サンフランシスコ市長が 「慰安婦」像設置を承認(上)

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山口智美(モンタナ州立大学教員)
筆者紹介・「アメリカの田舎にくらすフェミニスト。文化人類学者」

 11月22日、サンフランシスコのエドウィン・リー市長が、地元の市民団体から、市内に設置された「慰安婦」像の寄贈を受け入れることを承認し、署名した。

 この像は、市民団体「慰安婦正義連盟(Comfort Women Justice Coalition, CWJC)」により、9月22日にサンフランシスコ市中に設置されたもの。設置された土地は当初は私有地だったが、10月17日に土地が市に寄贈され、さらに11月14日、全会一致で像と碑文の寄贈も議会で決定。これにリー市長が署名をしたものだった。

 これにより、サンフランシスコ市はアメリカの大都市としては初めて、「慰安婦」像を公有地に設置した自治体となった。

大阪吉村市長が姉妹都市を解消

 像の市への寄贈に反対する大阪市の吉村洋文市長は、市長への面会を希望し、市長が拒否権を発動することを要請する書簡を出した。だが、リー市長はそれを断り、決議に署名した。これを受け、大阪市の吉村洋文市長は、12月中に、60年続いた大阪市とサンフランシスコの姉妹都市関係を解消することを表明。さらに吉村市長は、サンフランシスコ市との民間交流にも税金を投入しない、という意思を明らかにした。

 2012年頃から、アメリカ国内の「慰安婦」碑の建設に対して、地元市長や市議らに日本の右派団体が抗議を呼びかけ、メールなどによる抗議が殺到する─というパターンが続いてきた。在米日本大使館や領事館も、「慰安婦」像や碑の建設に反対し、撤去を求めるなどの要求を行ってきた。

 筆者の聞き取りでは、在米の日本総領事館が、桜を寄贈する代わりに「慰安婦」碑の撤去を要求する、と言ってきたり、総領事が市長などを自宅に招待して歓待し、説得するなどの活動を行ってきたことが明らかになっている。

 さらに、2013年に全米で初めて公有地に「慰安婦」少女像が設立されたカリフォルニア州グレンデール市には、姉妹都市の東大阪市の市長が抗議の書簡を送り、市議はグレンデール市議に面会し、抗議を行なった。また、「慰安婦」像の設置を断念するに至ったカリフォルニア州フラトン市に対して、姉妹都市の福井市が反対決議を行うなど、これまでも姉妹都市として反対表明をしてきた自治体はあった。

 大阪市とサンフランシスコ市の「慰安婦」問題をめぐる問題が勃発したのは、橋下徹前市長時代に遡る。2013年5月、橋下市長が「慰安婦制度は必要だった」という問題発言を行い、同年6月、サンフランシスコ市による全会一致の非難決議を採択した。サンフランシスコの「慰安婦」像の設置決議に対しては、2015年8・9月の二度にわたり、橋下徹市長が反対する書簡を送っている。

日本総領事館が暗躍 日系人・日系企業に圧力

 2015年9月、サンフランシスコ市議会は全会一致で日本軍「慰安婦」の記念碑の設置を求める決議案を採択した。この記念碑をもともと提案したのは、地元の中国系アメリカ人の住民たちだった。在米日本人および日本の右派、日本政府、大阪市の反対運動が激化するにつれ、運動は中国系アメリカ人のみならず、韓国系、フィリピン系、日系などさまざまなアジア系アメリカ人や、在米日本人、被差別日系(アメリカに移住した在日コリアン、琉球やアイヌの人々など)のメンバーも加わり、さらにユダヤ系市民や退役軍人などによる平和団体や地元の学者など、アジア系以外の人たちも関わるようになっていった。2015年8月にはこうした多様な人々により、CWJCが誕生した。

現地コミュニティを分断

 サンフランシスコでの日本総領事館や大阪市の活動は、他都市での日本政府の活動に比べても巧みで狡猾なものだった。共著『海を渡る「慰安婦」問題』(岩波書店)の中で、小山エミがサンフランシスコ「慰安婦」碑をめぐる展開を詳細に紹介している。

 小山によれば、グレンデールなど今までのアメリカでの「慰安婦」像建設に関しては、日系人団体は支持の立場をとって来たが、サンフランシスコでは一部の日系人有力者が反対に回った。

 そうした展開の裏では、日本総領事館が「慰安婦」問題に関して日本の右派が主張するデマを日系人に流すのみならず、日系人団体への日系企業からの援助引き下げを匂わせるなど、暗躍していた。

 さらに姉妹都市の大阪市からの働きかけも強力だった。大阪市との関係性を最優先に考え、自らのアジア系コミュニティ内での立場を顧みずに動いた日系人もいた。

 大阪市側の意向を汲んで動いた日系人は、姉妹都市を大阪市長が撤回したことで、結果として大阪市に切り捨てられてしまったことにもなる。

 また、「なでしこアクション」や「幸福の科学」、「歴史の真実を求める世界連合会(GAHT)」といった日本の歴史修正主義右派とつながる団体は、現地の在米日本人への働きかけを積極的に行なっていた。日本政府、大阪市や日本の右派の動きは、現地の日系コミュニティに深刻な分断も引き起こす結果となった。

サンフランシスコ市議が右派を叱責

 2015年9月にサンフランシスコ市議会で行われた公聴会では、目良浩一GAHT代表ら在米日本人右派らが登場し、「慰安婦」否定論を声高に展開した。特に目良は、このために韓国から訪れていた元「慰安婦」の李容洙を眼の前にして、「この人の証言は信頼できない」などと言い、デイヴィッド・カンポス市議から「恥を知れ!」と叱責されるという一幕もあった。

 この決定的な展開のため、市議らも全会一致で決議を通すしかない状況になったと言える。賛成しなければ、歴史修正主義者に賛同すると思われかねない状況を在米日本人右派らが作ったのだ。そして市議会は、市内に従軍慰安婦の記念碑や像の設置を求める決議案を全会一致で採択した。(次号に続く

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