進まぬ原子炉解体作業 広がる汚染

福島第一原発事故・廃炉作業の現状

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 小出裕章さんインタビュー

 東電は3月末、「凍土遮水壁」の運用を開始したが、5月になって、計測地点の約1割で凍っていないことがわかり、62カ所でセメントを注入する追加工事を行っている。さらに東電は、事故前に定めていた年間の管理目標値の三倍超にあたる7420億ベクレルの放射性セシウムが海に漏出していたことも明らかにした。福島原発の現状と廃炉作業について、小出裕章さんに電話インタビューした。

(文責・編集部)

編集部:福島第1原発では、汚染水問題が相変わらず問題となっています。現状は?
小出:まず、汚染水の発生原因から説明します。原子炉でウランを燃やすと、核分裂生成物という放射性物質が生み出されます。これらは高いエネルギーを発しており、事故直後は原子炉を熔かしてしまうほどの熱を放出していたわけです。
 熔けた炉心は、何処にどんな状態であるのかさえわかっていませんが、どこかにあることは間違いないので、とにかく注水して冷やし続けてきたのです。事故から5年以上経って発熱量は減少していますが、注水し続けなければ再び原子炉を熔かしてしまう可能性があります。これが汚染水が増え続けている理由です。
 既に、85~90万トンの汚染水が敷地内に溜まっています。東電は、汚染水からセシウムやストロンチウムを除去するための装置を設置しており、汚染濃度が下がったものもありますが、高濃度のままのものもあるのが現状です。ところが、トリチウムという放射性物質の除去はどうやっても不可能で、当初の濃度のままなのです。
 東電が敷地内に設置したタンクは、限界を迎えており、当初設置した応急的タンクから汚染水漏れ事故を起こしていますが、それでも使い続けないといけないほど汚染水は増え続けています。このため近い将来、トリチウムを含んだ汚染水を海に流すことになると思います。

編:汚染水増加の原因として地下水の流入があり、これを減らすために凍土壁を造りましたが、うまく機能していません。どう対策しようとしているのでしょうか?
小出:地下水には、流れの強い場所も弱い場所もあるので、凍らないところが必ず残ると思っていましたが、予想どおりになっています。凍土壁を造り始めて1年以上経ちましたが、コンクリートと鋼鉄でできた新たな遮水壁を造ろうと思えば何年もかかってしまいますので、東電は、何とか凍土壁で乗り切ろうと思っているようです。そこで彼らは、凍らない部分だけはコンクリートを流し込んで遮水壁を造ろうと言い始めています。しかし、先日も冷凍機の電源が落ちる事故が起きました。今回は短時間で復旧しましたが、停電が長時間にわたれば凍土壁そのものが消えてなくなります。
 いずれにせよ長期間にわたって凍土壁を維持し続けるのは、技術的に無理だろうと思いますので、結局は、コンクリートか粘土で遮水壁を造ることになると思います。

石棺以外に選択なし

編:原子炉解体作業の進行状況は?
小出:廃炉作業の最重要課題は、何処にあるかもわかっていない熔け落ちた炉心をどうするか?です。国と東電が作成した廃炉ロードマップでは、熔け落ちた炉心を探し出して回収するためにさまざまなプランを提示していますが、いずれもうまくいっていません。このため、ロードマップは何度も書き変えられ、新たな方法を見つけようとしていますが、結局無理だと思います。
 したがって私は、地下に熔け落ちた炉心も含めて全体を石棺で覆うしかないと思っています。石棺方式とは、チェルノブイリ原発の処理方法です。ただし、チェルノブイリ原発の場合は、地下構造は破壊されませんでしたので、熔け落ちた炉心は、地下室で固まってくれたのです。
 ところが福島原発は、巨大地震で原子炉建屋もタービン建屋もガタガタに破壊され、そこから地下水が大量に流れ込み、汚染水が敷地に漏れ出している状態です。したがって、放射能を閉じこめる福島第1原発の石棺は、地上だけでなく地下にも壁を造らなければならないのです。
 さらにチェルノブイリ原発で事故を起こしたのは1基だけでしたが、福島は3基です。つまり、福島原発の石棺は、地上だけでなく地下にもおよぶ構造物をチェルノブイリの3倍の規模で造ることになります。本当にたいへんな作業になるでしょう。何十年かかるかわからないし、できたとしても、チェルノブイリ原発の石棺は、事故後30年経ってボロボロになり、さらに大きな第2石棺を造っています。
 つまり、福島原発を覆う石棺が数十年後にできたとしても、さらに数十年経つとボロボロになって第2石棺を造らねばならないことになると思います。本当に気が遠くなるような作業ですし、そんなことでいいのだろうかと思いますが、できることはそれしかないと思います。
 さらに、石棺を造る前にやらねばならない作業があります。原子炉建屋に残っている使用済核燃料を回収し、より危険の少ないところに移す作業です。ところが、プールに貯蔵されている核燃料回収作業が始まるまでに何年かかるのか?目処すら立っていませんし、開始されたとしても、上手く回収できるかどうかもわからない。この燃料回収作業も、3つの事故原発全てで行わねばなりません。本当にたいへんな作業です。

東京・関東への汚染の広がり

編:東京・関東での被曝による健康被害が懸念されています。実情は?
小出:3月11日に大量の放射性物質が大気中に放出され始め、3月末まで激しい汚染が続きました。それらが風に乗って関東・東北の広大な地域を汚染しました。私の試算では、東北・関東地方の約1万4000平方キロメートルにおよぶ面積が放射線管理区域に指定されるべきレベルまで汚染されたと考えています。「放射線管理区域」とは、一般の人の立ち入りが禁止される区域ですし、私のような特別な放射線業務従事者でもその中では飲食が禁止され、トイレも造ってはいけないような場所です。
 これに対し政府は、3月11日に原子力緊急事態宣言を発して、これらの法律を反故にする措置をとりました。つまり、本来人が住んではいけない区域から避難させるのではなく、その地に人々を放置したのです。緊急事態宣言は、今も解除されていません。
 東京でも江戸川区・葛飾区には、放射線管理区域に匹敵する汚染地域があります。そうした地域で住民が食事をし寝起きしているのですから、どんな健康障害が起こっても不思議ではありません。
 さらに、水の汚染があります。福島の汚染水は、今も太平洋に流れ続けていますし、関東一円の河川は、ほとんどが東京湾に流れ込んでいますので、大地に降り注いだ放射性物質は、風雨によって川沿いに東京湾に流れ込み、東京湾の汚染は時間の経過とともに進んでいます。ただ、現在では、東京湾で捕れた魚介類を食べるようなことは少なくなっているので、東京湾の汚染で人々の被曝が劇的に増えることは考えにくいです。
 東京の人々が注意をしなければいけないのは、2011年3月中に大気中に放出された放射性物質です。汚染された江戸川・葛飾区、奥多摩地方では、大地の汚染に気をつけるべきですし、ホットスポットもあります。雨樋の下や側溝の泥などは強く汚染されているので、注意をして、生活環境からできるだけ遠ざけるべきだと思います。

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