地域民主主義が壊された名護市長選

現地報告―稲嶺進さん敗北、与党が前代未聞の選挙工作 山本英夫 (フォトグラファー/名護市在住)

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 新基地建設の帰趨に大きく影響し、今後の沖縄の進路に深く係わる名護市長選が2月4日、投開票された。結果は稲嶺進さんの3選はならず、自公が推薦した渡具知武豊(とぐちたけとよ56歳)候補が当選した。

 ちなみに、同時に行なわれた市議補選もやはり保守陣営が当選した。

 なぜこうした結果になったのだろうか。名護市の自民党会派は、党中央からの横槍を受けながらも、17年7月27日、渡具知市議を市長候補に選んだ。10月6日、自民党の沖縄県連が同氏に推薦状を出し、これで決まった。9月初旬に決定すると言われていたが、延期されていたのだ。12月27日、公明党の沖縄県連が支持を決定。7月からの5カ月で、彼ら自公の内部(党中央や日本政府とも)で大きな動きがあったのだろう。

逆転された理由

 稲嶺進市長はこれまでの公約をほぼ果たし、市財政を立て直すなどの実績もあり、新基地建設反対を愚直に貫いてきた。しかし結果は逆転されたのだ。幾つかの報告があがってきている。

 (1)期日前投票が21660人であり、44・4%という異例な高さ。組織的な投票の呼びかけが執拗に行われたのだろう(私も期日前投票に行ったが、相当込み合っていた)。必ずしも企業などの組織だけではない。女性の方が多いのだ。

 (2)公明党・創価学会が地域を回り、「保育料の無料化」署名を集めていた。名前・住所・電話番号・メールアドレスまで書かせていたという。「選挙とは別」と言いながら、確実に投票への誘導の資料に使っただろう。

 (3)企業や団体のグルミ選挙もあちこちで行なわれた。私は伝聞だけでなく、直接聴いている。彼らは持てる組織・人のつながりを網羅し、市外のルートからも手をつっこんできた。これは、他市の市長・町長、同業のつながり、親戚・縁戚、同窓会など、総ざらいの態勢だった。

 (4)若い人を中心にインターネットを駆使した宣伝・伝達を徹底してやった。

 (5)従来の稲嶺支持の拠点にまで、渡具知派は地域拠点をつくりあげ、切り崩しに入った。

 (6)金銭による買収の証拠ははっきりしないが、選挙に誘い出し、物を買い与えるなども行なわれていた。

議論をつぶし不信を煽った与党

 ただ、今回の選挙の特徴は、こうした断片を寄せ集めるだけでは言い表せない。地域の民主主義が壊されたからだ。安倍政権総がかりの指示と圧力が名護に押し寄せ、それも表面下での働きかけがすさまじかったようだ。

 名護市では2010年以来、市民自治・基地建設反対の勢力がイニシアチブをとり、勝ち抜いてきた。稲嶺進というたぐい稀な政治家・行政マンとの出会いがあったればこそだが、市役所を、まちを明るくしてきた。今回はこうした力が削がれていった。

 地域民主主義の破壊について、いくつか指摘する。

 (1)「辺野古」を完全に封印し、基地建設の進行をみせつけ、フェイクニュース、悪宣伝で、議論の芽を封じ込めた。

 (2)最たるものは、あたかも稲嶺市長の誕生が市民に余計な「負担」をもたらし、名護のまちを「分断」しているかのような悪宣伝。稲嶺市政は再編交付金がなくても、逆に財政規模を膨らませ、収支を健全化させてきた。国からの軍事補助を受け取らなかった、だから市民は「損した」との悪宣伝。

 (3)分断をもたらしたのは、96年から自民党政権、自公政権がここに基地を造ろうとしてきたからだが、かかる倒錯を信じ込ませようとした。だから渡具知候補は、8回にわたる候補者同士の討論の場から逃げ回った。嘘がばれるから。気分は「刷新・改革」へ。彼らは考えることや議論を潰し、不審を煽ることをテーマにしたのだ。

分断を越え沖縄の道を行く

 安倍政権の新基地建設の野望は巨大だ。巨大な利権を手にし、戦争できる国を、沖縄に負担をおしつけるなかで、強行してきている。彼らはいかなる事件や事故がおきても、何一つ責任を取らない。これも一貫した態度だ。

 こうした力に抗して、名護市民は闘うしかない。沖縄は地域民主主義と地域自治を基本に据え、この国の安保政治と闘い続けるしかない。日本はどこに行くのか? 沖縄は沖縄の道を追求していく。両者の間に広がる分断を私たちは、超えていきたい。

 

2/16山田編集長ついに保釈!
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本人は元気、次号詳報(2月25日号は休刊します)  

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