韓国の今 第4の権力=市民権力に支えられる文在寅新政権

5/28 「怒れる世代の会」白井聡講演京都集会より  (京都)

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 在日韓国研究所代表 金 光男
5月9日、文在寅民主党候補は、当選と同時に新大統領に就任しました。通常は大統領当選後2カ月の政権移行期があるのですが、朴槿恵前大統領の罷免に伴う早期選挙だったためです。この日以降、韓国の国民たちは、政権交代が、単なる政権交代を越えて、社会が変わる、政治が変わる、国が変わるという感動を、日々感じています。その一人として私も、文在寅新政府の改革政策に対する関心とともに感動をおぼえています。
 文在寅政権は、新しい韓国を創造するための改革を進めています。第1に、破格の人事です。現在までに明らかになっている大統領府・閣僚人事を見るだけでも、新政権の方向性を伺うことができます。
 まず、大統領府安保室長には外交官出身の鄭義溶。国家情報院長には、金大中、盧武鉉大統領の南北首脳会談を推進した徐薫元国家情報院第3次長。そして外交部長官には、ノンキャリアで女性の康京和氏が選ばれました。康京和外交部長官候補が長く国連で人権、女性問題を担当してきたことから、彼女が外交部長官に指名されたことは、韓国政府の外交基調が、これまでの4大国中心、対北朝鮮対決路線から多国間外交、そして人権中心の外交に転換する可能性を示しています。

非正規労働をなくす画期的政策

 他にも、非正規労働について画期的な政策が明らかにされました。新大統領の第1号業務指示は「雇用委員会」の設置です。同委員会では、雇用創出とともに、一定比率を越えた非正規職を雇用している企業に対し負担金を課す方案が議論されるようです。第2は、青年求職手当の制度化です。韓国の青年失業率は10%を越えていますが、就職活動をしたくても、アルバイトが忙しくて就職活動ができない。そのために、ソウル市は、毎月50万ウォンの求職手当を最大6カ月間支給する制度を作り、朴槿恵政権と衝突しました。新政権の雇用委員会は、これを国家レベルで推進しようとしています。
 3点目は、雇用労働部から勤労監督庁(労働基準監督所)を分離・独立させる方案です。勤労監督官に補職されても、一定期間後、再び行政職に戻るという慣行がありましたが、新政府は、労働者の利益を守るために労働監督官の専門性と独立性を担保し、雇用労働部から切り離し、独立行政機関として運営する方案を検討しています。
 また、新大統領が最初の外部日程として視察したのは仁川空港です。仁川空港には約1万名の労働者が働いていますが、その8割は非正規職です。新大統領は非正規労働者と会い、彼(女)たちの苦しみを聞き、二つの施策を提案しました。一つは、政府出資である仁川空港公社で働いている非正規職を、年内に正規職に転換することです。もう一つは、韓国の公共企業体に於いて、常時業務に携わっており、生命、安全業務に携わっている非正規職を任期内にゼロにすると宣言しました。
 このような改革が日々続いているために、韓国の市民たちは、政権交代によって政治が変わる、社会が変わると感じており、大統領国務遂行に対する支持率も80%を超えています。
 なぜこのような改革を進めることができるのか。文在寅大統領は、4大国に大統領特使を派遣する際、「新政権はピープルズ・パワーで誕生した政権である」ことを強調するよう指示しました。
 昨年10月以降、市民たちが、雨の降る日も氷点下の夜も20回にわたって、延べ1670万人が起ち上がって、大統領罷免に追いやり、選挙を実現し、誕生したからです。文在寅新政権はキャンドル市民革命によって生まれた政権です。
 このキャンドル市民革命は、世界史に記録されるべき快挙です。光化門広場には最大160万の市民が参加しましたが、1人の逮捕者も負傷者もでていません。憲法秩序の中で大統領を弾劾し、憲法裁判所の罷免決定を実現し、新政権を誕生させたのです。

文在寅候補を「反日」と決めつけ印象操作する日本のマスコミ

 森友問題、加計学園問題は、日本の政治が安倍個人に私有化されていることを如実に表しています。皆さんは、日本の公権力を選挙によって委任しただけであって、安倍首相個人に権力を乱用して良いという権限を与えたわけではないと思います。
 韓国のキャンドル市民革命で最も主張されたスローガンは、「大韓民国は、民主共和国である」「全ての権力は、国民に由来する」というものです。これは歌にもなっていますが、歌詞は大韓民国憲法第1条であり、これを延べ1670万人の市民は叫び、歌い、ついに大統領を退陣させました。
 その結果、韓国には、司法、立法、行政の3権に続く第4の権力として「市民権力」が確立した、と私は思います。文在寅政権は、議会で過半数を確保していないので、野党との妥協を強いられる場面もあるかもしれません。しかし、新政府は、「全ての権力は、国民に由来する」と叫んだ市民に支えられています。
 日本の民主主義の後退に比べて、韓国のキャンドル市民革命が実現した最大の要因は、国民主権主義に対する市民意識の違いではないかと思います。
 日本のメディアは、連日連
夜、文在寅候補に対し、「親北・反日政権」だというレッテル張りと罵倒を続けました。しかし、韓国大統領選挙期間中6回行われたテレビ討論会で、日本との外交問題は、1度も議論されていません。にもかかわらず、文在寅候補を反日だと決めつける根拠とは何なのでしょうか? これは偏見を越えたフェイクニュース(偽情報操作)です。メディアの劣化を越えて、堂々とフェイクニュースを流し続ける日本のメディアに対し、これをチェックし批判する行動を進めていかなければならないと思います。

「人すなわち天」闘争の記憶継承を

 韓国の市民運動を見ると、闘争の歴史が記憶として継承されていることを強く感じます。19世紀後半、東学農民革命で、封建制度を打倒しようとした農民たちは、「人すなわち天」と叫びました。この後、4月革命、光州民衆抗争、6月民衆抗争などさまざまな闘争の歴史が、市民の記憶として継承されています。
 最後に皆さんに訴えたいのは、この点です。60年代、70年代世代の闘争の記憶を、80年代、90年代世代に継承しなければならないのではないでしょうか。このことを最後に申し上げて終わります。

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