いま米国では トランプ勝利と米国内の運動

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翻訳・脇浜義明
今月20日、ワシントンでトランプの米大統領就任式が行われる。ヘイト発言・暴言を繰り返すトランプの就任式に対して有名歌手が出演を拒否し、20を超す団体が抗議デモを計画している。抗議には最低でも20万人以上の参加が予想されている。トランプ政権発足を目前に、アメリカの運動はこれからどう闘っていくのだろうか。パレスチナ連帯運動や先住民運動、労働運動の各現場からの分析を紹介する。(編集部)
 
 

ヒラリーも、トランプも、親イスラエルの米国政治

 

ネタニヤフ、次期米国大統領を歓迎

 ヒラリー・クリントンは好戦的親イスラエル派、好戦的反パレスチナ派で、BDS運動を妨害する人物であるのは多言を要しないが、トランプはどうであろう。以下は、電子インティファーダのアリ・アブニーマが書いたもの(2016年11月9日付)の一部である。(訳者)
 次期大統領ドナルド・トランプについて言えることは、「彼が何をするか、誰にも分からない」ということだ。選挙運動初期に彼が、「パレスチナ人とイスラエル人を平等に扱う」と発言したので、多くの親イスラエル派とネオコン支持者がクリントン支持に回った。それを見て彼はすぐに方向転換、エルサレムをイスラエル国の「分割できない首都」と認める、とネタニヤフに伝え、西岸地区入植地建設を激励した。
 そのくせトランプは、時々イスラエルへの妥協を渋る姿勢を見せた。共和党の指名を勝ち取った後の記者会見で、共和党大統領候補がイスラエル訪問をする伝統があるが、あなたは訪イするつもりか?と尋ねられたとき、「単なる伝統だろう。私は伝統主義者じゃない」と答えた。トランプは一貫性のない人間のように見えるが、彼の「親イスラエル」的態度は積極的に入植地建設を認めたオバマとあまり変わらないように思える。
 勝利宣言では、「すべての国々と友好的にやっていく」と一般論を述べたが、これは何の慰みにもならない。トランプのムスリム嫌悪、メキシコ人差別、女性差別、地球温暖化否定、人種差別への態度を支援した人々がこれから掻き立てるであろう恐怖を消すものではない。
 彼と同じレイシスト体質のイスラエル政治家は、彼の勝利を祝福した。ネタニヤフは彼に電話して「イスラエルの真の友人」と呼び、アラブ人殺害を自慢するのが好きなナフタリ・ベネット教育相は、「トランプ時代到来を歓迎する」と言った。「トランプ勝利は、イスラエル領のど真ん中にパレスチナ国家建設という発想を打ち消した」とも語ったが、そもそもこの二国解決案は、とっくの昔に死んでいる。
 パレスチナの大義は、すでに国家建設から、米国二大政党が支持する占領・入植者植民地体制・アパルトヘイトと闘い平等な権利を求める人権闘争に変化している。米国の大統領選挙の結果でパレスチナ人の闘い方が変わるわけではない。
 トランプが勝ったけれど、パレスチナ人の権利を支持する米国人(ユダヤ系米国人も含めて)は着実に増えている。米国人は、米国のイスラエル支持は、白人優越主義、黒人に対する警察の暴力、米国軍国主義、帝国主義陣営から由来するばかりでなく、リベラル人権団体を名乗る陣営からも由来している現実を、次第に理解するようになっている。
 このリベラル派が、植民地主義者と被植民地人、抑圧者と被抑圧者、占領者と被占領者を平等に(実質的には被抑圧者には不平等に)扱ってきたことが、クリントンが負けた要因の一つである。

スタンディングロックでの先住民の闘い

 

