【文化欄】連載:みんな「居場所」を求めている(4)~八百屋 フランク菜っぱ~

さまざまな人が集まって起こる化学変化

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人とひとをつなげたい

 かつてフランク・ザッパというロックミュージシャンがいた。あまり音楽は聞いたことがなかったが、なかなかいい。転調の多用や言葉遊びなど実験的であり、また歌詞においては政治批判や社会風刺も多かった。そしてなによりも素晴らしいのは陽気であるということ。

 ロックの話がしたいわけではない。フランク菜っぱという名の八百屋がある。フランクザッパの音楽を聞いてみるとなぜフランク菜っぱという名前をつけたのか、わかるような気になってくる。「発電から発酵へ」というキャッチフレーズのもと、若狭の発酵食品を店頭に並べるなど、原発に対する発信もフランク菜っぱの大きな特徴だし、やはり陽気な人でしゃべっているとその独特の語り口に呑み込まれてついついインタビューもおろそかになる。

 とにかく人とひとをつなげたいと言う。電話も商品を扱って欲しいというものやら移住先の相談、だれかとつながりたいというよく分らないひとやひっきりなしにかかってくる。マルシェでは通りがかりの知り合いに「あ、このひと人民新聞のひと。人民新聞知ってる?」と声をかけてくれる。いやいや、ヒューザさんも人民新聞知りませんやん。と突っ込みたくなる。なんてフランクな菜っぱ屋さんなんだ!

 取扱いは京都市から100キロメートル圏内。若狭、大原、滋賀県は高島などの生産者を中心にして社会的に支援したいパレスチナのオリーブオイルや沖縄の商品なども扱う。特徴は毎週のように足を運んでの集荷。そうして定期的に生産者に通うからこそ、分かち合う物語がある。

 これ、肥えだめにはまりながら、マムシに咬まれながら収穫した梅、どう?とか笑い話を交えながら独特のテンションで紹介する。

「農家さんなんて、え~これ全部ふたりで植えんの?とかそんなんばっかり。そんなの見たら放っておけへんやん。お前、いま何してんの?いや失業保険で食ってます。なんてヤツがいたら、ほなお前、ちょっと住所教えるから農家さん手伝ってきいや。と声をかける。そしたら実際行きよる。なんか、おとついぐらいに来はったで。なんてことがある。また逆に何人か若いのを引き連れて生産者のところに行く。そうすると辺りの農家さんがこんなにいつも若いひとが集まってくれるんやったら、ウチも無農薬でやろうかな。なんて意識が拡がったりもする」

 

ヒューザさんがいると面白いことが起こる

 それもすべてヒューザさんの人柄のなせる技なのだろう。ヒューザさんのいるところには必ず笑いや出会い、発見がある。だからいろいろなひとがサプライズを求めてやって来る。実はフランク菜っぱは4ヶ月ほど店をもっていなかった。大家さんが家を建てるからと立ち退きを告げられたのだった。店舗がないあいだ20軒近くの店をやっている知り合いからウチでやったらと誘いがあったそうだ。

「俺の店は多ジャンルの人がわーと来るからさ。言ってくれる方も俺がいることで起こる化学変化を期待してるわけ」

 つねに珍道中のフランク菜っぱ。その珍道中に周囲が期待をしている。

 結局、先週になるが新しい店舗が出町柳にオープンした。そこに決めた理由はヒューザさんが何十年と集荷のために走りまわっていた鯖街道の終着地点。そこに店を構えるのもええやん。という結論だった。

 3・11以降ライフスタイルをがらっと変えたひとが増えた。味噌を自分で作ってみたい。生産者に会いたいというひと、食べ物の向こう側の事情に興味を示すひとが本当に増えたと言う。フランク菜っぱにいけば、同じ意識のひとたちとの出会いがあって得られる情報がある。「食を通して小さな気づきがあり、そこからこれからのライフスタイルの変化への案内ができたらいい」

 そしてそれは情報だけじゃない。ヒューザさんがいるとなにかしら面白いことが起こる。だからひとが集まる。単純にそのことに尽きるのだと思う。

 (聞き手・編集部 矢板)

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