【中国】情報統制と経済的自由の矛盾 いつ爆発するか?

第19回中国共産党大会から見えてくる中国の実像と未来

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愛知大学名誉教授 アジア経済研究所名誉研究員 加々美光行さんインタビュー

 第19回中国共産党大会(北京)が、10月24日閉会した。5年に1度の党大会では、指導部人事や今後5年間の方向性が決定される。大会冒頭に演説した習近平氏は、中国が「世界の舞台の中心に立つ」べき「新時代」を迎えたと述べ、100万人以上の政府職員が処罰された党内の幅広い腐敗撲滅運動の成果も強調した。最終日には、習氏の指導理念を党の最高規則にあたる党規約に盛り込むことを決めて閉幕。これを根拠に大手メディアは、「習主席に権力が集中した体制に移行する」と報じている。
 「一帯一路」構想をはじめ「世界の大国」としての自覚と自信を強める中国だが、厳しい情報報道統制、経済成長の鈍化、急速に進む少子高齢化など、課題も多い。
 現代中国研究者の加々美光行さんに、大会を振り返ってもらい、中国共産党が示す未来図、課題などを指摘してもらった。加々美氏は、「革命運動の経験のない習氏への権力集中は限定的。情報統制など自由権の拡大が最大の課題」と語った。

(文責・編集部)

習近平氏にカリスマ性はない

──中国共産党第19回大会で、「習近平総書記への権力集中」という点が大きく報道されています。

加々美:大会報告で「習思想」という言葉が盛り込まれ、人事面などを見ても権力集中といえますが、毛沢東や鄧小平のようなカリスマ的権威崇拝に基づく権力集中ではなく、「神格化が始まった」という見方は間違いです。
 理由の第1は、習総書記には革命運動の経験がないという点です。毛沢東は、1930年代後半に「持久戦論」や「実践論」を提唱し、革命勝利に向けた軍事戦略を創りあげ、軍事的には圧倒的に優勢であった日本軍や国民党を打倒してついに社会主義革命を勝利に導いたという偉大な功績があります。
 鄧小平にしても、早くから少年兵として人民解放軍に従軍し、革命勝利後、失脚した時期もありましたが、改革開放路線を定着させ革命第2世代を代表する革命家としての高い評価があり、民衆からの絶大な人気があります。

権力集中には限界

 「毛沢東思想」という言葉は、第7回党大会報告で劉少奇や王稼祥が初めて使った言葉です。モスクワ派である王明を倒して党のトップに立ち、日本軍国主義との闘いも含めて毛沢東を讃えるためです。習近平が自分を称えて自分の3時間に及ぶ政治報告の中で使ったのとは、意味が違います。
 習近平は、政治実践家であり、政治闘争の勝利者ではあっても、革命途上・革命前後において目立った功績はないので、民衆にとっても毛沢東や鄧小平のように絶大な人気があるわけではありません。カリスマ的権威の樹立による権力集中には、無理があるのです。

20年にGDPで米国を追い越す

 指導部人事では、中央政治局常務委員7名に関し50才代の若手候補を除去し、5年後に開催される第20回党大会以降も、習近平が党の最高指導者としてリードし続けることを示しました。これに対し大きな反論がでなかった理由は、経済発展の成功です。少なくとも5年間に大きく経済破綻することはないと見られています。
 中国GDPは、既に日本の2.5~3倍となっています。1人当たりGDPでも、5年以内に日本に追いつく可能性があります。13億の人口を抱える中国の1人当たりGDPが日本を越えるというインパクトは、絶大です。中国の貧富の格差はいまだに大きいのですが、最底辺層ですら飢餓水準は完全に脱したと言って差し支えありません。習近平も、「2022年に経済的小康を得ることは疑いない」と誇っています。グロスのGDPでは、2020年代にアメリカを追い越すことでしょう。

知識人・学生に鬱積する不満

──習政権が抱える課題は?

加々美:中国政府は、極めて厳しい情報統制をしいています。私は、日本から中国のインターネット検索サイトに入って論文を探し、情報を得ていますが、「民族主義」という言葉で検索すると、全く表示されなくなります。外国からですらこのような状況ですから、中国国内はもっと厳しいでしょう。報道規制も強化されています。通常の新聞は、前日夜までに検閲を受けないと記事を掲載できません。
 人権は、自由権と社会権に大別されます。習政権は、教育や福祉、就労の権利、健康でいられる権利などに関わる「社会権」については、経済発展を基盤にして相当程度改善していますが、報道の自由・言論の自由・集会の自由といった自由権は大きく制限しており、大きな矛盾を抱えています。情報統制を強め集会の申請をほとんど許さない、こうした規制を強めれば強めるほど不満は鬱積します。特に知識人・学生など中産階層は自由権に強い関心を持っており、批判を強めているのです。習政権は、社会権を保障しているかぎり大きな反乱には繋がらないと見ているようですが、予断を許しません。

拡大する治安維持費と高齢化対策費

 一方中国の軍事費は、17兆円(日本=約5兆円)を越える規模となっていますが、治安維持費は、これを上回る規模だと言われています。中央政府の支出に加え、地方政府も多大な予算をつぎ込んでいるからです。経済発展を基礎として膨大な治安維持予算が組まれ、全国的規模で監視を強めています。
 また、一人っ子政策の結果である少子高齢化も、深刻な問題です。独居老人が激増し、孤独死などに注目が集まっており、習政権の最大の課題となっています。高齢者の急速な増大とそれに見合う社会福祉の強化。習政権は、強い危機感をもって急ピッチで老人介護施設を建設していますが、全く追いついていません。

10年後の中国を見通す

──中国の未来図は?

加々美:汚職・腐敗問題は、相当程度解決されるでしょう。中国の汚職摘発機関=中央規律検査委員会の王岐山書記(中央政治局常務委員、トップセブン)は、「150万人を処分した」と豪語しています。高い功績を残しながら王岐山は留任が叶わず、中央政治局員からはずれたので、後継者はまだ決まっていません。 しかし習政権は、汚職・腐敗に対して極めて厳しい処分を行いました。厳しい尋問によって獄死者・自殺者も大勢出たほどです。民衆はこれに喝采を送っていますし、これが習政権の権力基盤ともなっていますので、今後も腐敗追放運動を続ける方針を明確にしています。汚職問題は、解決に向かうでしょう。

政治と経済の捻れは人類史的実験

 5年後を見渡すと、インド・ベトナムのような開発途上国でも相当程度、政治的民主化=自由権の拡大は進んでいくでしょう。
 その一方で経済的には、世界第1をうかがうほどの発展を遂げている経済大国=中国が、報道言論の自由を示す自由権の世界ランクでは最低レベルに属することになれば、政治と経済のギャップは類例をみないほど大きなものになります。政治と経済のこの捻れは、人類史的実験と言えるかもしれません。それを民衆が許すのかという問題が横たわっています。
 ネット規制を含む情報統制が今後5年も続くとすれば、異常なことです。自由権と社会権の矛盾がどのように爆発するのか? 習政権はこの矛盾をどのように止揚するのか? 注目すべき点です。

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