視点・論点 パレスチナ人を対象に「生体認証データベース」

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イスラエル版「マイナンバーカード」

 編集部 脇浜 義明

 イスラエルで「生体認証データベース法」が国会通過した。オルタナティブ・インフォメーション・センター(AIC)エコノミストであるシアー・ヘヴァーによれば、イスラエル国民は顔写真や指紋などの個人情報データを提出、国家はそれをデータベースに保管、それに基づいてIDカードやパスポートを発行する。情報セキュリティや個人情報の専門家は、データのハッキング、リーク、販売、悪用などの危惧があると反対、大半の国会議員も委員会や国会議論の中では反対した。しかし、採決になるとみんな賛成した。イスラエル政治システムの奇妙な点だと、ヘヴァーは言っている。議会の外でも法案に反対する市民運動があったが、中途半端に終わった。
 実は、1990年代にイスラエル政府は占領地のパレスチナ人を対象に「生体認証データベース」を実施しており、パレスチナ人はそれに基づいてIDカードを購入、常時携帯とチェックポイントでの提示を求められた。パレスチナ人にはよいがイスラエル人にはだめだという市民運動では中途半端になるのは当然であろう。
 この法の背後にはグローバル企業ヒューレットパッカード(HP)がいる。90年代のパレスチナ人データベース化の入札に勝ち、政府と契約してしこたま儲けた。しかし占領地パレスチナ人の人口は250万人で、HPにとっては大した儲けにはならない。HPは公安省や内務省に働きかけ、イスラエル全国民のデータベース化に成功し、儲けは3億ドルほどになる。HPのようなビッグビジネスにとっては3億ドルは大した金額ではないので、他国へ働きかけることは確実であろう。

シオニズムの歴史上の一大転換

 他者の悲惨を見逃せばその悲惨が自分にも降りかかってくる例は他にもある。イスラエルは非ユダヤ人(特にアラブ人)には入国に厳しく、帰還法などでユダヤ人は特別扱いされてきたが、このたびBDS運動関係者・支持者の出入国を制限する法律が成立した。例えユダヤ人であっても適用されるという。かつてイスラエルを批判したノーム・チョムスキーが入国禁止されたことがあったが、今度は一般の進歩的ユダヤ人やユダヤ教徒も対象になる。これはシオニズムの歴史上の一大転換である。BDS運動に反対しているユダヤ人大学教授も「この法律は学問研究やイスラエルの民主主義体制に影を投げかける」と批判した。
 この法律の前、去年5月にBDS運動発案者であるパレスチナ人オマール・バルグーチは出国禁止処分を受け、やがて逮捕された。パレスチナ人に対する処置がユダヤ人にも拡大されたのである。
 ホロコーストに関する有名な言葉、「ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声を上げなかった。私は共産主義者でなかったから。社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声を上げなかった。私は社会民主主義者でなかったから。彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声を上げなかった。私は労働組合員でなかったから。そして、彼らが私を攻撃したとき、私のために声を上げる者は、誰一人残っていなかった」が、思い起こされる。

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