右翼との連立で「欧州の夢」を 終わらせるメルケル首相

独選挙結果と欧州の暗雲

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10月2日「Zコミュニケーション・デイリー・コメンタリー」
ロベルト・サビオ(国際通信社)
翻訳・脇浜 義明

 9月24日に投票がおこなわれたドイツ連邦議会選挙。メルケル首相は4期目続投となり、首相が率いる与党は第1党の座を確保したものの、議席を大きく減らした。一方、難民の受け入れに反対する新興の右派政党が一気に第3党に躍進する結果となった。
 今年のヨーロッパは、オランダ(3月に下院選挙)、フランス(4~5月に大統領選挙・6月に国民議会選挙)、イギリス(6月に総選挙)など、主要国で国政選挙が相次いだ。これらの選挙結果の分析についての解説記事を掲載する。(編集部)

既成政党の凋落

AfD党首のアリス・ワイデル

 戦後欧州をリードしてきた主要政党の影が薄くなっていく。仏選挙でも、社会主義政党やド・ゴール主義政党が崩壊、未知のマクロンが大統領に。オーストリアでも同じことが起こった。
 独でもそれが始まった。メルケルのキリスト教民主同盟(CDU)は、結党以来最悪の得票。社会民主党(SDK)やキリスト教社会同盟(CSU)も、票を失った。失った票は大衆不満の受け皿、既成体制に一矢報いたいという思いを代弁する党へ流れた。左翼党(リンケ)が0.6%増、緑の党が0.5%増。前者はSDKへの不信感、後者はトランプに迎合してメルケルが防衛費を増額したことへの反発の結果。
 しかし一番得をしたのは、移民排斥を主張する右翼「独のための選択」(AfD)であった。AfDはCDUから98万票、SDPから47万票、リンケから40万票奪ったが、それより重要なことは、普段投票しない人々から120万票も得たことだ。
 仏でマクロンがル・ペンに勝ったからといって、ポピュリズムが終わったわけではないのだ(訳注:マクロンは右傾化、富豪減税、労働法改悪など、さっそく裏切りを開始している)。マクロンが社会改革に失敗すれば、次の選挙ではル・ペンが勝つだろう。 欧州全体では反既成体制政党(右翼ポピュリズム)が権力を握ることはなかったが、決して負けたわけではないことに注意すべきだ。北欧諸国でも英国独立党のような動きがあり、その影響で、どの政党も移民に関してポピュリズム的態度を取らざるを得なくなっている。
 変化の主役は中産階級。格差が急上昇、中産階級が没落不安に怯えている。なるほどメルケルのおかげで失業率は11%から3.8%に激減した。しかし、貧困ライン近くの人口は11%から17%へと増加。1000億ドルの国家赤字を200億ドルの黒字に転化したが、同時に貧困も倍増、二つの仕事に従事して生計を立てる人が200万人もいる。貧困ライン以下の年金生活者の数が、30%の増加。貧困ライン以下生活者は人口の15.7%、貧困児童が300万人。
 英国のトランプ政権を登場させたのは、中産階級の不安と欲求不満。特に中産階級下位層は政府に依存、民主主義よりも経済成長を望んでいる。これは先進国でも発展途上国でも同じ。経済成長と社会正義を両立させるためには豊かな資源が必要だが、資源がどんどん少なくなる世界で、一体両立できるだろうか。中産階級の不安が既成政党の凋落を産み出す所以である。

確立された「反既成体制システム」

 『エコノミスト』元編集長ビル・エモットは、「現在は政治的激動期。生後1年未満の政党が、仏大統領選と東京都知事選挙で勝利。伊では、生後5年未満の政党が人気上昇。政治的経験ゼロの億万長者たちが、ホワイトハウスを牛耳っている」と書いた。それに、ポピュリストや外国人排除主義者が議員に選ばれ始めたのは2009年以降の現象だということも、付言したい。
 だから戦後に関しては、反既成体制派が権力の座について政治を行うことについて、我々には経験がないので、よく分からない。しかし、米国、ポーランドの「法と正義」、ハンガリーのヨッビクを見ると、彼らは民主主義制度を通じて権力の座に就いたにもかかわらず、民主主義価値観ではなく、不安と貪欲に働きかけて公共機関を支配下に置こうとしていることが分かる。彼らはAfDが第三党に躍り出たことに祝電を送り、プーチンを政治的モデルにしている(ポーランドを除いて。その理由は歴史的に明らか)。
 移民排斥を掲げるハンガリーのオルバン首相は、「非自由主義的民主主義」というよく分からない理由をあげてEU拒否を語る。ポーランドでは、カトリック価値観を掲げる極右政党「法と秩序」(PIS)が圧勝、世俗的欧州に反対している。
 やがてAfDやル・ペンが権力を握るか、少なくともその勢いは大きくなろう。民主主義の衰退は確実だ。すでに日本、インド、中国、トルコ、フィリピンでは、民族主義と排外主義政治が顕著になっている。
 若者の政治離れも、深刻な現象。予算は票を入れる旧世代に使われ、若者は置いてきぼりにされる。彼らがポピュリズム右翼や反既成体制派にも投票しなかった点に注意すべきだ。若者の選挙参加があったら、トランプも英国のEU離脱もなかったはずだ。AfDに投票した若者(18~24歳)は10%、70歳以上は7%で、それよりは多い。高齢者の69%はCDUやSPDに投票したのに対して、若者のCDUやSPDへの投票は41%であった。だから、「若者の右傾化」というのは嘘で、単に棄権しているだけなのだ。
 しかし、その棄権のおかげで、体制側が辛うじて生き残り、反既成体制派が躍進するという現象が同時多発的に発生しているのである。イタリアを見てみよう。中道左派政権は銀行救済に300億ドルを投入、若者失業率(30%に近い)に拍車をかけた。反既成体制ポピュリスト政党「5つ星運動」(M5S)が金融政策に反対、若くて教育があって失業している若者を惹きつけている。