ダコタ・アクセス・パイプライン建設阻止

 ジェニー・モネットというラターナ・プエブロ部族の女性が『イエス・マガジン』に書いたもの(2016年11月10日付)の一部。(訳者)
 トランプ勝利直後、エネルギー輸送業関係の株が15%上昇した。その中には、ダコタ・アクセス・パイプラインを設営するエネルギー・トランスファー・パートナー(ETP)社も含まれている。株価上昇は、トランプが環境や民衆の生活や命よりエネルギー会社の味方をすることを物語っている。
 根拠もある。5月、ノースダコタ州の石油会議で、トランプはエネルギー計画を披露した。化石燃料増産、規制緩和及び撤廃、オバマの気象変動に関する政策の見直し、などが内容。これでエネルギー業界はトランプ支持へ回り、トランプは共和党既成体制を乗り越え、指名を勝ち得た。
 トランプ勝利は、ダコタ・アクセス・パイプライン建設阻止運動と先住民の権利と生活を守る闘いにとってかなり厳しい。第一に、トランプはこの事業から個人的にかなり利益を得る立場にある。彼の選挙運動顧問のハロルド・ハムは、バッケン水圧破砕で取り出した原油をパイプラインで運ぶ会社コンチネンタル・リソーセズ社のCEOで、ひょっとしたら彼がエネルギー省長官になる可能性がある。
 ポリティコ誌が伝えているように、トランプは石油会社ルークス・オイル社のフォレスト・ルーカス(74歳)か、「掘れ、ベイビー、掘りまくれ」というキャッチフレーズで有名になった保守系政治家サラ・ペイリンのどちらかを内務長官にすることを検討している。
 先週末、パイプラインは、スー族の水源であり下流1800万人の生活水であるミズーリ川に到達した。オバマ政府は工事中止を呼びかけたが、ETPはそれに耳を貸さず、ミズーリ川を横断するつもりである。政府は工事許可の見直しとルート変更を検討しているが、それというのも、現在のパイプライン・ルートは、米陸軍工兵隊が地役権を持っている土地を横切ることになるからだ。しかし、ETPは予定通り工事が進むことに自信を持っている。 大統領選挙投票日に、ミズーリ川流域のオアヘ湖の底にトンネルとの計画を発表、工事中断もルート変更する気もないことを明らかにした。会社の予測通りトランプが勝利、会社をいっそう元気づけた。トランプは、ETPに100万ドル、さらに石油精製会社フィリップ66に10万ドル投資している。フィリップ66は、ダコタ・アクセス・パイプライン事業株の4分の1を所有。
 

中央から離反する米国労働組合

 

民主党推薦のクリントンからサンダースへ

 『レーバー・ノーツ』のマーク・ブレンナーの分析の一部。(訳者)
 米労組はこれまで、政治家や政党工作員に自らの運命を委ねてきた。選挙のたびに金、時間、動員を民主党に提供、そしてその見返りは年々少なくなっていった。組合役員が民主党背広組を牛耳っていたのは昔のこと。今は組合幹部も民主党議員と同じようにNAFTAに満足しており、NAFTAの打撃を受ける現場労働者組合員とは完全に切り離れている。彼らはウォール・ストリートの株博打で儲け、シリコンバレーの億万長者に憧れる。チャーター・スクールなど教育民営化を提案したり支持するくらいだ。だから、一般労働者はエリート幹部や民主党が推すクリントンを同類と見て、彼女に投票しなかったのだ。
 少しだけだが、今度の選挙で労働組合と選挙戦略に関する議論があった。アメリカ通信労働組合(CWA)、全米看護師連合(NNU)、米国合同輸送組合(ATU)、港湾労働者組合、電気労働者組合(EU)、米郵便事務労働者組合(PW)などが、クリントン支持の米労働総同盟・産別会議(AFL─CIO)に逆らって、民主党予備選挙でサンダースを支持した。もしも、サービス従業員国際組合(SEIU)、アメリカ教員協会(AFT)、全米州郡市町村職員連盟、全米教育協会(NEA)などの大組織がサンダース支持に回っていれば、今回の選挙はまったく異なる形相になっていただろう。
 サンダース陣営は、クリントンと違い、斬新な社会・経済的提案を行った。トランプは「斬新さ」の装いとムードを匂わせただけ。何世代にもわたって我々労働者の期待を低めてきた二大政党政治家と異なり、労働者に希望を持てと語りかけた。世界一金持ちの米国が全国民のためのヘルスケアを実施できないはずがない。すべての子どもに最良の教育を提供できないはずがない。化石燃料に代わる持続可能なエネルギー開発ができないはずがない、と訴えた。 たとえトランプが大統領になっても、サンダースが提案したことを、労働者が自らの課題として大声で要求し続けることだ。希望を持って闘うことだ。

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