に依頼書を書いてもらって申請した。同省メディア部から「レターヘッドがないので時間がかかっている」という連絡があったので、本紙編集長にレターヘッドを付けた依頼文書を作成してもらい再申請した。出発8時間前の9日午前2時に、取材許可のメールが届いた。

 

両首脳の握手にどよめく各国メディア

 10日朝オープンした国際メディアセンターで記者証を交付され、共同作業棟に机を確保した。同省によると、約2500人の報道関係者が登録した。4月の北南首脳会談(英語ではINTER―KOREA SUMMIT)では3000人の記者が登録されたので、厳しい審査があったと思われる。

 メディアセンターは、24時間態勢だ。シンガポール政府系テレビの「チャンネル・ニュース・アジア」が両首脳の動きを生中継し、メディアセンターのテレビ画面に流れた。
 12日午前9時4分、会談が行われた「カペラホテル」で両首脳が握手し、言葉を交わした時に、世界各国から来た記者たちから、どよめきが起きた。

 共同通信によると、大統領は「われわれは素晴らしい議論をし、大成功を収める。成功する。(金氏に会えて)光栄だ」と述べ、金氏が「お目にかかれて光栄です。ここまで来る道はそれほど楽な道ではなかった。われわれには足かせとなる過去があり、誤った偏見と慣行が時にわれわれの目と耳をふさいでいたが、全てを克服してここまで来た。世界の多くの人々はこれをSF映画や空想だと思うだろう」と応じた。金氏のイメージが変わった。

 午後2時、ふたりが共同声明の調印式に現れた時、メディアセンターの記者たちが立ち上がってカメラやスマホで中継画面を撮影。交互に相手の背中に手を添えるシーンには、「すごい」「そこまでするか」という声が上がった。

 トランプ大統領は午後4時から約70分間の記者会見。上機嫌で金氏を「26歳で国を治めた賢い人だ」などと称賛した。「(米韓合同)軍事演習は中止する。多額の費用を節約できるし、演習は挑発的だからだ」と述べ、米国は正式に米韓演習の中止を決めた。

 金氏は、会談前夜の11日午後9時から2時間、側近とともに市内を散策。リラックスした姿で市民に手を振った。これまでに朝鮮の指導者にはなかったスタイルだ。
 朝米会談に合わせシンガポールに入ったノーベル平和賞受賞の「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のフィン事務局長は、「核兵器を除去することは米国など核大国に共通する義務でもある。朝鮮だけに求めるのはおかしい」と強調した。

 

朝米会談に冷淡な日本メディアと安倍政権

 日本に帰って、主要メディアが朝米会談に冷淡な報道をしたことを知った。現地では話題にならなかったトランプ氏の会見での「拉致問題の提起」発言が、大々的に報道されたという。偏見と無知による大本営発表報道だった。

 安倍首相は、朝米会談の直前にホワイトハウスで日米会談を行った後、日朝首脳会談にも意欲を示した。その後、「平壌宣言に基づき『不幸な過去』を清算し、北朝鮮との国交正常化と経済協力を行う用意がある」「北朝鮮の人々は勤勉で、正しい道を進めば、明るい未来がある」とまで述べた。御用新聞の読売、産経に「8、9月に首脳会談」と書かせて、朝鮮の反応をみた。

 「モリ・カケ」で批判を浴びる安倍官邸は、「金正恩委員長と交渉できるのは外交の安倍しかいない」と情報操作を企んでいる。しかし、朝鮮の国営ラジオは15日、日本人拉致問題について「既に解決された」と言及。朝鮮労働党の機関紙=労働新聞は5月7日、「平壌の敷居をまたごうと権謀術策をめぐらしてはいるが、その意地汚い性根と悪癖を捨てない限り、一億年が過ぎてもわれわれの神聖な地を踏むことはできないであろう。日本は旅支度をする前に、心から改めるべきである」と論評した。朝鮮を敵視してきた安倍政権に日朝交渉は無理なのである。

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