欧州にとって最悪な独選挙結果

 欧州統合は今や下り坂、「EUは現実離れした官僚機構だ」という批判言論が流行している。しかし、自国では不人気な政策を、「EUの決定だ」と言って強行できるので、政治家にとって便利な存在である。EUはますます人気が悪くなり、無責任性が増加。欧州統一は単なる謳い文句で、各国はそれを通じて分け前の増加をもとめているだけ。今やその分け前も危うい。
 EUには3つのビジョンがある。
 (1)欧州委員会のユンケル委員長のビジョンは、社会的目標の達成。しかし、これまでのところ経済や商売優先で、社会的目標は後回しになっている。ユンケルは進歩派ではないが、EUを超国家的政治体にして、反EU勢力を抑えたいのである。
 (2)マクロンのビジョンは、(1)と同じだが、動機は自国主権強化。強い欧州を背景に競争しないと競争世界では勝てない、と考えているのだ。
 (3)メルケルのビジョンは、EUは決定権を有する国の連盟(もちろん独の決定権が最強)。現在マクロンと南欧の国々は、欧州全体の収益の社会化、つまり弱い国を立て直すためにEUの金を使い、負け組のEU脱退を防ぐ社会政策の実行を主張している。独はそれに反対。自分が稼いだ金を負け組に移転したくないのだ。
 容易に赦免するカトリック文化と、プロテスタント的厳しい倫理意識の対立のように見られる。それが衝突した戦場が、ギリシャであった。ギリシャの後に控えているのが伊、スペイン、ポルトガルであった。ギリシャへの処置の結果、ギリシャの失業率は20%以上上昇、経済成長率は25%低下、年金は40%減額、貧困ライン以下の生活者は人口の20%となった。援助金はギリシャへの債権を持つ銀行(主に独の銀行)に回され、ギリシャ国民には行かなかった。
 この過酷な処置の背後には、ショイブレ独財務相の顔が見えるが、それでも彼はEU派であった。彼の後継者クリスチャン・リントナーはユーロにも反対で、ギリシャがユーロ圏から出ることを求めている。難民や移民にも厳しい政策を望んでいる。要するに右翼だ。こういう人物を閣内に抱えているメルケルは、ユンケルやマクロンが言う社会的目標に応えることはできないであろう。伊のM5Sは、ユーロ放棄、EUの力の制限を主張するだろう。つまり、反EU潮流は収まっていないのだ。

メルケルの責任

独・メルケル首相

 シリア難民流入がAfDを強めたことは事実だが、難民受け入れが独経済にとって賢明な決定であったことは、いずれ明らかになるだろう。犯罪やレイプのニュースと結び付けられることが多いが、難民の大部分は、模範的な納税市民である。メルケルがそういう認識で難民受け入れを行ったかどうかは、疑わしい。
 他にも、フクシマに学んで脱原発の方向へ行った。しかし、化石燃料発電は野放しである。どちらも独の特異性の吹聴で、深淵な思想とか洞察力で行ったことではない。彼女は欧州全体に責任を負う気はないし、市民をその方向に教育する気もない。独の経済的利益第一主義で、だからショイブレを使ったのだ。EUシステムから利益を得たのだから、その利益をEUの社会的目的のために使う欧州人意識はさらさらない。
 元来がそういう人間だから、右翼を混じえた奇妙な連立内閣の中で、FDP党首リントナーの要請により、ドイツ銀行タカ派の頭取を欧州中央銀行頭取のポストへ据えようとするのではないか。選挙後SPDのマーチン・シュルツは、「メルケルさん、あなたは大敗北だ。AfD躍進をもたらしたのはあなただ。欧州の夢を終わらせるのも、あなたになるのではないか」と、彼女に言った。

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